20. 神を引きずり落とす者
長い間、お休みいただきました!
少し忙しかったので、更新が大変遅れて申し訳ないです。
ーーでは、気を取り直して、アレンvsティフォル!
『重圧魔法』!!
ティフォル国王は人差し指を下げると、アレンの周りの重力が一気に重くなる!
「ぐっ!」
アレンの足が床に沈み込み、彼の炎と氷も下向きになる!
「アレンっ!」
プリムが叫ぶと、
「汝は黙っておれ!」
ティフォル国王はプリムを睨みつけると、彼女の体が宙に浮く!
重圧魔法とは逆の効果のスキル『逆式零圧魔法』である!
その魔法を受けたプリムの体は徐々に天井へと上がっていったのだ!
「プリム!」
「何を見ておる! 汝の相手は我であるぞ! 王から目を逸らすなど軽薄である、つまらん!」
ティフォル国王は左手に光の塊を集めて掴むと、それを槍のようにアレンに向けて投げつける!
『閃光槍』!!
光の線が客室を貫いていき、アレンのところへと飛んでいく!
「――んなもん今更効くかぁ!」
アレンは右腕の炎を消し、新たな魔法陣を装填し直すと、光の槍を掴む!
『光学的反射装甲』!
アレンは光の槍を受け流すように一回転し、その勢いのままティフォル国王に向けて打ち出した!
「腐った芸当よ! 汝、我の魔法を利用するなど無礼であるぞ!」
ティフォル国王は左の人差し指で光の槍を指差すと、光の槍は重力操作によって飛ぶ方向を翻し、再びアレンの方へと飛んでいく!
「そっちがその気なら、こちとらお返しだ!」
アレンは飛んでくる光の槍を再び掴み、同じ要領でティフォル国王に向けて放つ!
――まさに、テニスのラリー!
飛んでくる球を自分に当てまいと反射をし続けるのである!
「ちょ、二人ともやめなさいよ! お客さん達に当たってるでしょ!」
プリムは高速で射出される光の槍を眺め叫ぶ!
――そう、槍が飛び交うのはアレンとティフォル国王の直線状!
参列者たちは光の槍が当たって飛び散り、空へと舞い上がる!
しかしラリーを続ける二人!
「――大丈夫だプリム!」
「何が大丈夫よ! お客さん達が粉々に……おえっ!」
四散する肉が宙を舞い、光の槍にぶつかってさらに細切れになっていく!
「――大丈夫だって! こいつらは人間じゃない! 人形だ!」
「はっ?!」
プリムは天井に張り付いたままアレンに問いかける。
「……ほう、気付いていたか」
ティフォル国王は左手の中指を立て、光の槍の射出速度を上げる!
――指を二本上げる仕草は、『重圧魔法』レベル2であるサインである!
「――この式場に来る時に気づいたんだ。俺たちが宮殿に侵入してきたってのに、従者やメイドは俺たちに見向きもしない。それどころか、その人達からは生気が全く感じなかったもんでな」
光の槍の射出速度が上がったことにより、片手では足りないと判断したアレンは、さらに左手の氷も消し、光学的反射装甲を装填する!
来たる槍を手のひらで打ち返す態勢に変えたのである!
常人からすれば、アレンの動きはもはや見えず、ただアレンが腕を上下に動かしているようにしか見えない。
それほど、彼は素早く槍を打ち返していたのである!
「――そこまで見抜いていたとは見事。そう、我の宮殿に居る従者全ては既に『籠』に封じておる。故に、代わりの人形どもを扱っているが、我が全て操作せねばならんでな」
ティフォル国王は右手の中指を立て、アレンにかかる重力もレベル2へと移行する!
――重圧魔法は対象の重力を操作するというもの。
レベル1では10G、つまりアレンの体重の十倍の圧力が全身にかかる。
レベルが上がるごとに、それはさらに十倍される。
つまり、現在のアレンには100G、体重の百倍もの圧力がかかっているのである!
「ぐっ……!!」
「どうした、半端勇者。肺でも潰れたか?」
「……効くかぁ!」
床に完全にめり込んだ両足をゆっくりと動かし、そして両腕を絶えず動かしながら徐々にティフォル国王へと近づいていく!
「ほう、我の重圧魔法における『逆性魔法』の解析も進んでいるようだな。前回はレベル2が限界だったが、今では歩けるまで進化しておるか。汝、褒めて遣わす」
ティフォル国王は笑みを浮かべ、飛び散った肉片が巻き上がる式場を高い台から眺める。
「っ俺は前世では最強の勇者だったわけだ! こんなんでへこたれてたら終いなんだよ!」
アレンは一歩、一歩とティフォル国王へと歩み寄る!
その距離、20m!
