★13.アレンの子、爆誕!(?)
今日も来てくれてありがとう!
謎の少女がアレンの子供(?)として登場します!
そして、そろそろ第一章の終幕へと向かっていきます!
◆
会議。
円卓の前に集められし三人の人々は、アレンの膝元にちょこんと座る女の子を眺めてため息をつく。
参加者はプリム・パブフネッカ・エルケス。
議題の中心人物はもちろんアレンで、当の本人は口をイーっとして言葉を待っていた。
「――隠し子?」
口を開くはプリム。
「断じて違う」
アレンは短く切ると、
「でも、その子、アレン君に似てない?」
パブフネッカも嫉妬の目と疑いの目で彼を見ることとなる。
「違うって! 俺はこの世界に転生してきて三日だぞ! これは魔術で生まれた子だ! さっきから説明してるだろ!」
「そんな魔法聞いたことないわよ! 『魔法では生体を構成するのは不可能』って誰でも知ってる常識よ! でも、その子は生きてるわ! 術式も魔法陣も見えない! 騙されないんだから!」
プリムはムスッとしてアレンを見る。
「勇者アレンよ。もう一度データを整理するでゲス。眠りから覚めたら宝玉を握っていて、それに魔力を注ぎ込んだら子供になった……。ありえるんでゲスか?」
「ありえるもなにも、それしか言えないしな」
難色を示すアレン。
エルケスに応答するが、それも中身のない戯言にしか聞こえず。
「……それにしても、その子の名前は? とりあえず名前がないとかわいそうだよ」
パブフネッカが言う。
「それもそうだな……。でも、この子は俺の正真正銘の娘じゃないしな」
と、アレンは女の子の頭を撫でた。
「パパー!」
可愛い声で笑顔を見せる。
彼女は昔プリムが子供の頃に着ていた服を着ているが、サイズは十つの頃のもの。
ブカブカ過ぎてほぼ着れてないに等しい。
「名前……。うーん」
「アレンの子ってテイで、アルンちゃんとかは?」
「そりゃ安直だぜパブちゃん。アレンと聴き間違えちまう」
「んー、じゃあ、アルマちゃん?」
「んー、しっくりこんなぁ」
「ちょっと! 私のターンは?!」
突っかかるプリム。
「プリムさんも決めたいんすか? さっきから怒ってばっかですけど」
「パブちゃんばっかりずるいって言ってんの! エルケス君もなんかアイデアある?」
「ウチでゲスか?! あんまり言いたくないでゲス。それが決まったらアレンの子に名付けた経歴が残るじゃないでゲスか! そんなの嫌でゲス!」
「……しょぼん」
――静かになる円卓。
すると、アレンの膝の上の女の子が、
「リアム! あたち!」
と叫んだのである!
「ん、お前、自分の名前わかるのか?!」
「うんパパ! あたち、リアム!」
そういい、彼女は白い歯を見せる。
すでに歯が全て生えているのを見、おそらく彼女は自立はしているのだろうとアレンは思う。
「じゃ、君はリアムちゃんって言うのね?」
「うん! おねえさんは?」
「私はね、パブ! パブちゃんって呼んでね?」
「うん、パブちゃん!」
「きゃー可愛い! さすがアレン君の子供ね!」
と、パブフネッカはアレンの膝の上からリアムを持ち上げる。
「ちょ、一様俺の子かわからないんだからな!」
「ぶー、パパ君がそんなこと言ってるよ? かわいそうだねリアムちゃん?」
「うん! パパはどうていだから!」
「どっ……」
彼女の一言で場が凍りつく。
まさか、三、四歳の幼女が『童貞』などと口走るなどとは思わなかったのである。
「……アレン。変なこと教えないで!」
「俺のせいか?!」
プリムのツンツンが些か増す。
「り、リアムちゃん! 私の名前はプリム! プリムお姉さんだよ〜」
と、プリムはパブフネッカに近づく。
「あらプリムちゃん。さっきまでアレン君にツンツンしてたくせに、子供には優しいんだ。あーら」
「い、いいじゃない! ねぇ、リアムちゃん?」
「うん! あたち、プリムちゃん好き〜」
リアムは満面の笑みでプリムに答える。
「っ……。〜!」
プリムの顔が赤くなり、
「り、リアムちゃぁん!」
と、パブフネッカの胸と挟んでリアムに抱きついた。
「……アレン」
「なんだよエルケス」
「娘が二人の胸に挟まれてるでゲスね」
「俺がリアムだったらいいな……とか思ってないよ」
「でも、鼻の下が伸びてるでゲス」
「うるせぇよ」
――そんな、少し騒がしかった早朝。
事件はこのようにして収束していったわけだ。
謎の少女・リアム。
彼女は、これからアレンの娘として生きていくことになる。
◆
――昼。
「そう言えば、今日は買い出しには行かないんすか?」
アレンが暇そうに本を読んでいたプリムに話しかける。
「……今日はお店は臨時休業よ」
「は?」
プリムは本をパタンと閉じ、足を組んで、
