第22話 校外学習
悠司を放置してから全員が戻って来たあと、結局俺が悠司に話かけに行った。
「おじさん、元気出してよ。おじさんももうおじさんなんだから泣かないの」
「おじさんはやめてくれ……」
そんなことは知らん。お前はおじさんだからな。
「はい、皆さんバスに乗ってくださーい」
おい、お前はなにをしてるんだ。せっかくの俺の苦労を無駄にするようなことをするな!
「早く行こうよ! 先生」
「あ、ああ……ごめんなイリス……許してくれ……」
ん? なぜ俺に謝るんだ?
「実はな、お前が俺のところに来たときの小鳥の顔が……」
「あーあーあー!! あーなーんにもきこえないよー!!」
「……現実を受け入れることも時には重要だ。頑張れよ」
あの小娘許さん。人に行かせて置いて俺にイタズラしようとするなんてありえん! なにかあったら小鳥の秘密をバラしてやる!
「イリスちゃんも早く乗ろうよ!」
「うんわかったよ! 光ちゃん! 蒼真くん!」
俺は光ちゃんと蒼真くんとバスに乗る。席は前の方しか空いてなかったので1番前に座った。二人席なので光ちゃんと蒼真くんと通路で離れてしまった。ちなみに俺の隣には小鳥が座っている。まあ、どうせ駅までだからどうでもいいけどな。
そしてバスが主発した。
「うぷっ……」
「イリスちゃん、大丈夫?」
酔った……出発してたったの1分もしないうちに……いかに小鳥の運転が上手いのかがわかったな……
「ちょっとこれ飲んでなさい」
「ありがと……」
俺は小鳥から水(常温)と薬を貰った。
「どう?」
「ひんやりしてて気持ちいい……」
「イリスちゃんの感覚って変わってるよね」
「そうだね。それぬるいだろうに……どこが冷たいんだろう……」
本当に冷たいぞ? まあ、俺の感覚だけどな。
「そういえばイリスちゃんは6年生にある学校のお泊まり会? はどうするの?」
はい? なんだそれ?
「それなら大丈夫よ。保健室で寝泊まりさせるから気にしないで」
へーそうなんだ……
「そろそろ駅に着くわよ」
俺たちはバスが停まったあとに悠司の誘導で電車に乗った。五駅で着くので意外と近いが、車で移動すると数時間掛かるらしい。理由は道が整備されていない山があるから周り道をしないといけないかららしい。
トンネル開通してんだからそれくらいしとけよって感じもするが、もしあのままだったら俺は100%吐いていただろう。
「僕、電車なんて初めて乗った! イリスちゃんは?」
「私も初めてだよ!」
もちろん嘘ではあるが、中学の修学旅行で一度乗っただけなので興奮している。電車って凄いよな。この町の電車なんてこれ1つだし、そもそも街中にネオンモールや白石総合病院があるから日常生活においてわざわざどこかに行く必要もないので、普通の街中の人たちは乗る機会も少ないのだ。電車を使うのはサラリーマンくらいだ。
「この興奮してるイリスちゃんを写真に納めないと!」
パシャパシャ!
「「(シスコンなのね……)」」
※ロリコンです。
また写真撮ってるし……そんなに撮って何が嬉しいんだ?
「そろそろ着くわね。イリス、準備しときなさい」
「はーい」
俺は光ちゃんと蒼真くんとリュックを背負って小鳥たち保護者の近くに移動した。
そしてその後、電車から降りて、徒歩で今日見学する研究所に移動した。
「げっ! やっぱりここか……」
「あら、なにがいけないの?」
「なんで僕が……」
もしかして葵さんの知り合いの研究所なのか?それにさっき向かい側にある喫茶店をチラ見してたな。帰りに小鳥に言って寄ってみるか。
「はい、水無月小学校のみなさんようこそ伊東研究所へ! 私の名前は伊東 紅葉っていいます。よろしくお願いします!」
「「「よろしくお願いします!!」」」
初めてうちの学校の名前知った……水無月小学校だったのか……
「この研究所では私たち人間がどのような遺伝子を持っているのかを研究している研究所です! 他にも新しい植物やクローンの開発をしています。自由に見ていってください!」
「「「はーい!!」」」
ん? クローン? 気のせいだな。うん。別に後ろのカーテンから同じような人が何人か見えたような気がしたが気のせいだな。
「はい! それではここから先は私が案内しますので、みなさんついてきてください!」
「イリスちゃんと同じ髪だ!」
「え?」
あっ、ホントだ……ロシア人なのか?