「――なるほど。汝、転生者か?」
「あぁ、そうだ!」
「合点がいく。汝のような苦労も知らぬ面を下げた小僧が何故それほどまで洗練された力を心得ているのか。即ち、左様であったか」
「ねぇティフォル! 私をここから下ろしなさい! もういいでしょ、話し合いで解決しましょ!」
プリムは天井からティフォル国王に話しかけると、
「戯けか。我は今を楽しんでおる。これを預けろと? どこまでも愉快な奴だ」
「はぁ! どっちみち今日は結婚式は無理でしょ! ってか、なんで従者を『カゴ』ってのに閉じ込めてんのよ、どういうことなの!」
プリムは高飛車にティフォルに物言うと、
「つまらん!」
ティフォル国王はプリムを睨みつける!
瞬間、プリムの体が天井に強く叩きつけられる!
「かはっ!」
プリムは頭を打ち、ズンズンと天井にめり込み始める!
「プリムっ!」
アレンはプリムの方を見ると、彼は光の槍を打ち返しきれずに、左腕に突き刺さる!
「ぐっ!」
――しかし、既に閃光槍の解析は終わっており、アレンの表皮には閃光槍専用の逆性魔法が書き込み済みであった。
そのためダメージは最小限に抑えられたものの、左腕からはおびただしい量の血が吹き出す!
「……我から目を逸らすな、二度言わせるとは死に値するぞ?」
ティフォル国王は左手の魔力を解き、右手でアレンに重圧魔法をかけたまま、
「――正直、プリム殿の安否などどうでもいい。悲哀なるか、偽証めが」
「……ティフォル! てめぇ、仮にプリムも結婚するつもりだったんだろうが! 女に手を出していい義理はねぇぞ!」
「ほう、呼び捨てか。負け犬はよく吠える。逆に清々しいぞ?」
ティフォル国王は右の薬指を立て、
「聞け、犬。我はティフォル・ヘルザール。今は王なれど、以前は勇者の旅路に付き合った日もある。それ故、我は知る。無常よ、我は幾度となく死を見てきた」
――重圧に耐え続けるアレン。
人間は長い時間、重圧にさらされ続けると、ブラックアウトと呼ばれる視覚が奪われる状態になる。
よって、アレンは既にほとんど目が見えない状態にあった。
「移り変わるは世。我は身が置き去りになることを酷く恐れた。完全になろうと焦るも、世は進行し、未来永劫に究極に至ることなぞない。故に我は悟った。絶対はこの世に存在しないと」
「……」
「しかしながら、我は諦めたのだ。完全を目指すには我は余りにも哀れすぎた。満点を目指すのは愚者の極みである。して汝、至る道を辿ることを諦めた我は何を目指したと思す?」
――と、ティフォル国王は人差し指・中指・薬指を立てた状態でスッと地面に向けて振り下ろした。
レベル3、1000Gである。
「我は神を引きずり落とすことにした。『重圧魔法』によって、神を地に沈めようと、な」
――瞬間、アレンの体は震えだし、周りの床が陥没し始める!
「っ!!!!」
「神を落とせば、自ずと我が頂点に君臨する。故の我の固有魔法は『重圧魔法』であるというわけだ。我が認めたものは浮上し、認めざるものは地に伏せる。まさに我の人生を具現化した魔法である」
「……ティフォル。アレンが、アレンが死んじゃうっ」
プリムは頭から血を流し、力を振り絞ってティフォル国王からの『重圧魔法』から逃れようとするが、
「ほう。他人の心配ができるほど元気であったか」
と、ティフォル国王はプリムの体を再び睨みつけると、プリムはさらに天井へとめり込んでいく!
「あっ、あっ!!」
「残念だが、プリム殿にかけられた重圧魔法はレベル1にも満たん。おそらく、汝の体では1を超えると全身の骨が折れよう。これでも譲歩しておる、感謝せよ」
――と、ティフォル国王はプリムの苦しむ姿を見ながら笑顔を見せた。
「ぐっ、ぐぉおっ!」
アレンは唸る!
「っ、何!」
ティフォル国王は思わず声を上げた!
ずん、ずん。
式場は震え、パラパラと城の破片が落ちてくる。
アレンは再び歩き始めたのだ!
「な、汝……!! どこからその力が出る!」
ティフォル国王は自分の指を確かめる!
人差し指・中指・薬指が立っている!
レベル3、前人未到の大技であったにもかかわらず、アレンは躊躇なく歩いている!
「――だから言っただろ、俺の名はアレン・ベッセル。前世は最強の勇者だったってな!」
読んでいただきありがとうございました!
ティフォルの重圧魔法のレベル3をいなすアレン!
次話、快進撃なるか!
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