犯罪履歴
「実は俺な、この辺りで指名手配されてるんだ」
一緒に街の見学に行こうと誘ったらそんなことを言われた。
「何をしでかしたら指名手配犯になるんだよ」
あきれ半分で言う。
数時間しかない時間しか共に過ごしていないが、そのような犯罪を犯すような人ではないと信じたい。
「話せば長くなるぞ、相棒。それでもいいのか?」
「焦らさないで早く教えて」
「いいさ。あれはな一夏、いや、二夏前の出来事さ……」
「ねえ」
「なんだ?」
「普通に話して」
「わかった。一昨年の夏に近所の人のペットが立て続けに消える事件が起きたんだ。犯人は結局見つからなくてよ。俺の両隣、上下の四つの部屋のペットが消えたらしいんだ。それで、疑惑が俺にかかったとき、ペットの死体が見つかった。それは、山に捨ててあったのだけれど、無残に切り刻まれていてよ。俺が犯人だと、近所の被害者が俺を指名手配まで追いやったという事さ」
ペットという単語に疑問を持ったが後に回す。
話を聞いて、正直ただの言いがかりではないかと、僕は思う。
「証拠とかは見つかってるの?」
「いや、何も見つかってねえ。切り刻まれた跡しか証拠になるようなものもなかった」
「鎌爺の刃の跡と同じだったってこと?」
「俺にはわからねえ。何せ怖くなって逃げちまったからな」
逃げてしまったとはどういうことだろう。鎌爺は話を続ける。
「俺の個性はなかなか珍しいんだ。それで、この跡は俺の個性しかありえないと言われて、俺が告発された。俺は、刃型の確認だけさせてくれと言われたが、怖くて検査直前に逃げ出したんだ」
鎌爺の個性が珍しいのはなぜだろう。カマキリならその辺で沢山見つかると思うのだけど。
でも、カマキリの生存確率は、一パーセントと言われている。それと関係があるのかな。
「その後は、どうなったの?」
「俺が犯人という扱いになって、事件は幕を閉じたのさ。そして、犯人は行方不明と」
「犯人は鎌爺ってことになっちゃったんでしょ?行方不明ってどういうこと?」
「俺はこの下で拠点を構えて暮らしているのさ。流石に周りの目も地下にまでは届かないという事だな」
待ってくれ。同情してあげたい気持ちもあるが、これでは僕も地下に住み着くことになってしまうではないか。
蛮勇でもなんでもいいから発揮して、今の状況を改善してもらわないと困ってしまう。
「違うって言いに行かないの?」
「俺はもう諦めたのさ。死んでやろうと思った頃にお前がいたということさ」
そうか。つらい人生を送ってたんだな。
僕は死にたいと思うぐらいつらい状況に直面したことはないけれど、死ぬのはもったいないと思う。
少しでも鎌爺がこの世に留まり続けたいと考える理由になってあげたいと、僕は思う。
二人で地面に座り、何も喋らず空を見上げた。
横に座る鎌爺の苦しみが僕の中にひしひしと伝わってくる感じがした。
「鎌爺、一回家に帰ろう。そろそろ空も暗くなってきたよ」
気付けば空は赤くなりかけている。そろそろ帰りどきだろう。
「そうだな、帰るか」
カマキリは夜行性と昼行性、どっちだったろうか。




