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私の頼れるゴリマッチョ05

 少々休憩した後、家から出て徒歩数分にある草原エリアへと向かう。

 ここは山の民の村__NPCのドワーフ族の村だ__へ向かう通り道でもある。

 その為かモンスターは平地より少し強めになっている。夜は更に強いので油断すると死に戻ってしまう。


 久々のパーティ戦なので気を引き締める。

 私の戦闘着はダイアウルフ__額にダイアモンドが埋まっている狼__の毛皮でできたローブに、絹で出来たチャイナドレスのようなものと、水属性の魔力上昇効果のある魔石サファイヤのネックレスと、ラビットブーツ。武器は、こちらもサファイヤのロッドだ。

ダイアモンドなど宝石類は、ダイアモンド以外その色__ルビーなら火属性、サファイヤは水属性だ__の属性の魔力上昇と、耐魔法効果がついている。ウルフの毛皮の方は物理耐久が上がるものだ。

 ラビットブーツはうさぎのような耳がついた可愛いショートブーツだ。ヒールはあまり高くないのと、効果__ジャンプと加速が2段階上昇する__が良いのでお気に入りだ。

 うまく使うにはなかなか癖があって、いきなり走ることもある。あとは止まれないとか、飛びすぎて月をバックにモンスターを倒したりと面白い装備品だ__後日そのスクリーンショットを見た__


 これらの装備品を作るには、素材を鍛冶屋に持っていく必要がある。私の住んでいるライフライン都市の鍛冶屋は、職人通りの右手側にある、熱気が物理的に溢れてる「カンカンヤ」だ。

 また、鍛冶ジョブではない人たちでも、注文以外にも鍛冶を行うことができる。

 弟子入りしてスキルを覚え、一定のレベルになったら__ジョブによってこのレベルが違うらしい__師匠から鍛冶の称号を貰える。これは鍛冶屋がある程度自由に使ってもいいという通行許可書になったり、商業ギルドと手を組んで営業したり、勿論マイホームに鍛冶場を作って武器系統を作ることができる。


 一番、武器__盾も武器のジャンルになる__の消耗が激しいKouさんは鍛冶スキル持ちだ。鍛冶ジョブではないので、上級品以上作ることは難しいが…


 ちなみに、前衛だらけの私たちのパーティに斥候はいない。つまり___



___ワォォォン



 場に緊張が走る。2、3重に重なった狼の遠吠えが聞こえる。どうやら群れに見つかってしまったらしい。


「サーチライト」


 遠吠えが聞こえた方向に強い光を当てる。光に驚いたのか、キャイン、という声を発する大型犬__シェパード程に見える__の大きさの狼が4匹。群れなので、あとは中央にウルフリーダーが…


「……え?」


 ウルフリーダーのはずの狼が2匹。人間であれば一飲みしてしまいそうな大きな口、地面に突き刺さりそうな鋭い爪、湊さんですら圧倒するその体格、何より、角が生えている。

 1匹は額に一角獣の角、もう1匹はこめかみ付近から羊のような角が生えていた。

 これは____



「下がれ!」



 Kouさんの声で少し冷静になる。驚いている暇はない、既に戦闘は始まっているのだ。


「オール!ハイディフェンス!」


 急いで全体に上級の防御魔法を掛ける。防御が低めに設定されている格闘家でも、現在4匹いるダイアウルフの攻撃を安定して受けれるぐらいに大きく上昇する。

 欠点は魔力の消費量が大きい事、ヘイトを稼いでしまう事、後は重ねがけができないということだ。


 現在1番ヘイトを稼いでいるのが私なので、4匹の狼たちが私に向けてかけてくる。

 


「こっちを見ろ!」



 kouさんが盾を叩き、ヘイトを稼ぐスキルを使う。ダイアウルフたちは途中で1度止まり、少し迷った末kouさんへ向かい出した。

 それに合わせ剣士、格闘家たちが襲いかかる。私も負けじと使える攻撃魔法の呪文を唱える。

 静かな夜の草原に、狼の悲鳴、皆の掛け声や気合を入れた叫び声が響き渡る。飛び散る血液や水飛沫が月の光によって照らされている。


 戦っている皆を見つつ調整、攻撃力を上げる魔法を使うべきか悩みつつ見まわす。その時、湊さんがこちらに向かって走ってくるのが見える。



___なぜ?



 ごうごうと風を切る音が近づいている。地響き、土を巻き上げながら、赤い目を光らせこちらに走ってくる狼が走馬灯のように見える。



「危ない!」


 すべてがスローモーションで見えている私の目の前に大きく開いた口が迫っていた。鮫のように何重にもなっている歯。鋭い2本の牙が私を捉えている。

 あまりの恐怖に目をつぶる。痛覚は低く設定しているが、きっとあの牙に突き刺されたら痛いんだろうな。一瞬で絶命できたらいいな、などと考えて祈る。



 生を諦めて目をつぶっていた私は、突き飛ばされたような衝撃を食らう。目の前には牙やログイン地点ではなく草たち。地面に横になっているらしい。頭の理解が追いつかない。何故?どうして___?


