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38.天才演奏者

今日も来てくれてありがとう!


引き続き、アレンとハピアとのデート風景をお楽しみください。

 

 ◆


 ――アレンはトイレに行ったハピアを待つ。

 暇つぶしに指遊び、緊張からなのか足をその場で組んでそわそわ。


「遅いな、ハピア」


 独り言が少し目立つアレン。

 彼の前世の姿は、身の毛がよだつほどのブサイクだったため、よく人に避けられる。

 それを察していたアレンは、他人に話しかけることを自らはしなかった。

 ――そのため、ボソッと呟いて、他人に反応してもらうことで話を開始する方法を見出したのである。

 これが原因で、アレンは基本的に独り言が多いのである。


 そんなアレンのもとに、天使のような女の子が手を振りながら走ってくる!


「アレンさん、お待たせですー!」


 その子は青色のツインテールが良く似合う、華奢でボインな女の子、ハピアだ!


「いやいや、大丈夫だぜ」


 アレンは走ってくるハピアの方に手を振ると――、


「あっ!」


 と、突然ハピアは目の前でズッコケる!


「だ、大丈夫かよハピア!」


 アレンはコケたハピアに駆け寄ると、


「う、うん! ちょっとはしゃぎすぎちゃったかな!」


 ハピアは笑顔で立ち上がり、何事も無かったように、


「んじゃ、次はどこに行こうかな?」


「け、怪我はないか?」


「ないよ! 綺麗にコケたからどっこも痛くない!」


 ハピアは可愛い笑顔を見せ、デートの続きをしようと促すが――。


「……だな、怪我が無くて何よりだぜ!」


 アレンはハピアに手を差し出すと、彼女はキラキラした目でアレンを見上げる。

 手を繋ぎ、何の変哲もないカップルを演出するが。





 アレンには分かっていた。

 ハピアの体が小刻みに震え、額には汗が吹き出している。

 明らかに先程と違う様子のハピア。

 ――察した、ピュロナがハピアに掛けている魔法の効力を下げたのだと。



 しかし彼は彼女の手を払ったり、否定したりはしない。

 男として、幸せにする対象への正しい判断として、許したのである。



『あなたは最後の一日をどう過ごしたいですか?』


 人によって回答は数あれど、百と言っていいほどその人はあるひとつの概念に収束する。


 『幸せになりたい』。


 だから、アレンはハピアのことを否定したりしない。

 ――仮に、その判断によってハピアの寿命が縮まっているとしても。



「うっしゃ、じゃあハピア! 次は何をしようか?」


 アレンはハピアに笑顔を見せた。


「うん! カジノの方に行こうよ! 上の方だったら、路上ライブとか芸人さんが沢山いるよ!」


 苦しむ素振りもなく可愛い笑顔を見せるハピア。

 その痛みはいかほどか、アレンには計り知れぬものであった。



 ◆



 アレンとハピアが階段を登っていくと、そこには名もしれない音楽家や胡散臭うさんくさいピエロ、曲芸師や手品師まであらゆる芸術家が路上ライブを行っていた!


「うわ、こりゃ凄い! 才能人が揃ってんな」


「そそ! ここは、エメルドラの中でも有名な、『タダで見れるミュージカル』と呼ばれてるストリートなの! 最高峰の芸人達がここに並んでライブする! みんなの目的は、『王国の目利きに芸を惚れ込ませてスカウトさせる』こと! だからこそ、毎日無償でライブしてるんだよ!」


「ほぉ、エメルドラってそんなに各国で有名なんか」



 ――アレンとハピアはそのストリートの芸人を眺めながら歩いて行く。


 魔法で剣を回転させる命知らず。

 火を飲み込んで火炎を吹き出す狂人。

 様々な色の魔法陣を組み合わせて虹の模様を作る芸術家。

 多種多様な芸を持ち寄って観客に魅せる。


「凄いね、アレンさん! ピエロさんの手品、未だにどうやったか分からないよ!」


「そうか? すまんが俺はさっきのピエロがやってたトランプマジックのタネが分かっちまった。あの野郎、トランプを透明に練り上げた魔素で縫ってやがったんだ!」


「えー! ってか、種明かしをしちゃダメだよ! ふむー、私のワクワクを返してよー!」


 そんな会話をして歩くアレンとハピア。

 数々の芸人がストリートの壁に張り付いて芸をしている中、アレン達は一際人々の注意を引き付けている芸人を見つける!


