31.リリーア温泉
今日も来てくれてありがとう!
この頃、小説を出した時の初速がものすごく良い!
◆
――アレンとアルフェッカは温泉に向かい歩いて行くが、どうも道に迷ったらしく。
「あれ、温泉がない?」
「嘘だろ?」
アルフェッカは未来のエメルドラに来たことがあるらしく、案内できると入ったものの――。
「おかしいんだ。未来ではあるはずの温泉がないよ!」
「それってつまり、まだ掘り起こされてないってことか?」
アレンがアルフェッカに問うと、
「かもしれない。でも、丘を上がった場所に小さな銭湯があるからそこに行こうか。えー、入りたかったな、リリーア温泉」
「そのリリーア温泉ってのが良いのか?」
「そりゃもう! 魔力回復、疲労回復、体力回復を始め、身体のあらゆるスキルが活性化するって超有名な温泉なんだ! 入った人間はたちまち元気になって、万病を治すと言われてるんだから!」
アルフェッカは興奮して腕を振るが、その温泉はまだ存在しない。
「仕方がない、丘の上に行くか」
「うーん。入りたかったな。ここまで来てリリーア温泉に入れないのは痛手だよ父さん……」
分かりやすく落ち込むアルフェッカ。
汗が服に張り付いて気持ち悪い、だからこそアレンはなんでもいいからお風呂に入りたかった。
ただ、それだけ。
◆
「わお! めっちゃ綺麗じゃない!」
「凄いねプリムちゃん! 私、温泉に来たの生まれて初めてなの!」
「あいー! おふろおふろー!」
――プリムとパブフネッカとリアムは、アレン達よりも一足先に風呂に入っていた。
ここは、エメルドラの秘湯・アサイファの湯。
青く澄んだ美しい幻想のような湯は、浸かった者の精力を増大させ、アドレナリン分泌量を限界まで引き上げるとされる。
――このエメルドラはカジノで有名であり、疲れを取るのは当たり前だが、博打で負けた後悔・雑念を払拭するのに効果的とされている。
『風呂上がりにもうひと勝負する!』。
お客様にそう思わせるのが目的でこの施設が導入されたのだ。
「リアムちゃーん。スッポンポンで走らないの!」
「パブちゃん! あたち、おんなのこだよ!」
「だから、そんな格好で走り回っちゃいけませんよ!」
「あいー!」
リアムは裸で女風呂を走る!
「ちょ、パブちゃん! リアムちゃんを捕まえて!」
プリムは女風呂でありながらも、全身にタオルを巻いて入る。
対するパブフネッカはと言うと――、
「パブちゃんもすっぽんぽん!」
「ち、違うよリアムちゃん! 私はオトナな女の子だから良いの!」
パブフネッカはリアムを捕まえ、胸に五歳児を挟み込む。
「いや、ってかむしろ逆でしょうパブちゃん」
と、プリムはため息をつく。
◆
――平日の昼だからなのか、周りには人が全く居ない。
昼は主にカジノで人々は過ごし、夜前に疲れを癒しにやってくる。
だからこそ、昼間は貸切状態になる。
「いい湯だね、プリムちゃん!」
「そうね。じわじわと肌に染み込んでくるみたい! 気持ちいいよね、リアムちゃん!」
「あい! あたちのはだもぴっぴちちだ!」
「ぴっぴちち……ふふっ!」
と、プリムはふきだした。
プリム御一行は煌びやかな青いアサイファの湯に浸かり、汗を洗い流す。
当然、かけ湯をした後だが。
「それにしてもプリムちゃん。桃色の髪の毛って綺麗だね。地毛?」
「そりゃそうでしょ。――まぁ、両親の髪色と全く違う理由はなんでか知らないけどね」
「ふうん。でさでさ、アレン君とはあれから何かあった?」
パブフネッカはじとーっとした目でプリムを見ると、
「え、なんもないよ! ってか、パブちゃんは私とずっと一緒でしょ!」
「分かんないよー、私に隠れてエッチなことしてたらね」
「嘘つき! どうせ性欲関連のことはスキルでお見通しのくせに!」
と、プリムは頬を赤らめる。
「リアム、パパとえっちするー!」
と、突然リアムが!
「どどど、どうしたのリアムちゃん!」
プリムがリアムの方を振り向くと、
「あのね、ママがいつもいうてた! あたちがねるとね、いつもママが『パパ、えっちしよ』ていうてた!」
――と、リアムは満面の笑みで言う。
「あらー、アレン君の奥さんって性欲強めなのね。あら、あららー!」
と、パブフネッカはプリムの方を見てニヤケながら言う。
――リアムとは、つまり未来から来た女の子である。
『祝福される者へ』と呼ばれる玉を得たアレンは、適当な気持ちで玉に魔力を込めた。
すると、その玉はリアムに変身!
後に知るが、その玉の効能は『術者が今一番欲しいものを未来から取り寄せる』というものだった!
つまり、アレンは意識下で『子供が欲しい』と思っていたのである!
その結果、未来のアレンの子供であるリアムが現世に召喚されたのである。
――だが、問題が一つある。
「アレンの嫁さんって本当どうなってんのよ! リアムちゃんに『童貞』って言葉を覚えさせたり、『エッチ』とか覚えさせたり! 誰よリアムちゃんのお母さんは!」
「ほんとー、だれなんだろーねー」
パブフネッカはわざとらしく棒読み。
「ねーねー、けんかはだめだよプリムちゃん!」
「け、喧嘩じゃないよリアムちゃん! これは、リアムちゃんのママへの冒涜だからね?」
「ぼうとくってなに?」
「ん! んー、私も分かんないねー」
プリムはリアムの手を握りながら、ほんわかと暖かいお湯を堪能する。
「ねー、プリムちゃん」
「ん、なに? リアムちゃん?」
「プリムちゃんって、あたちのママににてるね」
――と、パブフネッカはリアムの一言を聞いて目を開く。
「え……?」
絶句するプリム。
そう、これが問題なのである。
『ママは料理が上手でね、昔は飲食店のオーナーとして働いてたんだよって自慢してるらしいの』
過去に、パブフネッカがリアムから聞いた言葉。
――そう、リアムのママは。
「わ、私が……?」
「うん」
混乱を隠せないプリム。
少し沈黙を迎えたアサイファの湯、そして金髪の美女がこの空気を切るように一言。
「そ、そんなわけないでしょリアムちゃん!」
と、パブフネッカはリアムを抱き上げる。
「アレン君のお嫁さんはきっとプリムちゃんみたいに上品な人じゃないと思うの! もっとお下品な人!」
「そ、そうよリアムちゃん! 私がママなわけないでしょ! ってか、パブちゃんなんじゃないの? アル君もいるんだし!」
――プリムもパブフネッカの説得によってそっち側に。
「……ちょっとのぼせてきちゃった。そろそろ上がろうかプリムちゃん、リアムちゃん!」
「そうね、アレン達も待ってるだろうし」
プリムはタオルを巻いたまま風呂を出、リアムを連れて外へと出てしまった。
――そんな中、パブフネッカは一人で深く口まで浸かり、呟くように、
「――また、やっちゃった。私のバカ」
また、『リアムちゃんのママはプリムちゃんだよ』と言えなかった。
読んでいただきありがとうございます!
ーーリアムのママであることを、プリムはまだ知らない。
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