第119話 苦手なモノが多い幼女は遂に克服したが、世の中そんなに都合良く出来ていない
目を覚ますと見馴れた天井だった。
「病院の天井を見馴れた天井って言うな」
「言ってないんだけど……」
起き上がると少し違和感を感じた。
もしかして少しだけ暑い? いや、そんなわけない。普通のはずだ。この温度でこの16年間やってきたんだから暑いなんて感じるわけがない。
「小鳥お姉ちゃん、飲み物ちょうだい」
「はいはい……」
小鳥からお茶を受け取り、飲もうとすると。
「熱っ!?」
「え?」
お茶凄い熱いんだが……これ何度だよ。せめて100度までにしとけよ。飲めないだろ。
「そのお茶普通に90度ぐらいなんだけど……」
「え?」
今までも90度ぐらいで飲んでたから熱いなんて感じるわけがないはず……
「ちょっとトイレ行ってくる」
「あっ、これコート」
「ありがと」
俺は病室を出て真横にあるトイレに向かった。
……あれ? 足とか寒くないような気がする。いつもはつま先とか凄い冷たいのにそんなに寒くないような……
俺はトイレに入ると便器の蓋が自動で開いた。
「相変わらず豪勢なトイレだこと」
ここのトイレは俺専用で、俺が使うことが出来る数少ない洋式トイレの1つだ。
……オムツだと外すのめんどくさいな。これがオムツの弱点か。
それからなんやかんやでトイレの水を流し、手を洗っている最中のこと。
「……ん?」
俺の目の前には銀髪の白い瞳の女の子がいた。
「だれ?」
試しに右手を振って見ると女の子は左手を振った。
「はいーん」
あの有名な『ハイーン』をすると女の子も『ハイーン』をしてきた。
……なかなかノリのいい女の子だな。面白い、どこまでマネを出来るかな?
「……にょーが震えるうぅぅぅぅぅぅ!!!」
まあ、これぐらいは出来るよな。とりあえず跳び跳ねてみるか。
数秒間飛んでからの!
「こまね『そのポーズは見苦しいからやめろおおおおおお!!!』」
足元から性犯罪者が出てきた。
やっぱりお前変態だな。俺の股に頭突っ込んでくるとかあり得ないな。
『お前少し黙ってろ! そろそろ現実を見ろ!』
「現実?」
『お前の瞳、まるで俺の精◯みたいで綺麗だぞ?』
うわー気持ち悪っ……俺やアイちゃん、アリサの翠色の瞳をバカにしたのはお前が初めてだ。特別に保健所に突き出してやろう。というかミトコンの◯子って緑色なのかよ。ずいぶん気持ち悪い色してんな。
『……まあ、すぐに現実を知るさ』
「?」
現実? 急にどうしたんだ? よくわかんないの。
それからベッドに戻り、小鳥と適当な話でもしながら時間を潰していると夕飯が運ばれてきた。
「焼き鮭教徒ばんざーい!」
「よかったね」
さすが将吾だ。わかってるねぇ。
「焼き鮭神 ヤキジャーケ様、今日も立派な焼き鮭をありがとうございます」
「普通にいただきますって言いなさい」
バンっ!
俺が焼き鮭を食べようとすると扉が凄い勢いで開いた。
誰だよ俺の『焼き鮭いただきの儀』を邪魔してくるやつは!
「イリス! 目を覚ましたのか!」
お前か将吾! 今すぐ退出しろ!
「……なんか目の色 白くなってないか?」
「え?」
横を見ると小鳥が鏡を渡してきた。見てみると先ほどの女の子がいた。
「…………」
マジ? ミトコンの言ってた現実ってこれのこと? マジで精◯みたいな色してんじゃん。どうしてくれるんだよ。学校行ったらあだ名が◯子なんて嫌だぞ。
「大丈夫か?」
「あっ、うん……」
マジかぁ、あだ名が精◯かよ……これからの人生、困難を極めるだろうな……
「(やっぱり落ち込むよな。アリサと同じ瞳の色がイリスの唯一の自慢だったもんな)」
「(将吾は一体何を勘違いしてるのかしら?)」
もうキモデブのこと馬鹿にできねーじゃん。俺もうアリスの同類じゃん。どうするよ……
「まあそう落ち込むなよ。とりあえず夕飯が冷める前に食べな。話はそれからだ」
「うん……」
俺はごはんと焼き鮭を食べてごちそうさまと言おうとした瞬間に小鳥が野菜を突っ込んできた。
「…………」
スゥ、ファサ……
音もなくベッドに倒れた。……なにこの効果音?