「アレンさん! あそこ、めっちゃ人がいるよ! 相当凄い芸をしているに違いない!」


 その周りは人集ひとだかりで壁ができ、もはや遠くからでは何が起きているのか分からない。




 ――ただ、確かに聞こえてくる。

 優しく、美しく、清らかな音色が。






「随分と人が来ちゃったな。これじゃ、父さんとハピアさんを楽しませることが出来ないよ」


 ――と、人集りの中心にいる少年が呟く。

 サラサラのオレンジヘアーが彼の魅力を掻き立て、甘いマスクと凛々しい顔立ちが両親がどれだけイケメン美女カップルなのかを容易に想像させる。


 彼の名は、アルフェッカ。

 アルフェッカ・ベッセルである。


 彼はヴァイオリンを持ち、弦をそれにかける。

 後ろに小さなピアノとチェロが宙に浮き、


「それじゃ、再び初めから演奏します。僕の演奏に興味を持ってくれた方はぜひこのヴァイオリンケースの中にオヒネリをよろしくお願いします」


 と、アルフェッカはクールにケースを開く。

 ――瞬間、ケースの中はコインや札束であふれ、


「アルフェッカ君! ぜひ私が組織する管弦楽団に加入していただきたい! 報酬ならそちらの指定でいくらでも出す!」


 一人のスーツの男がアルフェッカの所まで飛び出すと、ドレス姿の女性が男をなぎ倒し、


「いえ! 私達の合唱団の三重奏をおまかせしたいですわ! 報酬は、この男の二倍は出します!」


 ――が、その女の前に飛び出してきた男三人がが、


「我々はヴェスチエル王国のブラスバンド団です! ぜひその音楽の才能を王国のために活かして欲しい! 報酬など、際限なく引き渡す事を約束しよう!」





 アルフェッカの周りには客……と言うよりかはスカウトさんが列をなしていたのである!


「んー、別に僕はこの世界で働くつもりは無いんだけどなぁ。どうせこのお金もハピアさんの借金返済に利用するつもりだし……」


 アルフェッカは見当違いな結果にあたふた。


 その様子を見て、アレンは少しだけ口角を震わしながら、


「アルフェッカのやつ、練習からガチで演奏しやがったな?」


 呟くと、


「……あの人、どこかで見たことがあるような」


 ハピアは眉をしかめて喉を鳴らす。

 アレンは気づかれる前にどうにかしようと焦り、


「あ、あの人ってもしかして界隈で有名な無名ミュージシャンじゃね! 俺たち、運がいいなハピア!」


「有名で無名? どういう事なの?」


「――っ何だっていい! あの人の曲を聞きに行こうぜ!」


 と、アレンはハピアの手を引っ張っていく。


 ◆


 数時間前の話である。


「え、僕が父さんとハピアさんのデートを支援する?!」


「そう! 私たちがアレンとハピアとのデートを盛り上げるのよ! このエメルドラには芸人界隈で有名なストリートがあるらしいの! そこで、アルフェッカ君はお得意の演奏でアレンたちを迎える!」


 プリムは、アルフェッカにそう告げていたのである。


 アルフェッカの特有魔力は『音』に関するものである。

 父親であるアレンから『音響反射装甲術式コーリングノヴァ』を受け継ぎ、母親であるパブフネッカからは『誘惑魔法テンプーテーション』を引き継いだ。

 その結果、その二つが混ざり合い、彼の特有魔力は作られたのである。


 ――そして、未来のパブフネッカはその能力を知り、幼少期のアルフェッカに対して英才教育をすることとなる。


 故に――。


 ◆




「僕はヴァイオリン・ピアノ・チェロを同時に弾くことが可能なんです。そして、僕の特有魔力によって音の重軽強弱を自在に操ることが出来ます」


 アルフェッカはそう言い、ヴァイオリンに頬を付ける。

 ボウを弦にかけ、観客に向けて目をやる。

 ――その観客は、青い髪の女の子と手を繋ぐ男である。



「練習はバッチリ。さぁハピア。君の心にこれを届けよう」


 小さく呟き、アルフェッカはゆっくりとボウを引く。




 曲名は『蝶舞演幻想曲ティコ・ソノート』。


 未来のアルフェッカが王へと献上した幻想曲シリーズの第一節である。

 滑らかで繊細なヴァイオリンの音から始め、ピアノがそれを引き締める。

 張り詰める空気を和らげるかのようにチェロが追いかけ、解けていくようにヴァイオリンが全てを包み込んでいく。


「す、凄いっ!」


 ハピアは口に手を当ててアルフェッカの演奏を聞き入る。


 ――自然に浮かび上がっていく羽。

 アルフェッカの背中にうっすらと見える白い羽は、パブフネッカから受け継いだもの。

 彼は魔法を使うことで、魔力の臨界点を突破して妖精へと成りうる。


 瞬間である。


「僕の美学よ、彼の方に幸福を与えたまえ」


 アルフェッカはヴァイオリンを強く弾く!

 馬が走り出したように強い力を感じる演奏に心を奪われる観客!


「――すげぇじゃねぇかアルフェッカ。流石、パブちゃんの子だけあるぜ」


 アレンはドキドキが止まらなくなり、思わずハピアの手をぎゅっと握る。


 と、ハピアはアレンの手を握り返し、






「もっと生きたい」




 そう呟いたのだ。




 ハピアは涙を流したのである。

 アルフェッカの演奏に心奪われ、世界にこれ程の美しさが存在するのかと燃えたのである。

 もっと見たい、もっと感じたい、もっと頑張りたい!


 ――もっと行きたい!


 アルフェッカの演奏が、ハピアの心に住み着いて本音を吐き出させたのだ。





「ハピア。今、幸せか?」


 アレンは問う。


「うん、とっても幸せだよ」


 ハピアはアレンの方を見ず、ただ美しい世界を前にして涙を流し続けるだけだった。

読んでいただきありがとうございます!


ハピアの死が近づく中、アルフェッカの演奏が彼女の本当を探り当てたのである。


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