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僕と不思議な個性の街  作者: 東京駄々
10/12

キブリゴおじさん

 次の日である。

 昨日は本当に大変な目にあったと思いながら体を起こす。


「朝飯の準備ができたぞ、相棒」


 鎌爺の声につられて、自転車の積み上げらている第一の部屋に行った。

 いつの間にかこの部屋にも机が置かれていた。鎌爺が気を使ってくれたのだろう。


 鎌爺に昨日の顛末を伝えられていない。勇気を出してみよう。


「鎌爺、昨日のことなんだけど…」


「ああ、相棒は何かに追われていたのか?まあ、珍しい個性だから、そういう、もの好きにでも絡まれたのだろう?」


「いや、違うんだ。壁の上に行った後、道なりに進んで行ったところのカフェに立ちよったんだけど…。そこの亭主がゴキブリで…」


 鎌爺は思案顔で考えた後、あっ、と声を出す。


「キブリゴおじさんのところに行っていたのだな、それでどうした?」


 やっぱりそのままなんだな、名前。

 僕はパンにはちみつを塗りながら答える。


「それでどうしたって言われても、何もなかったよ。たださ、僕の前にいた…う~ん、なんて言えばいいかなあ。…僕のような個性を持った人はあの亭主の個性が苦手なんだ」


「そういうことか。ときどきあるさ、そんなもの。ちょうど昔の俺の住んでいたアパートの被害者の一人が、オタンブッバという名の五十路(いそじ)の女でな。昔から俺のことを毛嫌いしていた」


 その人は、オンブバッタかな。

 カマキリの主食だからね。嫌われるのもわかるよ。


「そっか、普通のことなんだね」


 そう、普通のことなんだ。苦手な人がいるというのは。

 鎌爺は、はちみつが塗りたくられたパンを一息に口に入れ、もぐもぐと食べる。

 ごくんと飲み込むと、真剣な顔で僕のことを見る。


「だがな、苦手だからといって逃げてはいかんぞ相棒。相手はお前と仲良くしたいと思っているかもしれんし、お前が壁を作っているだけで、本当はいい奴なのかもしれん」


 鎌爺の言っていることは正しい。僕が壁を作っているだけなのだ。

 今日、また行ってみようかな。わかってて行くんだったら、まだ大丈夫かもしれない。


「鎌爺、僕また行ってくるよ。あのカフェ」


「お!良い心がけだ。キブリゴおじさんはな、若者が本当に大好きなのだ。お前のことも気に入ってくれると思うぞ」


「うん、わかった」


 朝食も食べ終わったことだし、出発しようかな。鎌爺が、皿を片付けようと立ち上がる。


 あ、でも。昨日は、懐かしくて何も考えずに入ってしまったけれど、お金はどうしたらしいのだろう。


 一応、財布は持っていた。中には、なけなしの五百円玉が入っている。ほかには何もない。カードなどもあったはずだが、前に家に置いたままになっていた。


「鎌爺、お金はこれでいいの?」


 五百円玉を出しながら言う。

 皿を持って部屋を出ようとしていた鎌爺が振り返り、僕の手元を見る。


「お金とやらが何か知らないが、珍しいものが好きだからな、それでも飲めるだろうよ。だが、物よりも、若者の話を聞くのが好きだと言っていたよ。お前も人生相談でもして来い、相棒」


 そう言って、出て行ってしまった。

 話、か。流石に長い時間あの見た目と話すのはつらいと思う。今日は、この五百円玉で一杯飲んでみよう。


 一息ついてから一言でも話しかけることが出来れば僕としては上出来だろう。

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