7.夢魔との遭遇
読みに来てくれてありがとう!
突如現れたロリッ子・ネメルコーネ!
ーーロリ、最高です。
2020/02/01
なろう定型版に改変いたします。
◆
――ネメルコーネ。
その名は、誰もが知る、恐る魔物の名称である。
「お、お前まさか、魔王軍幹部なのか?」
動揺を隠せないアレン。
その問いの答えとして、ネメルコーネは、
「その話をまさにするつもりだったのだ。とりあえず、ワッチと飯を食おうではないか」
朝食が並ぶテーブルの椅子に座り、ナイフとフォークを持つ。
――ネメルコーネ。
『睡眠欲』夢魔王・ネメルコーネその人は、金髪ロリの田舎少女だったのだ!
「早くせぇ。君が座らぬと食事が進まんだろう?」
「あ、あぁ。戦う意欲はないのか?」
「さらさらないわ。そもそも、こんなか弱い娘が殴る蹴るの戦闘をこなせると思うのかの?」
「……ならいいさ。付き合ってやるよ」
と、アレンもテーブルの椅子に腰掛け、ナイフとフォークを取った。
――朝食は、フレンチトースト・ハム・ポタージュ・ベーコンエッグ・サラダといった、かなり朝にしては豪華なものであった。
「では、いっただーきまーす!」
ネメルコーネはフォークとナイフをテーブルにつけ、大声を上げるとともにそれらをでたらめに口の中へと運ぶ!
目玉焼きの黄身がテーブルに飛び散り、フレンチトーストの破片が口周りにべっとりと染みつく。
「ネメルコーネ。食い方汚いな」
「良いではないか! ワッチは食事なぞせんのでな、こういう風に誰かと飯を食うのが嬉しいのだ!」
「そうか」
アレンは金髪ロリ娘を警戒しながらフレンチトーストを口に運ぶ。
――と、アレンは目を大きく開き、
「な、なんだこれ! こんな絶妙な甘さのフレンチトーストは初めてだ!」
「そじゃろ?! なにせ、ワッチが考えた最高のメニューであるからな! 味覚を刺激する食事を考案するのはなかなか難しいのでな、たんと食え!」
ネメルコーネはニシッと笑い、八重歯を見せる。
「お前、魔王軍幹部の割にいい奴だな! 俺を勇者と知っていながらこんなに優しくしてくれるなんて!」
「じゃろ? ワッチも君の警戒が解けてやりやすくなったわ!」
――と、会話を交わしながらアレンとネメルコーネは食事をする。
アレンもあまりにも美味な食事に舌鼓を打ち、彼女と同じように汚い食べ方になってしまっていた。
◆
――ごちそうさま、と森に響く。
皿の上にあった料理は平らげられ、アレンとネメルコーネの二人の胃袋は完璧に満ち足りた。
「さて、勇者アレンよ。そろそろワッチが君の『夢』の中に現れた理由を話そうか」
言葉を発したのは、ネメルコーネ。
「……やっぱりこの中は俺の『夢』なんだな。夢魔ってだけあって、こういう芸当はお手の物か?」
「左様。夢の中は静かで良いところだ。死や失念、劣等も無く誰もが幸せと理想を両立できる。――そして、監視の目もなくてよいしな」
ネメルコーネは指を鳴らすと、テーブルと食器は消え失せ、椅子のみになる。
アレンとネメルコーネは向かい合い、
「で、俺に話ってなんなんだよネメルコーネ?」
「ネムと呼んでくれ。ネムちゃんでもよいぞ?」
「はいはい、ネムちゃんね」
「……ちゃん付けには抵抗はないのか?!」
ネメルコーネの頰が赤く染まる。
照れ隠しで、彼女は長い前髪をくりくりと弄ると、
「お前みたいな奴が現実にいてな。今更、恥ずかしいなんて思わんさ」
笑い、アレンは顔を赤くした。
――言われて急に恥辱に襲われたのである。
