第9話 イリスと水族館
今日は水族館に行く日だ。
「イリスちゃん、なんで私も誘ったの?」
「小鳥さんや、何故だと思う? 答えはね。あれを見ればわかるんだよ」
俺は両親を指さした。
「将吾! 水族館なんて久しぶりね!」
「そうだな。俺のプロポーズの場所だからな!イリスも気になるだろ?」
いえ、全く気にならないです。
「そんなことより早く行こうよ」
「アリサ、イリスが反抗期なんだが……」
なぜ?
「大丈夫よ。イリスが中学生になる頃には私たちなんてゴミ同然に扱うようになるわ。まだ幸せな時期よ。ほら、早く行くわよ」
いくらなんでもそれはしないぞ。友人たちをゴミ同然に扱うとか無理だろ。どんだけ酷いことしたんだよ。浮気か? それならゴミ同然に扱うかもな。
俺たちは車に乗って水族館に移動した。ちなみに今日は平日なので客は少なかった。小鳥は誘ったら有給をとって休んできたらしい。
「よし、着いたぞ」
「送り迎えありがとう。それじゃあまた帰り」
「小鳥酷くね? 誘ったの俺だぞ?」
いや、俺だ。お前は金を払っただけだ。
「パパありがとう。それじゃあまた帰り」
「イリスが真似したじゃねーか! しかもなんか凄いバカにしてる顔されてるんだが!?」
嘲笑だから気にするな。
「まあまあ、それじゃあ私は将吾と回るからイリスは小鳥お姉さんと好きなところ見てきてね」
小鳥に全て任せたな。どうせこの二人のことだから二人でイチャイチャしたいだけだろ。まあ俺もそっちの方が楽だからいいんだけどな。
「じゃあイリスちゃん、行こうか」
「うん!」
俺は小鳥と手を繋いで水族館の中に入った。
「ねえ、なんで手を繋いでるの?」
「イリスちゃんはすぐに転ぶからね」
「それはアリサちゃんだな。私ではない」
「そのアリサちゃんの血を受け継いでるのは誰かな?」
だが、俺は転んだことなんて1度もないぞ?
「きゃ!」
転びそうになった俺は小鳥に後ろから引っ張られた。
「ほら言わんこっちゃない。これで自覚したでしょ?」
「い、いや今のは全くのぐーぜんで……」
「あまいわね。アリサのドジのレベルを1番知ってるのはあなたでしょ? アリサは周囲にすら迷惑をかける存在なのよ。その血を受け継いでるイリスちゃんはアリサほどじゃなくてもその能力を持ち合わせている。十分気をつけないと大惨事になるわよ?」
確かにそうだな。こればかりは認めざるを得ないな。気をつけよ……
「でも1番周りに迷惑をかけているのはことr……」
「何か言った?」
「いえ、なんでもありません」
コイツのイタズラはマジで話にならないからな。啓介とか的にされてたからよく骨折してたからな。しかも証拠を残さないところがマジで卑劣だな。まさか啓介が死んだ理由って……
「ほらあそこでナマコのおさわり体験やってるよ?」
「手袋と子どもの人だかりで触れないんだけど?」
ナマコ人気過ぎないか? どんだけだよ……
「そうだったね。それじゃあなにしにきたの?」
「これが気になって来たんだよ」
俺は小鳥にタブレットの画面を見せた。タブレットはコートの内ポケットに丁度入るようになっていて凄い便利。
「ああ、イルカのエサやり体験ね。全く、イリスちゃんもすっかり女の子になっちゃって」
「うるさい、早く行くよ」
「はいはい」
俺は小鳥とイルカのエサやり体験場に移動した。
「はい、じゃあこのエサをイルカさんにあげてね」
俺はスタッフさんからエサを貰った。
エサグロくね? 何このザリガニを上からすり潰した感じのエサは……道理で他の子どもたちがナマココーナーにいる訳だ。
俺はイルカにエサを投げた。
「食べた!! 小鳥お姉ちゃん! 食べたよ!」
「よかったね。ほら、次のイルカが待ってるよ」
「お母さんですか? ずいぶん可愛いらしい娘さんですね」
「いえ、知り合いの子でしてね。今日はデートするからって任されたんですよ。私としてはもう最高ですよ」
「そうですね。あの笑顔、守りたいですね」
「はっ! 写真撮らないと!」
パシャパシャ!
なんか隅でロリコン話をしているが俺には関係ない。ただグロいザリガニをイルカに与えるだけだ。
数時間後……
「まさかイルカのエサやりに3時間以上いるなんて……」
「ごめん……つい楽しくて……」
だってイルカが次から次へとやってくるんだぜ? 可愛い過ぎだろ!
「最後の方のイルカとかヤバそうだったね」
お腹めっちゃ膨らんでたな。
「そんなことよりお土産屋行こ!」
「まさかとは思うけどイルカのぬいぐるみとか言わないよね?」
それは欲しがらない方が無理があるな。
「顔をそらさない。そっち見ても壁しかないわよ。だいたいここにあるぬいぐるみは全部ダメよ。温度に耐えられないかもしれないからね」
そんな……俺のイルカたん……
「プッ! 今、心の声が表情に……」
「笑うな!」
「今度……イルカたんの……ぬいぐるみを……作ってくるから……」
笑いを堪えながら言うなよ。でも……
「ありがとう。小鳥」
「……変わったね。本当に。前ならそんなこと言わなかったでしょ?」
「アリサたちのおかげかな?」
「そしてイリスちゃんは2秒後にドジを踏む」
……は?
「きゃあ!」
ポフッ!
「小鳥……助かった」
今度は小鳥が前から受け止めてくれた。
「1人の時は気をつけてね」
「はい……」
その後、アリサと将吾と合流して四人で車の置いてある駐車場に向かった。
「へぇ、イリスがそこまで嵌まるなんてね」
「ホント可愛いかったよ。あっ、動画送るね」
「いつの間に!? 今すぐ消して!」
「無駄よ。もう送ったから」
遅かったか……
「可愛い……私の前じゃこんな顔したことなかったのに……」
アリサがいる時はいつもつまらないタイミングだからな。
「いつもは無理やり作ったような微妙な笑顔なのになんていい笑顔なの……」
え? 俺ってそんな微妙な顔してたか?
「アリサ、俺にも見せてくれ」
「だめ!!」
俺は小鳥を踏み台にして将吾のところまで跳ぼうとするが……
ガッ!バタンッ!
「「「イリス(ちゃん)!!」」」
「痛い……」
アリサの足に引っ掛かり転んだ。するとアリサは俺を抱き上げ、頭を撫でた。
「痛かったよね。大丈夫よ、パパには見せないから」
「うん……」
「じゃあ行こうか」
ガッ!
「あっ……」
おい、アリサ! やめろ! このタイミングはないだろ!
「イリスちゃん!」
ダキッ!
小鳥はアリサから俺を取り上げた。
バタン!
「助かった……」
「こっちは助かってないけどね……って! 将吾! 大丈夫!?」
アリサは無事に転んだようだ。そしてそのアリサのスカートの下敷きになっている男は……
「なんで将吾がラッキースケベになっているのよ」
「水色……はっ! そんなことより小鳥、早く出してくれ!」
「今イリスちゃん抱えてるから無理よ。じゃあ先に車に戻ってるね。行こうかイリスちゃん」
「そうだね。早く帰ろ。小鳥お姉ちゃん。私もう眠いよ」
「そうね。それじゃあ警備員さんとごゆっくり……」
将吾、頑張れよ。俺はもう寝るから。
「いや! これは違うんです!」
「言い訳は応接室で聞きますよ。ほら、立って!」