「とりあえず座ったら?」
と椅子にてのひらをやる。
「なんだ、込み合った話すか?」
アレンは軋む椅子に座る。
「そういえば、私の両親が帰ってこないなーって思ってなかった?」
「そうすね。ヘルザール王宮で料理人やってるんすよね?」
「一日限定だったんだけどね。だけど、なかなか帰ってこなかった。どうも、両親と王様が仲良くなったみたいでね。王様がぜひ私と会いたいって言ってるらしいの」
「ほう、つまり今日は王宮に行くってことすか?」
「そう言うこと。超絶うまい料理を作る夫婦の娘はどんなものなのかって気になったらしいわ。そんで、このヴェノン亭もたたむことになるらしいわ」
「え、それってマジか?!」
アレンは驚き、机に両手をつく。
プリムはひょいひょいと空中に魔法陣を描き、風を作り出すと、厨房の方から一人でにティーポットと二つのカップが机の上に落ちてくる。
「アレンは甘いの嫌いだっけ?」
「はい。紅茶はストレートっす」
「はいはい」
と、プリムは指パッチンをすると、紅茶が一人でにカップの方へと注がれていく。
「はい、ストレート」
「ありがざす」
受け取り、アレンは熱々の紅茶を啜る。
「――両親の料理が絶品過ぎたらしくてね、王宮で勤めるのが決まったんだって。個人経営よりも、王宮で働く方がそりゃ金持ちになれるし、満足行く待遇が受けられる。そりゃわかるわ」
プリムも紅茶を啜り、薄い唇をチュパりと鳴らす。
角砂糖は3つ、ミルクは無し。
それが彼女の黄金比である。
「ただ、十年続けてきたヴェノン亭をこんなにも簡単に捨てるなんて、少しショックだったな。しかも、お兄ちゃんがくれた資金のおかげでこんなにも大きくなったのに!」
吐き出す息は甘く、アレンの鼻元までため息が訪れる。
「でも、両親は嬉しかったんじゃないですか? 料理人として、王宮なんて場所で働けるなんて大成もいいところじゃないすか。これでプリムさんも働かなくていい。自由な仕事ができますよ」
アレンはカップ唇につけると、
「――良いわけない」
プリムは呟いた。
「え?」
「――お兄ちゃんの帰る場所は?」
プリムは俯き、唇を噛んだ。
赤くなっているのは紅茶のせいではない。
悔しい、だから赤く滲んでいるのだ。
「プリムさん」
「ヴェノン亭を売るんだって。私は王宮で住むことになるらしい。――だったら、お兄ちゃんはどこに帰るんだろうね」
プリム・ヴェノン。
その兄の名は、ハルト・ヴェノン。
ハルトは二年前にヘルザール王国から旅立ち、それから全く連絡がないと言う。
その勇者ハルトがヘルザール王国に帰ってきた時、ヴェノン亭がなくなっていたら彼は悲しむのではないか?
そうプリムは思っているのである。
「私はいつまで経っても両親に振り回されてばっかり。本当、ロクな親じゃないわ」
プリムは呟き、カップを皿の上に置く。
「あ、ごめんねアレン。女は愚痴らないと生きていけないの。幻滅したでしょ?」
「いいや。幻滅……はしない。少しプリムさんがかわいそうだなとは思いますけど」
「全肯定ではないってことは、何か言いたいことがありそうね」
プリムは胸元を寄せ、アレンの顔を覗き込む。
「――ないっすよ! 俺もヴェノン亭がなくなるのは少し寂しいっす。と、とりあえず今日は休業っすね! わかりました!」
と、アレンはカップの中身を飲み干して、プリムの皿も持つ。
「俺、洗い物してくるっす! プリムさんは支度してください!」
アレンはまるでプリムから逃げるように話を切り上げたのである。
――童貞王。
女性とのシリアスな空気に耐えきれずに、逃げてしまったのだ。
「――叱ってくれないんだ」
プリムは去るアレンに聞こえるように言う。
◆
「アレン君! とりあえずリアムちゃんはお昼寝してる。私とエルケスといっぱい遊んだからね!」
パブフネッカは無邪気に笑う。
「そうか、相手してくれてありがとな」
「ううん! 私がリアムちゃんと遊びたかったの! 聞いてアレン君! リアムちゃんね、オセロめちゃくちゃ強いの! 一勝七敗だよ! 凄くない?」
「――そりゃ、パブちゃんが弱すぎるだけなんじゃないのか?」
「あー! 言っちゃいけないこと言った! バカバカ!」
相変わらず、アレンと距離が近いパブフネッカ。
「――パブちゃん」
アレンの後ろから現れたのは綺麗にオメカシをしたプリム。
「あれ、プリムちゃん。今日はお出かけかな?」
「うん。ちょっと王宮にね。今日はアレンとパブちゃんはお留守番お願いね」
元気がないプリム。
その様子を見、パブフネッカは彼女に噛みつく。
「あらー、私とアレン君を二人っきりにしてもいいのかな? エルケスとリアムちゃんを催眠術で寝かせたら、ナニしてもバレないんだけど?」
