シャハトのメフォ手形に見るアベノミクス失敗の理由
ナチスドイツにおいて国家財政を切り回したヒャルマル・シャハトが再軍備用の資金としてメフォ手形を用いていましたが、手法がアベノミクスというか黒田バズーカというかにあまりにも似ているため、今後の予想が立つようになりましたので、ちょっと書いてみる気になりました。
メフォ手形というのは軍備の際に切り出された手形で、財政の裏づけ無く発行されますが、一定の割引率の下で政府が支払いを約束した手形です。
これで、5年間に200億マルク以上の資金を用意したのですが(現在の価値だと20兆円以上)この手法はシャハトはヒトラーに4つの条件を飲ませて使用したものです。
1、期間は8年以内で総額が350億マルクを越えないこと
2、短期金融市場および資本市場の統制
3、遅くても5年以内にメフォ手形の償還を始めること
4、物価、及び賃金の現行水準を維持すること
1番の期間と総額は後から見る限り当時のドイツ経済から見て極めて妥当な水準に設定されています。
2番と4番はインフレ対策で3番はこのメフォ手形の性格上必須とも言えるものです。
ではメフォ手形の本質は何かというと
基本は日本の国債と同一のもので、数年先の国家財政からの支出を元に現在の支出を増やす手法です。
手形になっているのは連合国に予算で軍事費と悟られないための偽装です。
シャハトはこのメフォ手形を起爆剤にドイツの不況を克服しようと考えました。
実際にドイツの不況は終わり、好景気に突入するのですが、そのまま第二次世界大戦に入ったため、軍需産業以外には資源を向けにくい、戦争型好景気につながってしまったため、敗戦と共に消え去りました。
メフォ手形については1・2・4の項目は遵守されました(というかシャフトが守らせました)3の項目だけが守られませんでした。その結果、経済が破綻し戦時統制下で何とかやりくりせざるを得ない状況がドイツに発生します。(この前にシャフト及びその側近はヒトラーからライヒスマルクバンク総裁、及び幹部を首にされています。赤字国債の減少を要求した結果です。)
よく赤字国債は借り換えできるなら平気だ。とか国債は日本国民が持っていて外債で無いから財政は破綻しないなどという人を最近良く聞きますが、それは大嘘です。
アベノミクスの経済政策は時限付爆弾のような劇薬であることを理解してないといけません。
アベノミクスの基本は
①デフレを止めてインフレにする。
②そのために国債を大量発行してでも資金を市場に流し現金を市場に飽和させる。
③日銀が超低金利を行い、銀行に現金が留まらないようにする。
④現金が回りだすことで市場拡大が起こり好景気に移行する。
⑤デフレが止まりインフレになる。
というものでした。
ところが政府発表の指数ほど一般国民は好景気を感じません。
つまり好景気を感じる場所と一般国民のいる場所は異なることになります。
そこで好景気を感じやすい数値として株価があります。
そこで年金の運用割合を変えて株を大量に購入できるようにしました。
株価は上昇し1万未満から2万円を超えるまでになりました。
こうして政府は好景気をアピールしました。
それでも国民は好景気を信じません。
ついには春闘で経営側に政府が給料を上げるように依頼します。
それは大企業では聞き入れられましたが、もともと業績が悪い中小企業では受け入れられない話です。
やっぱり国民は好景気を信じません。
そう言ってる間にもリミットが近づいています。
景気が悪くなろうとどうしようと経済規模を大きくしなくてはいけなくなってきました。
そこで最後の劇薬を使うことになります。「消費税増税」です。
メフォ手形の末期はこのようなことになりました。
手形の借り換え、公債で対応しようとしましたがライヒスマルクバンクの金庫の中身はメフォ公債で埋め尽くされ、新たな紙幣を刷る余地が無くなったそうです。
紙幣は流通量を間違えばすぐにハイパーインフレにつながることをドイツは学んでいました。