「ごほん! そんなことよりも、勇者アレンよ。簡潔にいうならば、『世界への叛逆』の準備が完了しつつある。それを止めてもらいたいのだ」
ネメルコーネの顔が真剣な表情になると、
「……魔王か?」
アレンが聞く。
「左様。君がこの世界に召喚されたと同時に、魔王・ガルガナックの動きが速くなった。その理由は数多くあるが、その中には私の『悪の覚醒』もある」
「――悪? どういうことだ?」
アレンの表情が曇る。
思えば、ネメルコーネはそもそも魔王軍幹部である。
しかし、その『悪の覚醒』の意味を聞いたのだ。
「悪の覚醒――。もとより、私は悪ではない。まぁ、とりあえず過去の話をするとしよう。あれは、千年前のことである」
――千年前。
夢魔達は空と海との間にある理想郷に土地を築いていた。
そこにある夢魔城の王……夢魔王として君臨していた頃のネメルコーネ。
彼女はいつものように昼寝をしようとベッドの上でゴロゴロしていた時のだった。
「――ネメルコーネ様! 魔王が攻めてきます! たった一騎で、第三防衛ラインまで突入しているとのこと!」
「――なんじゃと?! なぜ、突然!」
ネメルコーネは従者達の焦る声を聞き、やっと外の異常に気付くのだった。
それほど、突然の出来事だったのである!
「狙いは、おそらくネメルコーネ様です! 『夢魔王』を引き渡せと!」
「ぐぬっ、ついにワッチの存在の価値に気付いたということか……!! ガルガナックめ、ワッチが捕まるわけには行かぬ!」
ネメルコーネはベッドから起き上がると、ドレッサーの隣にある筒状の草に向け、
「兵士全名に告ぐ! 君たちはもう逃げるのだ! この場を捨て、直ちにだ!」
それだけ言い、草から離れる。
「ネメルコーネ様?!」
「……この城を捨てる。ガルガナックにこの城が見つかった以上、この場はどちらにしても無に還るだろう! 君も早く逃げるのだ!」
と、ネメルコーネは従者の方を向いた……。
が。
「あがっ……!!」
「君、とはこいつのことか?」
――太い声が、ネメルコーネの寝室に響く。
ポタポタと音を立てているのは、従者から流れてるおびただしい血だった。
「っ、嘘!」
ガルガナックの腕が従者に貫通し、声なく生き絶えていく。
そして、魔王は雑巾のように従者を投げ捨てると、
「夢魔王・ネメルコーネよ。我が名はガルガナック。突然だが、貴様の力をいただきに来た」
「……ふっ、ワッチが君なんかに服従するとでも?」
「せぬなら、力づくで捻じ伏せるが?」
ガルガナックは血塗れになった右腕をネメルコーネの頬に伸ばす。
「ワッチは何事があっても屈さんぞ?」
ネメルコーネは自分の身長の二倍ほどあるガルガナックを見上げる。
――恐ろしさを押し殺し、毅然とした態度で構えるものの、
「……震えておるぞ、泣かぬのか?」
と、ガルガナックはネメルコーネの首元を掴み、ゆっくりと締め上げていく。
「ぐっ……ぬ!」
「貴様の首をへし折るのは容易い。が、貴様を殺しに来たわけではなくてな。さぁ吐け、『勇者の宝玉』はどこにある?」
「……言わぬ! 言ってたまるものか!」
「ふむ」
と、ガルガナックはさらに締め上げる!
「ああぁぁぁっ!」
「早く言うのだ。我も貴様を殺すには惜しい。吐け、『勇者の宝玉』はどこだ?」
「言わぬ! ううっ!」
「……ふむ。やはり、吐かぬか。ならば、こうするまでだ」
ガルガナックは左手に黒い魔力を集めると、それを小さなネメルコーネの体に撃ち込む!
