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ソウル・フラグメント  作者: 明後日
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第6話 初めての戦闘

 飼い犬のエマが持ってきた杖を投げたら、眩しく光り廊下が黒こげになった。

 一瞬の出来事で理解が追い付かなかった。

 すかさずエマが、ドミノ倒しに重なり合ったたくさんの下駄箱を軽やかに飛び跳ね拾いに行く。ゴールデンレトリバーの金色の尻尾がふさふさと揺れていた。

 夢の中でも遊びを忘れないのかよ、エマは。また投げろとぐいぐい杖を押し付けてくる。

 何もなければ楽しく遊んでられるのだが、今は状況がヤバい。

 光と爆発を見つけて"水虎"が、校舎出入口に向かって来た。

 安易な考えだが、これを"水虎"にぶつければどうにかなるんじゃないかと閃いた。ただ確実に投げて当てるとなると、結構近づかなければならない。

 "水虎"がガツガツと校舎出入口のタイルを傷つけながら入ってくる。体と尻尾をくねらせ歩く姿はワニっぽかった。

 見つからないように倒れていない下駄箱を背に隠れる。エマもお座りして一緒に待っている。なんだかちょっとだけ心強い。

 心臓がバクバクして焦る。

 "水虎"の足音が聞こえるとはいえ、下駄箱が邪魔で"水虎"がどの辺りまで来ているのかが見えない。


 ガツガツと足音が大きくなり近づいてきている。


 我慢ならず音のする方へしゃがんだまま近づいてみた。下駄箱から覗くと、ゆっくり"水虎"が歩いる。遠いとは言えない距離だ。

 重なり合った倒れた下駄箱が邪魔で見えない。これがなかったら隠れて移動は出来ない。必死だと自分の都合のいいもの以外は邪魔に思える。

 それにしても"水虎"は、音や匂い気配に鈍感なんだろうか?こっちは下駄箱を挟んで、倒れた下駄箱の上を歩く足音がわかる。

 どうする?回り込んで投げるか?でも外したら絶対に食われる。夢とは言え痛いのは嫌だ。


 悩んでいたら"水虎"が倒れた下駄箱を通り過ぎ、こちらにゆっくり回り込んで来てしまった。"水虎"の目が見えた。

 ヤバい!!

 しゃがんだ状態から一気に下駄箱をかけ上がる。

 動く物に反応して、"水虎"が口を開け下駄箱ごと噛み砕こうと襲ってきた。

 自分は上から見下ろせる。"水虎"はこっちを見上げる位置だ。今しかないと思い、杖を"水虎"の大きく開けた口に向かって投げた。


ピッカーーー!

ドーーーーーーーン!!


 眩しい閃光の後に轟音が響く。


 爆発が近かったせいで、自分も下にいたエマも吹っ飛んだ。

 校舎出入口付近まで飛ばされ、腰を強く打ったが、痛みより"水虎"がどうなったのが気になってすぐ辺りを見渡した。

 飛び散った靴と黒こげの下駄箱の横に、"水虎"の口先から首?辺りまで、花が咲いたようにバックり中身が見えた死体がよこたわっていた。


「タコのウインナー・・・」


 思わず独り言が漏れ、笑ってしまった。

 ムクッとエマが起き上がり、トコトコ"水虎"の死体へ向かうと杖を持ってきた。

 お座りして尻尾を振っている。よく見るとエマがすすで黒かった。自分を見てみると同じく黒かった。夢の中でもこんな風になるんだと可笑しかった。

 エマから杖を受け取り、頭を撫でた。

 何とか乗りきったと、安堵からその場に座り込んでしまった。

 しばらくすると、各教室の並ぶ廊下の方から声が聞こえてきた。


「おーーーい!」


 高橋が廊下を走って来る。


 真っ先に死んでる"水虎"を見付けて高橋が驚く。


「マジか、"水虎"倒したのか?」


 高橋が"水虎"を、担いでいた槍で突っついて調べていた。


「お前がやったのか?八神、大丈夫か?」


「あ!お前、真っ黒じゃねーか!」


「う、うん、なんとか無事」


 高橋は友達と話すように喋りかけてくれるが、こっちはまだ慣れない。本当なら「遅いよ!」と突っ込みたいところだが、クラスの自分のカーストからすると無理である。


「お、エマも真っ黒」


 高橋がエマの頭を撫でると尻尾を振っていた。エマは今日が初対面だろうに、エマは誰でもなつくんか?


「それにしてもどうやって倒したんだよ?」


 立ち上がって高橋に杖を見せた。


「この当たると爆発する杖を投げた」


 高橋が杖を受け取りじっくり見ている。


「これ・・・"いかずちの杖"だぞ・・・」


「エマが拾ってきたのか?」


「う、うん、よくわかったね・・・」


 何で高橋はわかったんだ?実は一部始終を隠れてみてたのか?


「もしかして・」と言ったが、それ以上は言わなかった。


「近距離で使ったら相当吹っ飛んだろ?」


 もう、完全に高橋は隠れて見ていたな。


「うん、跳ばされて腰を打ったよ」


 高橋から笑みがこぼれた。


「"いかずちの杖"とかは、投げるんじゃなくてバクとかに向かって振るんだぜ」


 高橋が振り返って、離れた下駄箱に狙いを定め、杖を思いっきり縦に振った。

 下駄箱へ垂直に眩しい青い閃光が落ち、後に轟音が響き下駄箱が燃え上がった。


「縦に振れば垂直に、横に振れば杖から一直線にいかずちを放てるぜ!」


 すごい簡単じゃん・・・あんなに近づかなくてもよかったんだ。なんだか必死だった自分が残念だった。てか何で使い方知ってるんだ?


「何で?」


 ビックリとショックで言いたいことが全部言えなかった。


「前に1度、借りたことがあってよ」


 もう、よくわからん。なに借りるって?高橋は毎晩、夢の世界でこんな戦いをずっとやってるんだろうか?


「あとエマは強力な武器を探して持ってきてくれる!」


 エマもかよ!


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