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僕と不思議な個性の街  作者: 東京駄々
3/12

路地の外

 カマキリ男もとい鎌爺(かまじい)の背中に乗り、壁を登った。


 どこかの映画にこんなシーンがあった気がする。気のせいかもしれない。


 上を見ると、遥か彼方だと思っていた空がぐんぐん近づいてくるのがわかる。


「相棒の名前はなんだ?」


 鎌爺も名前を教えてくれたことだし、教えるのも道理かと思った。

 でも、僕はそこまで素直な性格ではない。


「鎌爺が好きなように呼びなよ」


 ニヤニヤしながら言ってやった。


 鎌爺は必死に考えてくれているらしい。う~んと(うな)っている。


「じゃあ、相棒だな」


 結局そこに落ち着くのか。

 別に名前に(こだ)りたいわけじゃないので、それでいいと言っておく。


「相棒はどこに住んでるんだ?また会いたいからな、場所だけでも教えてくれ」


 そんなことを言われても、いきなり僕はここに連れてこられたのだ。家などない。


「今の僕は住む場所がないんだよ、鎌爺。よかったら鎌爺の家に泊めてくれないかな」


 もう、警戒なんてしていなかった。それに、話せば話すほど僕は鎌爺が好きになった。


 住む場所がないので鎌爺の家にでも泊まれたらいいなと、さっきから思っていたのである。


「俺は、問題ねえぜ。家もまだまだ余裕があるしな」


 鎌爺の家はどこにあるのだろう。そこまでいい家は期待していないが広い家がいいな。

 広い家に住むのが夢だったし。


 寝床は確保できた。


 そして、そんな話をしていると、すぐそこに出口が近づいていることに気付いた。


 鎌爺がよいしょっと最後の踏ん張りとともに地上に出る。

 太陽の光が一気に当たった。眩しくて目を細める。


 光にも目が慣れ、周りを見渡す。

 ベンチに座って本を読んでいる人が一人いた。それ以外に人は見当たらない。


 周りの建物は、昨日まで僕がいた場所と大差がないように見えた。

 建物の高さは低めで、家々もスペースに少し余裕を持って並んでいる。


 緑が多くていい街だと思った。


 そういえばと、ベンチに座っている人を見る。

 ここからは顔と本しか見えないが、多分普通の人間だと思う。そう信じたい。


 ベンチに座った男の人を人間であれと念力を送りながら見ていると、努力も(むな)しく、男が時計を見た後、慌ただしく立ち上がったと思ったら、羽を広げて飛んで行ってしまった。


 コガネムシの体をしていた。


 それが人間大まで大きくなっているのだから、太陽の光を反射している肌はとても鮮やかな光沢(こうたく)を放っていて、それがとても幻想的(げんそうてき)に見えた。


「なにボーっとしてんだ、相棒」


「なんでもないよ。でも、本当に人間がいないんだね」


「まだそんなことを言ってんのかよ。個性だよ。個性のない人間は、人間じゃねえさ」


 鎌爺の言うことは、頭でぐるぐる回るが理解が追い付かない。

 僕は思考を停止させて、ベンチから鎌爺に視線を移す。


「鎌爺の家はどこ?」


「俺の家か。行こうと思ったらまた下に降りなきゃいけねえぞ」


 下からしか通れない場所にあるのかな。

 それはそれで秘密基地のようでいいかもしれない。


「そっか、じゃあこの辺りをぶらぶらしよう」


「相棒ちょっと待て、ここからは一人になっちまうぜ」


 僕はてっきり鎌爺が案内してくれるものだと思っていた。

 でも、ついてこれない理由があるらしい。


「なんで?一緒に来てよ」


「最初に言っただろ。俺が人に会うのが久しぶりって」


 確かにそう言っていた。だからうれしくなって、からかったって。


「実は俺な。この辺で指名手配されてるんだ」


 鎌爺は犯罪者(?)だった。


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