このため流通量をメフォ手形で裏づけして水増ししたのですが、結局返さないわけには行かず、発行する分をメフォ手形と相殺せざるを得ない状況になったのです。
その結果、中央銀行に現金が無いという異常状態が発生したりしています。
今のアベノミクスの場合、日本銀行が持っている国債や政府金融関連機関とみなされる部署で購入しているためマネーストック統計では隠されています。
このため悪影響がどれくらいかは明確になりにくいのですが、年金を支払うときに含み損があれば、それは年金支給額を直撃しますし、国債の償還時期が来ればその分、その分通貨発行量を下げなくてはいけません。
今の経済規模はM3水準で1040兆円と公表されていますが、この中に日銀の買った国債200兆円は入っていません。
流通する現金は80兆円といってますので、一次的にせよ返済金額が80兆円を超える場合には必ず現金が現れます。
それこそ現在の年間0.4%増から一瞬で100%増以上に。
実際に刷るわけではないのですが、統計上発生してしまうのは確かで、かといって内密に処理というのも不可能です。
それこそ日本銀行の帳簿が壊滅します。
そして統計上そのような数値が発表されれば、間違いなく円の暴落が発生します。
何しろ今までの倍の通貨があるわけですから2倍にしてちょうど同じ価値になるはずです。
実際には償還前に借り換えしてもらうとかして乗り切っているのですが、徐々に外資による購入も増えている中(日銀20%に対し外国8.4%、)いつまでその手が使えるか不明瞭です。
あとは何年後に爆発するかだけの問題ですが
何よりも重要なのは赤字国債を減らすことなのですが、アベノミクスはそれができません。
やれば民主党と同じ手法を用いざるを得ないからです。
そして開始にあたりシャフトのメフォ手形のように規模や期間を設定できなかったのが大きいです。
首相が6年たっても堂々と道半ばと宣言することはつまり失敗している。いつかは成功するかもしれないといっているだけです。自民党は暗黙裡に党首二期後は交代していました。それが6年です。
3期目もやりたいといっている時点で、事前計画が破綻しているのは明らかです。
だいたいが失敗途中の人が事業継続すると大失敗するというのが、今までの人生経験で学んだことです。
ではなぜここまで持ったのか?
それの基本は日本人の高い貯蓄性にあると思います。
同時にキャッシュを増やしても景気が良くならなかった理由はそこにあります。
日本の貯蓄は1829兆円だそうです。
家計資産残高として出される数値ですが、個人資産の半分が貯蓄という形になっています。
つまりアメリカのように株式・投資信託・債権で資産の半分を占める国なら、今頃、日本も好景気になっているでしょう。
見える数字を得るため支出先を間違った、そういう実感があります。
他は旧来と変わらぬ土木工事。
需要と供給のアンバランスな労働者。
そして安定的に働けない社会。
お金が入ってきても使うどころではありません。
将来に向け預金しておくため、キャッシュが増えても他に回らずに直で銀行へと向かうのは当たり前です。
好況に見えるのはキャッシュの総量だけで、国民は労働環境の不安を持ち続けているのですから……
いまいち好景気と思えないのは人の心に潜む雇用の不安さと直結しています。
本来ならば、この部分に金を使って安心して金を使える状態にするべきだった。
法人税の引き下げや、正規雇用と非正規雇用の最低賃金の2本立てとか(非正規雇用を正規雇用の2.5倍くらいに上げてあげるとか)すれば、能力の高い人は企業を渡り歩きキャリアを積める形になったと思います。
普通の人は昭和のように年功序列でも問題なく働いてくれるでしょう。
現状の能力給は会社に縛られ賃下げにしか働きません。
あとは職業別の最低賃金の設定とかこのあたりを資本家と税制のバーター取引で勧めておけばよかったのにとしか思えません。
最後に推測ですが天皇家が大嘗祭を私費でと望んでいるのも、赤字国債の持つ危険性を重視して警告しているのかもしれません。(天皇家は政治的には発言できないのでなぜ公費を望まないかまでは正直に発言できませんが)