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魔王ちゃん、すぐ泣く  作者: 塩坂越
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魔王ちゃん、最後の戦い

 「ふははは!!よく来たな勇者の末裔よ!!

そなたらを返り討ちにして臓物……ちが、返り討ちにしてくれよう!!

大臣らもよく見ておれ!!いつもいつも文句ばっか、たまには余の力を見ていてください!!!」

勇者(15)が魔王討伐のため旅に出たのは15になった誕生日の朝であった。

国王からの呼び出し、母親からの言葉、離婚後に蒸発したと思っていた父が実は先代だのといった

各種お約束をこなしたあととても素直な勇者は斡旋所にて女子会を開き4人パーティを結成。

『男がいると女の子同士の旅が楽しくなくなる』といった

思春期特有の『男いらない論』と同調圧力により旅に出たのが半年前。

それから前例にないスピードでめきめきとその実力の頭角を表し決戦の地へとやってきたのであった。

勇者は賢く、人を惹きつける天性の素養、持ち前の指示癖を持って

超絶スムーズに魔王の城も踏破。

ついでに親切にも設置された各メンバーの推定最強装備も難なくゲット。

その後一旦街に戻ってスイーツバイキングを貪り尽くした後、決戦を今迎えていた。


 勇者は所謂天才であった。

他に類を見ない程のスピードで駆け上り且つ仲間も順当に育て上げた。

彼女がいなければ仲間も今頃はどこかその辺のいい男とアゲていたところだったはずである。

そのため勇者にさえ出会わなければ、と思うこともままあった。

街を支配していた怪物や魔物や幽霊も簡単に撃破出来た。

封印するしか手の打ちようが無かったはずの魔物も倒し安寧を取り戻した。

しかし彼女は決して誰も見下しはしなかった、その才能を人々のために使うと決めていた。

誰も虐げず、弱き者も強き者も平等に助け、あるところに不平等や差別やその他の問題があれば解決し

時には飲食店でバイトもし、シフトを守った。

面接時に週5で入れると言ったのにいざとなると週3しか無理だったこともあった。

誰よりも真っ当に正しくあろうと、それこそが自分の生きる道であり

更にはそうすることによって自分の持つ力もまた高めることができるのだと信じていた。

よくわからんことにはエビデンスを求めたりもした。

それでも尚、今正に感じる肌がチリチリと焼け付くような緊張感と存在感。

内蔵が裏返り血が冷え切ってしまうかのような圧力。

周囲をちらりと見渡すと仲間である女武闘家(ピアス大好き)、女僧侶(合コン好き)、女賢者パリピも同様の表情である。

勇者(若干ギャル・ネイルアート好き)はデコった剣を見ながらこれが最後の戦いであることを悟った。

この戦いが終われば勇者の役目も終わる、バイトしなくてもお金持ちになれると思う、

人々に平和な世の中を、通信魔法友達、マッチング魔法、後腐れない関係を。

「その程度でよくここまでこれたものだ、余の前に立ったことを後悔するがよい!!

もうちょっとその剣をよく見せてみよ!!」

可愛いものは魔王に若干効果があった。(ただし男受けはあまりよくない)

「魔王め!人々を苦しめる諸悪の根源!!今ここで滅びるがいい!!

