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僕と不思議な個性の街  作者: 東京駄々
12/12

探検

 今日は、地下を探検しようと思った。


 昨日までの数日間は外の街を練り歩いてみた。

 そのおかげで、ここの風景を堪能できたし、おいしいコーヒーの店も見つけられた。


 あれから毎日、キブリゴおじさんのコーヒーを飲みに行っている。何故かおじさんは、最初の日以来は代金をもらおうとしなかった。なぜかと聞いたら、「私はおいしいの一言で満足していますので」と言っていた。

 この日以来、僕はキブリゴおじさんを尊敬するようになった。


 僕は、何か大きなことを成し遂げてやろうと日々考えてきたが、キブリゴおじさんがしていることも、ある面からみれば十分大きなことなのだと感じた。


 僕にとって“大きなこと”の基準がだんだんと定まってきていて、夢に一歩近づいたなと感じる。


 まあ、その話は今度にとっておいて、今日は地下の探検だ。


 今までは、拠点やら外の街やら回ってみたが、まだ行っていない場所がある。

 それが、『地下』だ。拠点の入り口がある、この、路地のような場所を僕は勝手に『地下』と呼んでいる。今日は、その探検をしようと出てきたのだった。


 水筒と昼飯をショルダーバックに入れて、肩にかける。

 今日は一日を探検に費やすつもりだ。


「上に気を付けて行って来いよ」


 鎌爺が見送ってくれる。上からゴミでも不法投棄する人がいるのだろうか。


「行ってきます」


 意気揚々と答える。


 早速目指すのは拠点から出て左側の通路だ。なぜなら、初めて鎌爺に会ったとき、右の方向に走って逃げたのだが、行き止まりしかなかったためだ。なので、今回は反対の左に行く。


 ずんずんと道を進んでいく。こちらも右の通路と同様に殺風景だなと思う。


 基地のような鎌爺の家が見えなくなってからもしばらく歩いていた。

 殺風景なのは変わらないが、道端に錆びて使えなさそうな自転車が転がっていた。


 なんで自転車とも思ったが、一旦無視して前に進む。


 すると、しばらく進んだ先にも自転車がある…。

 それは、まだ新品のようで陽光をなめらかに反射している。いっそのこと利用してしまおうと思った僕は、その自転車に乗って探検をすることにした。


 乗り心地は悪くない。でも、サドルのネジが緩いのか座る部分が漕ぐたびにバネのように飛び跳ねる。このバネのような感覚はわざとそうされているようだった。

 乗りにくいったらありゃしない。


 途中からはバネの感覚に飽きて、立ち漕ぎすることにした。


 自転車で進んでいると、前にも自転車その先にも自転車といったように大量の自転車が倒れた状態で置かれているのが見えた。

 鎌爺はここの自転車を利用して拠点を建てたのか。すごいな。


 そんなことを考えていると、上の方で何かがぶつかる音がした。

 上の方とはつまり地上である。


 上を振り向くと遠すぎるのと逆光で見えにくいが、小さい人影が大きな自転車を<地下>に落とそうとしているようだった。


 小さな影が自転車から手を離すと、重力に従って自転車が落ちてくる。


 そして、地面に落ちた。


 ガシャーン。


 大きな音がして、びっくりしたが納得したこともある。

 自転車が地下に散乱している犯人は、あの小さな影だ。正面に落ちてきた自転車を見ると、周りに落ちているものと大きさは大して変わらない。自転車よりも小さかったあの影は、小さな子供だろうか?


 不思議が残ったまま、僕は引き返して帰ることにした。


 なぜなら、目の前にはうず高く積み上げられた自転車の山があったからだった。ひょっとしたら地上まで届いているのかもしれないと思った。


 今度、上から眺めてみようと考えながら帰り道を進む。


「よう相棒! 怪我はねえようだな」

「上から自転車が落ちてくるって、出発前に教えてくれてもいいのに。おかげで肝が冷えたよ」

「それこそが探検だな!」


 鎌爺はニカッと笑って歯を見せた。鎌爺の歯は野菜ばかり食べていることが関係しているのかは知らないが、光りそうなぐらい白い。


「うん、探検だった!」


 僕も同じように笑いながら答えたのだった。

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