第129話 家族会議でおっさんのモザイクアート
小鳥に抱っこされたまま家に入るとリビングからうるさいジジイの声がした。
「全く、まだ帰って来ないのか! こっちには大事な話があるというのに!!」
「まあまあ、そんなに言わなくても……あっ」
やべっ! 将吾たちに見つかった。小鳥様、あとは任せた。
「小鳥! お前というやつはこんな時間までどこをほっつき歩いていたんだ!!」
「別にいいでしょ!! もう子どもじゃないんだから!!」
「父さんから見ればお前はまだまだ子どもだ!!」
「小学校に入った瞬間に家から追い出したヤツが父親を語るな!!」
思春期の娘とその親か!! とはさすがにツッコめない……でも小鳥様だってもう三十路だぞ? 10年前からずっと三十路だけど。
「もう今日は遅いからいい。明日、うちに来い。将吾くん、さっきの話、良い返事を期待してるよ」
あっ、これ絶対めんどくさいやつだ。
「帰るぞ」
「かしこまりました」
ジジイは執事を連れて帰って行った。
さて、今日はもう遅いし、寝るか。
「イリスちゃん? まだ18時よ?」
意義あり!!!
前回は日が暮れて遅いから帰ろうと言っていた。そしてこの学校は三学期制で今は1学期で、この前中間テストを終えて、文化祭をやったので6月半ばから6月末ぐらいであると推測できる。よって18時に日が沈むわけがない。
裁判官! つまりこれは矛盾しています!!
「矛盾がない物語なんてないのよ!!」
名言っぽく言うな! 今は絶対19時過ぎてるだろ!!
「いいえ、18時よ!」
「そんなわけない!! 19時!」
「どっちでもいいから早く食べろよ!!」
将吾が割って入ってきた。
ちょっと今は黙ってろ。小鳥様と時間の勝負をしてるんだから!
「今晩の焼き鮭、執事さんがくれたやつで超高級なやつなんだがいらないのか?」
「!?」
こ、高級焼き鮭……だと……!? 時間なんてどうでもいい!! この高級焼き鮭を食するのだ!!
「ヤキジャーケ様、ありがとうございます。いただきます」
俺は高級焼き鮭を箸で一口サイズにカットして食べる。
「んあぁ~~いっ!!」
「ずいぶん幸せそうに食べるこった……ん? おい大丈夫か!? しっかりしろ!?」
横を見るとアイちゃんが幸せそうな顔をして天に召されていた。なんかアイちゃんが二重に見えるような……
「魂抜けてるっ!? アイちゃん!! しっかりして!!」
「……はっ!? あ、ありがとイリスちゃん……」
よかった……危うく焼き鮭で人が死ぬところだった。
「ところで将吾、さっきの話って何?」
小鳥が将吾にさっきのジジイの話を聞いた。俺はどうでもいいので温かいお茶を口に運ぶ。小鳥も同じタイミングでお茶を口に運んだ。
「俺がアリサを捨ててお前と結婚する話だ」
「「ぶっ!?」」
「熱っ!?」
俺と小鳥は同時に口からお茶を吹くと、全てアリスにかかった。
いつもアリスに命中するとか凄いよな。これはもう才能の域だと思う。
「「マジ!?」」
何か小鳥とニュアンスが少し違ったような気がする……
「ああ。もちろん断るけどな」
そりゃそうだろ。断らなかったらお前を許さんぞ。
「ダメよ将吾。この話に乗りましょ! そうすれば私もお見合いなんてことしなくても済むんだから!!」
小鳥、お前は一体何を言ってるの? 乗ってどうするんだよ。アリサは今後どうするんだよ。
「それはお前のことだろ。俺たちには関係ない」
「もう嫌なのよ! あんなブスどもとお見合いするなんて!」
小鳥が何処からかアルバムを取り出して開いた。すると今までお見合いをしてきたおっさんたちの写真が並んでいて、それだけでも面白いのにそこにおっさんたちで出来たモザイクアートがあって、より面白さを際立たせていた。
「「「「ブッ!?」」」」
小鳥以外の全員で声を殺して、肩をプルプルさせながら笑っていた。
さすがにモザイクアートは卑怯だ。これで笑わない方がおかしい。
「た、確かにお前の苦労もわかったぞ……でもこれはさすがにドンマイ……」
「笑わないでよ! これ全部とお見合いしたんだから!!」
うん、それはまあ、ドンマイ。
「じゃあ絶縁しろよ」
「出来ないから言ってるんでしょ!? あの金とモノに五月蝿いジジイが絶縁させてくれると思ってるの!?」
いや、お前チート持ちなんだからそのチート使って何とかしろよ。
「そんなに結婚したいなら悠司としてろよ」
「誰があんな全身タイツと結婚するのよ!?」
お前だよ小鳥。むしろお前以外にはいない。
「イヤよ! あんなアホと結婚なんて! 将吾何とかしてよ!」
……あれ? 将吾は一体いつからハーレムモノの主人公になったんだ? というかこの家に男性と呼べる人は将吾以外にいないような……
「なんかハーレム完成してない?」
「「「「!?」」」」
その俺の発言が流れを変えた。
「確かに……」
「将吾サイテー」
「ラノベ主人公ー」
「お父さんへんたーい」
「パパ、これハーレムモノじゃないんだけど? どういうつもり?」
みんなで将吾を罵る。
「そんなつもりないんだが!? というか嫁と子どもがいて、その友人たちが家に住み着いてるだけなんだが!?」
なんやかんやで将吾が弁明をするという日常的な流れになって明日全員で小鳥の実家に行くことになった。




