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17.リアム『ごっつんこ』

今日も来てくれてありがとう!

昨日はお休みをいただきました!



 

 ◆


 ――次の日のヴェノン亭にて。


 著しく体力を奪われていたアレンは結局あのまま寝てしまった。

 そして、パブフネッカと夜を共にし、そして朝を迎える。


「パパ、パパ!」


 天使のような囁きがアレンの耳元から聞こえ、彼はゆっくりと目を覚ます。


「――リアムか。おはよう」


「パパ、おはよお!」


 と、彼の未来の娘であるリアムは、アレンの布団に潜り込んでばたばたと足を振る。


「あれ、パブちゃん?」


 アレンは包帯でぐるぐる巻きにされた両腕を布団から出し、騒ぐ我が子の頭付近を撫でる。


「リアム。パブちゃんは?」


「おそとにいるよ」


 布団の中から声が聞こえる。


「……洗濯でもしてんのか?」


 重い腰をどうにか動かしてアレンはベッドから出る。

 ――全身の筋肉が赤く腫れ上がり、至る箇所から出血が見られる。


「ティフォルの野郎、重圧魔法プレッシャーなんて殺戮レベルの魔法を使いやがって。絶対に許さん」


 血で滲む包帯を剥がし、両腕をギュッと握る。


「よし、ほぼ完治。一様、前世で取得した『女神の夢(ゴッデスト・リペア)』は健在か。このスキルのおかげで翌日には全部完治するだなんて、今考えればチート級の祝福魔法ギフトだよな」


 呟き、アレンは立ち上がった。

 朝日が目に突き刺さる。

 それほど、快適で優雅な朝であった。

 ――ただ、足りないものがある。



『アレン! いい加減起きろぉ!』



 そんな口うるさい声が聞こえないのである。


「プリム……」


 ◆



 アレンとリアムは三階から一階へと降りていく。


 とんとん、とんとん。


「パパ、おけがはもういいの?」


「おう。この通り、寝りゃ元通りだ!」


 アレンは自分の腕を叩いてみせる。


「さすがパパ! ママもいうてたよ、『ねるこはそだつ』って!」


「んー、それはちょっと違うけど。まぁ、そんな感じだ」


 アレンは困った苦笑いで口をニュっとするリアムの頭を撫でる。

 そして、喉を鳴らして、


「それとね、ママとパパがおねんねするへやでごっつんこしてるときは、ぜったいにはいってこないでねっていうてた! リアム、かしこいからおぼえてるよ!」


「ごっつんこ? そ、そうなのか?」


 アレンは誰もいない厨房の蛇口から水を汲み、口に含んでうがいを始める。


「なんかね、ごっつんこしてるとね、こどもができるっていうてた!」


「ぶっ!」


 口に含んだ水がブジュっと飛び散る。


「――こ、こども?!」


「うん。ママがね、『そういうひもあるのよ』っていうてた!」


 その言葉を聞き、大体の状況を把握してため息をつく。

 ――自分の子供に、『夜の営み』を説明するには些か恥ずかしいところもあるのだろう。

 未来のリアムのママ……プリムは、その説明を『ごっつんこ』としたのだろう。


 つまり。

 夜、喧嘩をしている――子作りをしている時は絶対に部屋には入らない事。

 つまりそういう事なのだ。





「――未来の俺とプリムって、そんなにハッスルしてんのか。そっか、そっか……」


 ニヤけて浮つく頰をどうにか下に下げようと右手で顎を掴む。


「パパ、どうしたの?」


「い、いやいいんだリアム。リアムもうがいするか?」


「うん、うがいする!」


 と、アレンはリアムに水の入ったコップを渡すのだった。


 ◆


 ――静か。

 あまりにも静かで、アレンは不安を隠しきれずに円卓から立ち上がる。

 それは、リアムがお腹が空いたと厨房で走り回った数分後のことである。


「パブちゃんはどこ行ったんだ?」


 アレンは食卓でモフモフとパンを頬張る一方、ヴェノン亭から飛び出す。

 外はいつものように誰も出歩く人はおらず、廃れていくヘルザール王国の終焉を予期したかのような有様であった。


 アレンは全く動かない空の彼方を見つめ、プリムが居るはずの宮殿の方角を向く。


「プリム……」


 すると、アレンと向いてる方と逆から突然甲高い声が!