「ぬっ?!」
「『服従の呪痕』を撃ち込んだ。数分もすれば、我に従う清き部下になるぞ?」
「……言わぬ、言わぬっ!」
ネメルコーネはよだれを垂らしながら何度もガルガナックの腕を叩くが――。
戦闘能力がそもそも無い夢魔種では、対抗する術が一切ないのである。
――最後の切り札を除き。
「ペプリオ・クルジュル・フィオルナーティア」
「なんだ?!」
ネメルコーネは呼吸が苦しい中、呪文を唱え出したのである!
「だまれ! 何のつもりだ!」
ガルガナックはさらに彼女を締め上げる!
「くっ! ヌデリア・サッテ・クリオルト……!」
「黙れ黙れ!」
「グズ……バリオリ・カリバーン」
すると、ネメルコーネの体が徐々に青く輝き始め、ガルガナックの指が徐々に歪み始めた!
「――この魔力、まさか貴様!」
と、ガルガナックはネメルコーネから手を離し、自らのマントで体を覆った。
瞬間!
「凍結夢!」
唱え、彼女はベッドの上に落ちていった――。
ネメルコーネの体の周りからは青色の光が放たれ、大気すべてが眠ったかのように落ちていく。
光は脱落し、ホコリひとつなくなっていく!
「――自爆魔法を唱えてまで秘密を隠すとは、解せん、解せんぞネメルコーネぇ!」
ガルガナックはネメルコーネの魔力に包まれると、彼は立ち上がれなくなってその場に伏せる。
――異常状態、『永久睡眠』。
術者が特定の魔術を解くまで、永久に眠り続ける魔法である。
しかし、その魔法は術者にも作用する。
つまり、周りを巻き込んだ自爆攻撃に匹敵するわけである。
半径300mもの広範囲にわたる彼女の『凍結夢』はたちまち全てのモノを永久睡眠へと誘ったのだ。
「――これで、君は終わりだよガルガナック。ワッチと一緒に、いい夢を見よう……じゃない、か」
と、声が途切れるネメルコーネだったが、
「……魔王の『異常耐性スキル』を舐めるなよ、小娘がっ!」
ガルガナックは叫び、薄れる意識の中、どうにか魔界へと帰る異空間を床に作り出し、
「夢魔王・ネメルコーネよ。貴様には服従の呪痕を撃ち込んである。我が貴様に近づけば、それは再び作用し始める。さて、これから我は貴様に毎日のように会いに来てやる。――我の地道な努力が実り、貴様が服従して『凍結夢』を解くのが先か、我が諦めるのが先か。ぬふふふ、ぬははははははっ!」
――とだけ言い残し、ガルガナックの意識が飛び、床に開けた異空間の中へと吸い込まれていった。
魔王・ガルガナック。
『凍結夢』ですら数秒間耐えられる力を持つ化け物。
――魔王は、永遠に眠り続けるネメルコーネを従えるために、毎日のように、少しずつだが『服従の呪痕』の更新を行っているのであった。
そして、千年後の現在。
「――ガルガナックから受けた呪痕は、ほぼ完全体になっている。ワッチ本体がガルガナックに乗っ取られるまで、残り数ヶ月といったところなのだ!」
「そ、そんな! 千年間、ずっと奴はネムちゃんのところに通い続けたのかよ!」
「そうじゃよ! まさか、本当に成し遂げられるとは思わなんだ! 勇者アレンよ! ワッチを救ってくれぬか? ワッチの本体を!」
――これが、夢魔王・ネメルコーネの頼みことだったのである。
「だ、だけど、話によれば『凍結夢』って魔法は万象を眠らせる最強状態術だろ? 俺なんか、術内に入った瞬間に爆睡だぞ?」
「だからこそ、ワッチは君の夢に化けてでたのだぞ! これから任務を伝える! ワッチの『凍結夢』を唯一突破する方法があるのだ!」
ネメルコーネは裸足。
足の指を艶めかしく揺らし、
「宝玉の力じゃ! 勇者にしか扱えぬとされる宝玉がこの世界にはいくつかある! その中に、『眠れぬ恋の物語』と呼ばれる宝玉があるのだ! 効果は、全ての眠り耐性をマックスにし、眠り耐性無効貫通無効も持ち合わせておる! つまり、ワッチの魔法を掻い潜れるのだ!」
「――なるほど、それを手に入れろと?」
「左様! そして、ワッチの魔法を解き、ガルガナックの呪痕も剥がしてくれ!」
ネメルコーネは涙目になりながらアレンに懇願する。
そんな彼女を見、当然のように、アレンは自分の胸を叩いて、
「お安い御用だ! 俺に任せとけ! 前世で魔王をぶっ倒した実力を見せてやるぜ!」
「おおおっ! 勇者アレン、君は本当にいい奴だな!」
「へへへ」
――と、笑い合う二人。
だが、アレンは突然険しい顔になり、頭をスッと右に逸らす!