「こんにちは」
「あっ、はい。こんにちは……」
ん? どうかしたのか?
「それでは案内しますね。私の名前は吉川 ティナと言います。本日はよろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします!」」」
「イリスちゃん……でしたよね?」
「はい? そうですが……」
数分後……
パシャパシャ!
「可愛い! 可愛いよ! イリスちゃん! 可愛い!」
なぜこうなった……
今の俺はティナさんに抱っこをされて、小鳥とカメラマンに写真を撮られながら、光ちゃんたちにひたすら可愛いを連呼されながら案内されていた。せめてカメラマンは仕事しろ!
「あの……どうして……」
「あっ、ダメでしたか? 私、息子と双子の娘が居るんですが、息子は抱っこなんてさせてくれませんでしたし、娘たちは双子なので私の力じゃ抱っこできなくて……
1度でいいからずっとこうして見たかったんですけど……ダメ……ですか?」
断りにくいわ!! しかも俺はNOとは言えない日本人なんだよな!
「いえ、大丈夫です……」
「そうですか。ありがとうございます♪」
「ティナ、アンタは自分の妹でも抱っこしてなさいよ……」
葵さんはティナさんと知り合いなのか?
「だってあの娘はなんというか……可愛げないし」
「そう……」
妹さん可哀想だな。ティナさん、小鳥に劣らないくらい美人な人なのに……俺の中では小鳥の上位互換だな。
「イリスちゃん? 今なんか人のことを独身だからってバカにしたよね?」
「なんでわかったの! 気持ち悪いよ!」
「……まあ、まだお若いですし未来もありますよ」
コイツこれでも30超えてるんだよな……
それから俺たちは研究所のいろんな場所に案内され、昼食の時間になった。
「イリスちゃん、一緒に食べよ」
「うん! 蒼真くんもどうかな?」
「僕はちょっとトイレで……」
便所飯だと!? その年でやるのか!?
「蒼真、ダメよ。折角の可愛い女の子たちのお誘いを断るの?」
「はい、すいませんでした」
弱肉強食の世界だな……
「イリスちゃん、食べさせてあげるね」
「ん? いやだいj……光ちゃんありがと」
光ちゃんの誘いを断ろうとしたら小鳥が凄い笑顔で見てきた。
こっちも弱肉強食の世界だったか……
「はい、あーん」
「あーん」
パクっ!
……少し恥ずかしいな。
パシャパシャ!
「あの、私も一緒にいいですか?」
ティナさん? なぜ?
「ティナもおいでよ。一緒に食べよ」
葵さん!?
「ありがと葵。よいしょ」
「へ?」
ポフッ
なぜ俺はティナさんの膝の上に座らせれてるんだ?
「あーずるい! 光がイリスちゃんをそうしたかったのに!」
「そっち!?」
普通は「膝の上いいな! 光もやって!」じゃないのか!?
「はい、イリスちゃん、あーん」
焼きたてのホカホカで一口サイズの焼き鮭だと!?
「あーん」
パクっ!
「どう? おいしい?」
「おいしい!!」
なにこれ! めっちゃ上手い! 小鳥よりも上手いんじゃないか!? チートを超えるチートか……これなら世界一の料理屋開けるな。
それにお主もなかなか焼き鮭の素晴らしさがわかってるではないか。焼き鮭教徒を広めるチャンス!
「イリスちゃん? どうしたの?」
「小鳥お姉ちゃん、いままでありがとう、お疲れ様でした。もう帰っていいよ。ティナさん、私と一緒に焼き鮭の素晴らしさを知らない愚か者たちに布教しに行こう!」
「捨てられた!? イリスちゃんお願いだから戻って来て!」
「イリスちゃん、大切なお姉ちゃんなんだから捨てちゃだめよ?」
それから俺はティナさんに焼き鮭教団に入ることを断られてしまった。
せっかくの焼き鮭教団第2号が……