「ちょ、何言ってんだパブちゃん! しない、しないからなプリムさん!」
と、アレンとパブフネッカはいつものノリで彼女を元気つけようとするが、
「あんまり騒がないようにね」
と、プリムは前髪を整えた。
「――むぅ」
膨れるパブフネッカ。
そして、彼女はプリムの手を掴み、
「何かあったの?」
「え、いや?」
「嘘! 私には分かる! 王宮に行きたくないんじゃないの?!」
「え――」
プリムは強く握られる右手に目を落として唇を噛んだ。
「――行きたくないよ」
「だったら、なんで私たちに相談しないの!」
「相談したって無駄よ! 私は両親には逆らえないの! 身勝手な親だけど、あの人たちに育てられたのは事実なんだ! だから……」
と、アレンは二人を横切り、
「――でも、今逃げたら負けだと思ってる。そうだろうプリムさん?」
「……」
「だったら、尚更行くべきだ。パブフネッカ、プリムさんから手を離せ」
「アレン君! このままプリムちゃんを行かせる気なの?! 話は何となく分かるよ、両親に引っ張り回されてるんでしょ! 今が幸せなら、逃げるのだって必要だよ!」
「それじゃダメなんだパブフネッカ!」
アレンは拳を握り、眉間にシワを寄せる。
「ここが試練だと俺は思う。プリムさん、お前だったら本当はどうしたい? それはお前が決めることだ!」
「わ、私は……」
「嫌なら嫌でいいんだ! 何故自分を偽るんだ! なんで本心を隠す?! 吐き出せプリム! お前は何故ここで生きているんだ!」
「……わからないよ、そんなの」
プリム。
他人に頼りながら生きてきた。
だからこそ、他人に命令されることに慣れ、誰かに指名されないと動くことができなくなっていたのだ。
それは仕付け、奴隷に近く、命令されないと正しく動けないように調教されてきたのである。
それが裏目に出るシーンはいくつもある。
決めつける。
他人に命令する。
受け身である。
まさに、彼女は矛盾した女の子なのである。
「――私、どうしたらいいのかわからない。どうすれば、ヴェノン亭を残せるのか、どうしたらみんなと一緒にいる時間を伸ばせるのか!」
プリムは吐き出すようにアレンに声を張り上げた。
うっすらと涙が浮かび、それにパブフネッカは一歩足を引く。
「プリムちゃん……」
「私、なんでこんなに命令されて生きてきたのかわからない! 本当は魔術師になりたかった! 医療関係の仕事につきたかった! なのに、どうして両親の手伝いをしてるの? なんでそんな私のことを考えてくれないの? なんで私の自由を奪うの?! なんで……私からヴェノン亭を奪うの? お兄ちゃん、なんで帰ってこないの……」
綺麗なお化粧が崩れ、そしてプリムは崩れ落ちた。
「――よく言えたじゃないすかプリムさん」
アレンの手のひらがプリムの頭に乗った。
「素直じゃないんだから全く。最初からそう言ってくれたら、さっきは叱ってやれたのに」
「あ、あれん……」
彼は、そう言い、大きく息を吸い込んだ。
「嫌なら嫌って言えよこのバカ!!!!」
プリムの鼓膜を揺らしたのは、紛れもないアレンの声だった。
「……って言って欲しいとか、ドMすかプリムさん。――導いて欲しいなら、もっと俺に頼ってください。いいですか、プリムさん?」
「うっ……ありがとう、アレン。ごめんなさい、アレン」
「いいんすよ。誰だって叱って欲しい時はあるものです。自分の不満が爆発した時は、いつだって言ってください。俺は、そう言うやり方でしか人を救えない乱暴な勇者っすから」
そう言い、アレンはパブフネッカと目線を合わせる。
「――アレン君。君って人は……」
「プリムさんはもう俺たちの仲間だ。道を違えたなら、叱るまで。でも、その意見は尊重する。それが、俺の生き方だから」
アレンは蹲るプリムに手を差し出し、
「行きましょうプリムさん。みんなで行けば、怖くないでしょう?」
満面の笑み。
その表情は、前世のアレンの『人を救う時』の笑顔そのものだったのである。
「……ふふっ。本当、アレンって女のあやし方が下手くそ。アホっ」
「な、何?!」
「髪、セットしたのに、こんなにクシャクシャって頭撫でたら一からやり直しじゃん。女の子を泣かすのもダメ。本当、クソ童貞」
「っ……」
「でも、今回は素直になってやるわ」
涙で崩れた化粧のまま、プリムはアレンの手を取った。
「――本当、素敵すぎて私には似合わないな」
◆
読んでいただきありがとうございます!
アレンの娘・リアム。
そして、ついに本心を吐き出せたプリム。
ーー次回、アレンたちは王宮へと向かいます!
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