「うおっ!」
空を切るような音が響き、後ろの木に何かが突き刺さった音を聞く。
アレンは恐る恐る振り返ると、そこには桃色の液体が入った注射針が刺さっていたのだ!
「――ほう。これは見事。まさか、今のをかわされるとは思わなんだぞ?」
ネメルコーネの右手から煙が噴き出す。
まるで、彼女の右手から何かが高速で発射されたかのような!
「――今の何だよ!」
「惚れ薬じゃ。『ワッチにベタ惚れする』って呪いをこめた、な!」
と、ネメルコーネは椅子から立ち上がり、スッと両手に注射針を指の間・八本充填する。
「……万象の呪いを解く方法は数多いが、術式を解除できる賢者、ではない君がその中で可能だろう方法は『受呪者と厚いキスを交わすこと』なのだ。そりゃもう、舌と舌が捩れて卑猥な音が立つほどの厚い厚いキスじゃ」
ペロリと舌を出し、可愛く八重歯を見せる。
「ね、ネムちゃん!」
「ワッチはまだ男の肌を経験したことがなくてな。君も童貞だと聞き、まさにピッタリであると思ったのだ。――君にワッチのハジメテをくれてやる。君もそうしておいてくれ。お互いにハジメテを交わし合おう。良いな?」
ネメルコーネはアレンの顔を睨み付ける。
その顔はまさに、『私の初めてをあげるんだから、優しくしてよね!』とエッチの直前に告げる少し硬い表情をした女の子に同じ!
――いや、それ以上の気迫!
「そ、それってつまり俺は他の女の子を好きになっちゃダメだってことかよ! それは嫌だっ」
と、アレンは再び頭を八回、左右上下に振る!
――ネメルコーネの両手には、惚れ薬が充填された注射針は無かった。
ただ、両手からは蒸気とシューっと言う音がする。
「だから、ワッチに惚れろというておるのだ! さすれば、他の娘に惚れることもなし、万々歳じゃろ?」
「それとこれとは話が別だ! 俺はネメルコーネの呪いは解くが、絶対にそういう目的ではしないからな、キスは!」
アレンは第三波が来る前に戦闘態勢に入る!
両腕に『無詠唱』によって術式を装填し、いつでも発射できるようにする。
「――ワッチと勝負するか? ワッチが勝てば、君のハジメテは貰い受けるぞ?」
「俺が勝てば、姑息な真似はよせよ? ってか、俺は助ける側なんだから、俺が譲歩する側っておかしくねぇか?!」
と、アレンは首を三回横に振らす!
アレンの顔の隣を通過し行く注射針は鋭く、桃色の液体が空に飛び散る!
「そんなこと良い! ワッチは女の子なんじゃ! レディーファーストじゃぁぁぁ!」
――と、始まったアレンVSネメルコーネ!
全く、不純な目的での戦闘であるが、両者にとっては人生の全てが決まる大一番勝負。
笑ってなどいられないのである。
読んでいただきありがとうございました!
プリム・パブフネッカ・ペネザードと続き、さらに夢魔王・ネメルコーネまでもアレンの虜に!
モテモテ注意報、発令中!
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