第4話 ボッチは気にしすぎ
これから高橋が巨大なバク"大水虎"から全校生徒の寿命を守らなければならないというときに、輝風は全く別の事を考えていた。
学校で常にボッチな自分が、高橋と二人で体育館に行く道中、何を話せばいいのか?そもそも話しかけていいのか?二人そろって歩いていいのか?どう間を持たせたらいいのか?全くわからなかった。
そもそも飼い犬のエマは、自分の言う事はほとんど聞かないのに目的の体育館まで大人しく行けるか心配だった。
高橋がこれから"大水虎"と戦うって時に、犬のエマと一緒ってふざけすぎなんじゃないかと思ってしまう。
「よし、行くとするか!」
「う、うん」
心の中は焦っていた。
エマはこちらの気心と関係ない感じでいつもの散歩と変わらず自分の前を歩いて行く。
実際エマは母親と去年までいた姉の言うことしか聞いていなかった。
ソファーでくつろぐとする。母親と姉の場合、エマはソファーの下で可愛く主人を見上げたあと寝る。自分の場合、ソファーに座るとすぐに上に乗って来て毛繕いをし始める。どけ!と指示しても聞きもしない、退きもしない。仕方ないからエマより小さくなって一緒に座る。犬の序列からすると自分は底辺なのだと幼いときから思っていた。
体育館には自分達のいるA校舎の1階から渡り廊下を通って入る。早足で歩いていくうちに生徒の数が増えていく。着ている服装はバラバラでなんだか変な光景だった。その辺が夢なんだなと実感する。
本当にさっきのワニみたいな"水虎"がまだいるんだろうか?周りを見渡しても学校の時のあのザワザワして移動する生徒達の変わらない姿しかない。エマが大人しいのも気になった。
気にしていた高橋は、周りを注意深く見渡し険しい表情で体育館に向かっていた。とても話しかけれる空気ではなく、一緒に歩く時どうしていいかわからないというのは、自分の取り越し苦労だった。
そう言えば、槍を何処かにしまったのか手ぶらだった。服装はレザーのままだったが、武器は出し入れ自由なんだと理解した。
歩いている生徒達の先頭が見える辺りたどり着いた頃、中庭を挟んでB校舎が見えた。
B校舎は、虫が食べたかのように蛇行して側面がえぐられていた。他にも穴が空いていたり、側面全部がなくなって、外から生徒の机や椅子が見えるほどだった。そして教室に生徒の姿はなかった。
「やられた!マジかよ・・・」
無惨な校舎を一緒に見た高橋は立ち止まった。
「ヤバい、多分、"大水虎"が普通の"水虎"と群れになって食い漁ってる・・・どこ行きやがった?デカいから目立つはずなのに・・・」
高橋の悔しそうな横顔から見える校舎は、パッと見わからなかったが引っ掻き傷のような爪痕があった。
巨大なバク、"大水虎"は下からよじ登って2階を壁ごと生徒を教室の奥まで食べて、教室を横へ食べ尽くしたら3階へと登っていったのかと想像してしまった。
疑問に思ったのは音だ。あんだけ校舎を壊していれば、大きな音が出てもいいはず。高橋に聞いてみた。
「こんだけ壊しているのに、外からはなにも聞こえなかったよね・・・」
不思議さが勝って、遠慮も恥ずかしさもなかった。
「オレも今そう思っていた・・・」
質問が止まらなかった。
「夢の世界は、自分の周り以外の音って聞こえないもの?」
「そんな事はない、隣の校舎がこんだけ壊れてたらすげぇ音がするはず・・・どうやって音を立てずに破壊して、悲鳴もなく生徒を食ったんだ?」
デカいワニ型はさっき派手に暴れまわっていた。破壊音もなくB校舎の生徒を一気に食ったんだろうか?いや、高橋との戦闘を見る限りガチャガチャむさぼる感じだった。
「八神、ここへ来る前に見たのは本当にワニみたいだったのか?」
「う、うん・・・」
2階から見えたのは間違いなくデカいワニ型だったはず。それに高橋が倒したヤツが大きくなった感じに違いない。
「・・・"大水虎"とは別のバクもいたってことか?」
「じゃあ、来る前に見えた巨大なワニは?」
「わからん・・・」
高橋と立ち止まり呆然と無惨な校舎を見上げ疑問を整理していると、エマが急に走り出した。
リードを握ったままだったので肩が外れるかと思うほど引っ張られた。
こけそうになりながら何とか廊下を走りながら止めようと引っ張り返すが無駄だった。
努力はむなしく、しばらく走ったがこけた。
エマは自分の手から離れて走り去ってしまった。
起き上がって周りを見ると下駄箱が並ぶ校舎入口だった。