次に目を覚ますとアリサとアリスがいた。あとルーシーたちも。
「みんな相変わらずもふもふだね」
俺はルーシーたちを抱きしめる。
なんか凄い久しぶりのような気がする。アリサたちの登場の方が久しぶりだけど。光ちゃんとか最近みないもん。アレもう完全にモブじゃん。
アリサが突然俺を抱っこしてきた。
「イリス、落ち着いて聞いてね?」
「うん」
アリサは俺を抱きしめながら言った。
え? もしかして俺、消えるのか?
「あのね……イリス、もうコート要らないのよ」
「うん…………え?」
いまなんて言った?
「だからコート要らないのよ。おめでとうイリス」
コートが要らない? まさか……体育の授業サボる口実が消えた!?
『どうしていつもあらぬ方向へ行く!?』
「よし、イリスが退院したらみんなでお寿司でも食べに行くか!」
そっか……もう冷たいものも食べられるってことだもんな。だからさっきのお茶とか熱いって感じたのか。
「いまのイリスちゃんの状態は寒いのが苦手だけど、40度の環境でも平気な女の子って感じかな?」
葉姉がいた。一体どこから入ってきたのだろうか?
「葉月ちゃんだっけ? なんでここに?」
「イリス知ってたのか」
そりゃ、一応元姉ですから知ってますよ。それに俺の貧乳非リア幼女なんだから仲良くするに決まってるよな?
「なんか凄い罵倒された気がするんだけど……とりあえずおめでとうイリスちゃん。あっ、私もお寿司食べたい」
スゲー図々しいな。突然出てきたと思ったら寿司食べたいかよ。頭どうなってんの? さすが音姉の妹だな。図々しさと図太さだけは凄いなこの姉妹。
「あっ、目が白くなった理由の説明しないといけないんだった。えっとね。それね。よくわかんない」
じゃあ説明すんな。黙ってミトコンドリアを連れて消えろ。
「ミトコンドリアはイリスちゃん大好きだから影から出てこないから無理。ごめんね。あきらめて?」
おい出てこいミトコンドリア。
『拙者、出ていきたくないでござる』
……俺はミトコンドリアを召喚!
『ミトコンドリアは召喚を拒否したでござる』
来いよおらぁ!
俺は影に手を突っ込んでミトコンドリアを取り出した。
『は?』
「葉月ちゃんパス!」
葉姉に向かってミトコンドリアを投げる。
「要らないよ!」
なぜか返却された。俺もこんなゴミ要らないんだけど。しかもアンタ責任取って処分するって言ってたじゃん。ちゃんと処分しろよ!
『処分って言うな!』
「嫌だよめんどくさい……そうだ! 私もイリスちゃんの家に住めばいいんだ!」
全然解決になってないし、居候がまた増えたよ。これで三人目だ。でも幼女だから許す。
「ようこそ白石家へ!」
「「「はやいはやいはやい!」」」
将吾たちに止められてしまった。
別にいいだろ? 幼女の1人ぐらい。幼女が住まわせてくださいとか言ったら世の中の8割以上の人が二つ返事でOKするぞ?
「さすがにウチに住まわせるわけには……ご両親とかもいるだろ? だからまずはお母さんとかに連絡して」
「大丈夫です。あらかじめ許可は貰ってます」
葉姉は許可書みたいな紙を出してきた。
ちゃっかりしてんな。あらかじめ住む気満々だったのかよ。
「でもお金とかも……」
「金ならあります」
何その金持ち宣言。お前の喫茶店赤字だっただろ? ……それ俺の通帳!? なんでまだあるんだよ!?
「琴道のやつなかなか持ってたじゃねーか。集っておけばよかったな」
お前なんかに奢るバカいねーよ。黙ってうんめー棒でも食ってろ。
それからなんやかんやあって、葉姉がうちに住むことになった。