「アレン君っ!」


「アレン!」


 その声は、パブフネッカのものだった!」


「な、一体どこに行ってたんだよパブちゃん! それにエルケスも!」


 アレンは走ってくる二人の方へと向かうと、


「アレン! 宮殿付近の騒ぎは知ってるでゲスか?!」


「何をだ? なんか事件でもあったのか?」


「そうだよアレン君! それも、大大大事件!」


 パブフネッカはいつも通りのヘソ出しセクシー衣装を纏っていた。

 ふわふわの胸が窮屈な下着に挟まれて苦しそう。


 アレンは胸元をグイッと寄せるパブフネッカにキュッと戸惑い、


「で、で、でなんだよ」


「ティフォル国王とプリムちゃんの結婚披露宴が行われるんだって、今から!」


「……え?」


 ――アレンは一瞬だけ脳死する。


「け、結婚?」


「そうでゲス! 今日の正午には正式に婚約成立でゲス!」


 エルケスの興奮も収まらず、


「正午ちょうどにティフォル国王が『神託契約ザ・キス』を発動するつもりだよ!」


「な、なんだと! そこまでしてプリムと無理やり結婚するつもりかアイツ!」



 ――絶対魔法『神託契約ザ・キス』。


 術者と受術者の二人の外側に二重の魔法陣を描き、『互いに裏切ることができない契約』を魔法で束縛するというもの。

 簡潔に言えば、結婚式の際に用いられる魔法で、特に王族の王子・王女が王位継承者として名を挙げる時に使用される。

 その誓いは一度たてると、互いの合意が無ければ解けず、よってそれは互いの強い信頼・束縛となるのである。

 その代わり、術者たちは絶対的な統率力とカリスマスキルを得ることができる。



 ――ただし、『神託契約ザ・キス』を交わした二名は他の異性と触れ合うことはできなくなり、仮に異性に触れれば、その部分は灰になって無くなる……そんな呪術でもある。

 故に、王族の中での混血がなくなり、王・女王の絶対なる信頼関係が成り立つのである。



「ティフォル国王は悟ったのよ! 『必ずアレン君がプリムちゃんを助けにくる』、だから早い段階で絶対魔法をプリムちゃんと交わそうって! このままじゃ、本当にプリムちゃんは帰ってこれなくなるよ!」


 パブフネッカはアレンに詰め寄る。


「……あの野郎」


 アレンは呟き、拳をギュッと握る。


「助けに行くんでゲスか?」


「当たり前だろうエルケス! 嫌がるプリムに無理やりキスした男だぞ?! イケメンがなんだろうが関係ない! 中身がブスなら結局ブスなんだよ!」


 アレンは奮い、無意識に魔力を全身から放出する!

 ふわりと舞うパブフネッカのスカート。

 彼女は顔を赤くしながら股を両手で抑える。

 ――今日は一枚しかないパンツを干している日である。


「でも、勝算はあるんでゲスか? 昨日、フルボッコにされたばかりでゲショう!」


「んなこと関係ない! 勝てないからプリムを救えなかったじゃ話にならねぇ! そもそも戦いに行かねぇんじゃ男が廃る!」


 アレンは両手に氷と炎を握り、纏う魔力を最大限まで研ぎ澄ます!

 ――それは、彼の願いの魔力。


「……救いに行くんだね、アレン君?」


「あぁ。俺は腐っても勇者。転生しても、アレン・ベッセルだ!」


 燃え上がる闘志、凍てつく狂気!

 アレンの全身に赤と青が交じり合い、隠しきれないほどの濃密な魔力がそこら中を迸る!


「――だってさエルケス。私もプリムちゃんを救いたい」


「……その言い方だと、やっぱりウチは留守番でゲスか?」


「そういうこと。リアムちゃんの面倒を見てあげて!」


 と、パブフネッカはエルケスの背中を叩き、アレンの所に行き、


「……アレン君。カッコよくなったじゃん」


「昔からだっての」


 二人は苦笑いで応答し、明るく照らされる宮殿の頂上を目指して走り出した!






「……パブフネッカ様。やっぱりあなたはいい人でゲス。プリムなど捨て置けばアレンを独り占めできると言うのに。やっぱり、ウチには人間の気持ちなどわからんでゲス」


 エルケスは呟き、ニヤリと笑ってヴェノン亭へと足を運ぶのだった。


 ◆



 ――宮殿内、ティフォル国王控え室にて。


「……やはり来るか、偽装勇者」


 全裸のまま窓の外を見る。

 彼の目には、特定の人物の魔素を追跡する能力が備わっており、マーキングした人間の動向をミリ秒単位で把握できるのである。


「良い、我も退屈でな。ちょうど麗しきプリム殿を涙ぐませる要素が欲しかった。向こうから悲しみを届けに来るとは都合のいい男だ」


 ティフォル国王は不敵に笑い、赤い髪を掻き上げた。


「……しかし、随分と弄ぶではないか。我は些か飽きが回っておる。貴様とは趣味は合うが、固執して一つの玩具おもちゃを愛でるほど一途でなくてな。のぉ?」



 ティフォル国王は左手を横に伸ばし、褐色の美女を抱く。


「――ワタクシはただ頑張る奴が嫌いなだけなの。報われないと分かっている愛を追いかける無様な風景を見るだけで反吐が出そう。ねぇ、ティフォル? もう一回戦、ヤっちゃう?」


「……戯け。あと一時間後にはプリム殿との『神託契約ザ・キス』が控えておる。義理の誓いであるとしても、我は不貞である所をこれ以上露呈したくない。分かるであろう?」


「そんなのどうでもいいの! どうせプリムとか言う女を苦しませて殺せばいいだけだし! あいつが死ねば、『神託契約ザ・キス』は勝手に解けてティフォルはまたワタクシのモノになるのだから!」


 ――褐色の美女はティフォルの耳の穴を舐め回し、


「……お前はワタクシの言うことを聞けばいいの。『お前とプリムは神託契約ザ・キスをして、勇者アレンはプリムに触れる。呪いでプリムは死亡』。悲劇的すぎてウケる! ふふふふっあははははははっ!」


「……食えん女だ。良い、ベッドに横になれ」


 と、ティフォル国王は歯をきしませながら褐色の美女を抱くのであった。






「……これは、ワタクシが主人公の世界。転生者に見せつけてやるわ、ワタクシの強さを!」



 ――そう呟き、彼女はベッドの上でニタリと笑うのだった。


「では、喘げよ、ペネザード様」


 ティフォル国王は呟き、ベッドに付けられたカーテンをシャッと閉じたのだ。



 ――『性欲』生殖王・ペネザード

 彼女の手は、すでに物語の中に入り込んでいたのである。

読んでいただきありがとうございました!


ここでまさかのペネザードが降臨!

ーー裏で手を引いていたのです!


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