第98話 ご注文のお茶はきゅうすを使用していませんよ?
望遠鏡キューブを買った翌日。朝起きてリビングに向かうと将吾とアリサが頭を抱えて何かの本を見ていた。
「パパ、ママ。どうしたの?」
「ん? ああ、イリスも今年で16だろ?」
「うん」
昨日までは3歳とか言ってたけど。
俺はホットココアを手に取り飲む。
「それでな。お前が医者をやらないっていうから後継ぎ問題が発生してな。
お前の結婚相手を探してるんだよ」
「ブッフォ!?」
「熱っ!?」
思わずココアを口から出してしまいそれがアリスにかかった。
「後継ぎならアリスにやらせればよくない?」
「アリスは……実はもう決まってるんだ」
……は? 決まってる?
「千田財閥のお坊ちゃんとな……本当はこんなことしたくないんだが」
どこの財閥だよ! 小鳥の親戚か!? っていうか政略結婚なのかよ!
「それで嫁入りして居なくなるから後継ぎ問題が発生してるんだ……」
へー
「私は独身でいい」
「じゃあ医者目指すのか? それにいつかは誰かと結婚しないといけないんだぞ?」
いやそれはちょっと……
「ならここから選びな」
将吾が見せた本には1面に数多くのイケ面が写っていた。
「なにこの爽やかなイケメンたちは! ムカつく」
ぐさっ!
「おまっ!? ペンで写真に穴を空けようとするな!」
さすがにこれはないな。俺の中で爽やかイケメンは何処かの誘拐犯のせいでホモのイメージしかないからな。
「アイちゃんがいい!」
「……は?」
というわけで部屋に移動してアイちゃんに聞いてみた。
「え、やだよ」
断られた……あと俺が知ってる男の子は……
「蒼真くんしか居ないかぁ……」
「やっぱり医者になる」
? よくわからないけどなりたいならいいか。
「そう? ありがとー」
これで俺は女の子に恋をしたことになるからセーフだな。
「というわけで後継ぎ見つけたよ」
「そうか……アイリスって男だったのか……」
そこから? 今さらじゃない? まあいいや。とにかくこれで解決したわけだな。
「こんなやつで悪いがウチの娘どうかよろしく頼むな」
「はい! 必ずドジに耐えてみせます!」
おい、何がドジに耐えてみせるだよ。俺が外で転んでるところ見たことあるのか? ほとんどルーシーたちに乗ってるから転ぶことすらないぞ。そこは俺がきゅんとくるようなセリフを言うのが常識だろ!
「ドジじゃないもん!」
パリンっ!
そのタイミングで俺はカップを落とした。
「「「どこが?」」」
「……もういい!」
「拗ねてるイリスちゃんも可愛いって思ったでしょ?」
お前は登場した瞬間に何を言ってるんだよ。
「「思った」」
思った。じゃねーよ! 親バカもほどほどにしとけ!
ピンポーン
誰だよこんな時に……
「イリスか。アリサたちはいるか?」
俺が玄関の扉を開けると野生の全身タイツが現れた。
「間に合ってます」
俺は玄関の扉を閉めようとする。
「ちょっと待て! お土産に鮭があるから!」
鮭? 仕方ないな……
俺は閉じかけていた扉を開ける。
「お邪魔しまーす! 迎えに来たぞ?」
「約束は午後だろ。なんで今来たんだよ」
「暇なんだよ。あっ、イリス。俺にお茶淹れてくれ。温かいのを頼む」
なんだコイツは……かなり図々しいぞ。
そう思いながらも俺はキッチンに行って湯飲みを取る。
……お茶ってどうやって淹れるんだ? たしかこの茶葉を使うんだったよな?
「…………」
よくわからないのでとりあえず湯飲みに茶葉がいっぱいになるまで入れてみました。
あとはお湯を入れるんだったな。ちなみにうちのお湯の温度は俺が飲んでも温かいと感じるようにするため、常に100度を超えている。
つまりこのお茶は沸騰しているのだ。
「できたよー」
「悪いな。って熱いお茶をそのまま持つとはさすがだな……」
あったかいぐらいでちょうどいい温度だと思うぞ? 少し悠司にもこの温かみを与えてあげよう。
「熱っ!? お前何してんだ!?」
「このぬくもりを教えてあげようと思って……」
「どこがぬくもりだ! 火傷するだろうが!」
なぜか怒られた……悠司にもわかって欲しかったなぁ……
「アイちゃん、これ温かいよね?」
アイちゃんに湯飲みを触らせる。
「うん、ちょうどいいと思うよ? 先生飲まないんですか?」
「飲めんわ! 殺す気か!」
全く、こんなものも飲めないなんて人生の5億分の1は損をしてるぞ。
「じゃあここに置いておくからね」
「ああ、ありがとな。冷めたらじっくり味わって飲むからもう部屋に戻ってていいぞ」
……え?
「別に私も……」
「子供には難しい話なんだ。大人しく犬の散歩でもしてきな」
もう子供じゃないのに……
「わかったな?」
なんか小鳥様が後ろから凄い圧を出してくるんだが……
「はい……」
俺は小鳥様の圧力によりルーシーと散歩に行くことになった。
「じゃあ、お茶でも飲んで落ち着いてから話そうぜ? ……ブッフォッ!? ゲホッ! ゲホッ!」
……やっぱりお茶の淹れ方間違えたかな?