皆ッ!スイーツバイキングで打ち合わせした通りに!!」

了解だし』声が響いた。今決戦の火蓋が切って落とされる。


 女賢者が女武闘家に以前出会ったとても顔がいい男の通信魔法番号を交換しながら身体能力その他を補助する魔法をかけ、

女武闘家は汗をかきすぎてメイクが落ちないように気をつけながら飛び出し、

女賢者は甘すぎず苦すぎない女子()とスイーツに最適な紅茶のブレンドを思い出しながら大魔法の詠唱に入る。

女武道家の超人的なスピードは、今まで出会った者誰一人として見切ることは出来なかった。

全速でフェイントを入れながら高速移動、その動きの速さにより残像が浮かび上がる。

彼女は魔王の背後から回し蹴りを放つ、普通の人間であれば確実に頚椎を捉え砕く一撃だったはずであったが容易く腕で防がれる。

すかさずその腕を引き剥がしその勢いを利用して逆の脚で脳天に対し一撃を放つ。

が、それも読んでいたと言いたげな表情で笑いながらかわされる。

そこに女賢者がその絶大な魔力を収束し大魔法を放つ。

そのスピードと現在並ぶものはいないであろう体術で魔王に相対する女武道家(愚痴友)が

脳天に放った一撃を防がれ距離を取った瞬間に超小範囲超威力の爆撃。

意識の外から放たれたはずの攻撃、瞬間的に発生したスコールのような魔力奔流。

今まで出会った敵であれば滅しきれないまでも数秒動きを止める程度のダメージは与えているはずである。

そのはずが、ダメージなどまるで受けていないかの如く余裕の笑みで君臨する魔を統べる王。

四人がかりでさえ圧倒される力、禍々しく伸びた角、小柄で可愛らしい体躯、サラサラの髪、

大きくて紅い眼、鋭い眼光、魔力を持たぬ者ですら直感で理解する巨大な魔力、センスが伺える可愛らしい服。

女勇者は剣の柄につけたご当地キャラのキーホルダーを外し魔王に攻撃する隙を見逃すまいと集中し剣に魔力を貯める。

その際確実にネイルが剥がれない程度に強く剣を握りしめた手に汗が滲んだ。


 「これが現魔王の力、今の私達の全力でも……勝てるかどうか」

女武闘家が道具袋からコットンと馬油・化粧水・乳液を取り出しメイクを整えながら呟いた。

「これが最後の戦い!皆頑張って!!私が少しの間時間を稼ぐから!!

その間に詠唱ともう一度女武闘家ちゃんに補助!それと全員の回復を!!!」

「りょ」

このままではジリ貧である。

女勇者はまだ自身に体力が残っているうちに先程貯めておいた現在放てる最高威力の魔力剣撃を魔王めがけて放った。

「甘いわ!!その程度で余の体に傷をつけられると思うたか!!

ふははは!!慟哭を!!悲哀を!!絶望を!!怨嗟を!!テンション上がってきたのじゃ!!

それ!!そのまま返すぞ!!」

魔王がそう言うと高笑いと共に女賢者と女勇者から受けたであろう魔力の一撃を

一行にそのまま放った。

どうやら魔力による攻撃を自身の体内で蓄積しそのまま放つ特性を持つらしい。

今までこんな魔物には出会ったことが無かった、経験の少なさが仇となった。

『判断を誤った』と女勇者は思った、この一撃をまともに受ければ対魔力障壁を張っても

元々タフネスと根性に不安のある三人は無事ではいられない。

少なくとも今月はもうバイトに入れない、残りは2週間もあるのに。(暦は12月365日うるう年ありである)


 「はぁ、はぁ……」

全ての魔を統べる王たる所以、その絶対。

その力の片鱗、自身らとの差をこの短時間に女勇者は感じていた。

『いくらなんでも強すぎる』勝てないかもしれないと女勇者は思った。

今まで放った攻撃が各々の全力、最大威力の攻撃である。

バリエーションや戦術で言えばまだまだ女勇者らも底を見せてはいないものの

戦い続ければ体力が無くなってしまうことは明白、そうなれば自明の理である。

つう、と先ほど魔王が放った強力な一撃で切れた頬から血が滲んだ。

余裕が無くなる前に些細な傷も回復しておかねば、そう思った矢先に魔王が叫んだ。

「……!!あ!!アァァァァァあああ!!!

ぎゃああああああ!!!血が、血が出とるのじゃあああ!!!!

ぎゃあぁぁぁぁあ、怖いぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

「え……?」

「はよう!!はよ回復せんか!バカ!!ほら、こっちに見せんとはよ!!

うぅぅぅ怖いのじゃぁぁぁ戦ったら血が出るのじゃぁぁぁぁぁ苦手じゃぁぁぁぁ。

反撃なんてせんければよかったのじゃぁ……うっうっ、うぅぅぅ~~~。

大臣~~~ちょっとテンション間違ってもうたのじゃぁぁぁぁ……うっく、うっ、おえっ吐く」

「魔王様……なんとお可哀そうに……。

ではワシはちょっと勇者殿に提案してみます」

「うぅ、頼むのじゃ。あぁ~窓から花畑みると気分が良くなるのじゃ~~。

都会の喧騒も鬼のような人混みもここには無い、何も無いが、あるのじゃ……」

魔王は少々トリップした。


 「あの、勇者殿」

魔王に大臣と呼ばれた随分年老いた魔物がおずおずと勇者の元へやってきてこう言った。

「魔王様は血とかR-15指定されそうなものが大変苦手ですので、その……

言いにくいことではあるのですがちょっと控えて頂けると助かるのですが……」

「へぇ?」

魔王が涙を拭いながら訴えかけるような瞳でこちらを見つめていた。

最終決戦、小休止。

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