「湊ッ!!」


 ユーさんの声で正気に戻る。まだ戦闘中だ!

 慌てて後ろを振り返ると、そこには角の生えた狼の牙を掴んで耐えている湊さんの姿があった。


___私を助けてくれた...!


 まだ動ききっていない頭を必死に回転させ、周りを見渡す。まだダイアウルフと戦闘中の澪さん、Kouさん、ユーさん、ソウさんの姿が見える。湊さんは角の生えた狼と戦闘中。

 服についた土も払わず立ち上がる。

 ふと、違和感を覚え、周囲をもう一度見まわす。角の生えた狼はもう1匹いたはずだ___

 

「ライト!」


 もう一度、今度は周囲を照らす魔法を使い周囲を見渡す。

 視線の端に刹那、黄金のような輝きを放つ2本の角を捉えた。こちらでも、剣士たちでもない、湊さんの方に向けて突進の準備をしているのが見える!

 


「ウォーター!ウォール!」

「ウォーター!アタック!」


 頭で考えるより先に体が動く。まるで自分のものではないみたいだ。水で出来た壁は相手の勢いを落とせる牽制魔法、アタックは水を槍のように突き刺す攻撃魔法だ。

 急いで動けたおかげか、突進していた羊角の狼の動きを多少止めることが出来た。しかしまだ湊さんを狙っているようだ。

 湊さんは未だに一角の狼と均衡状態で、いや、湊さんの筋肉が少し押されているように見える。ディフェンスの効果も切れかかっている。ここに羊角の狼が加わったら、と考えると背筋に冷や汗が伝う。

 もう一度周囲を見る。羊角の狼はまだ突進を再開していない、ダイアウルフはあと2匹になっている。


___他の仲間がこちらに来るまで私が時間を稼がないと!



「湊さん!ハイディフェンス!」


 皆の方はまだディフェンスの効果が継続しているようなので個人にディフェンスを掛け直す。ディフェンスは与えられた攻撃量は多ければ多いほど解除が早い。この短時間で切れたということは、つまりそれだけこの角の生えた狼たちの攻撃力が強いということだ。


 気を引き締める、羊角の狼の目はまだ湊さんを捕捉している。幸い私のディフェンスはまだ切れていないので、これは私がヘイトを稼がないと...!


「ウォーター、トルネード、アタック!」


 水の竜巻を起こす攻撃魔法を上級の攻撃魔法を唱える。緊張や恐怖により声が出にくい、必死に喉から悲鳴に似た声を絞り出す。

 轟音を上げながら、月まで届きそうな美しい青の竜巻が羊角の狼を包む。ダイアウルフの下位であるハイウルフなら一撃で倒せるその継続する竜巻は、一瞬怯むぐらいの効果しかなかったらしい。

 羊角の生えた狼はすぐにその竜巻から脱出し、今度はうまく私を狙いに来ている。

 その殺気が含まれている眼光に体が硬直する。震えが止まらない。声もうまく発せなくなっている。


____湊さん


 脅迫に似た恐怖のあまり、私より厳しい立場にいる湊さんを見る。筋肉をぷるぷると震わせながらも、まだ耐えきっている。一瞬こちらと目が合う。



____笑っている



 いつものような笑い顔ではない、戦闘狂の、本当に楽しそうだが毒々しい笑い顔だ。少し苦しそうだが、あまりにも楽しそうで、私もつられて微笑む。

 おかげで少し緊張が解れ、頭が鮮明になってゆく。


 現在、私と湊さん以外のメンバーはダイアウルフを倒している。あと2匹倒せれば__今までの経験で考えて大体2分くらいか__すればこちらへ合流するだろう。それまでに私が出来ることをやるんだ!

 頬を叩き気合を入れ直す。MPポーションを飲みながら杖を構え直す。あちらも猪のように突進をする準備が終わったようで、こちらに勢いよく突進してくる。


「ウィンド!レッグ!」

「シャワー」


 足に風を纏わせ、私は均衡状態の一角の狼方向へ走り出す。私の周りには攻撃にはならないような水がスプリンクラーのようにまかれていく。

 後ろから地響きを鳴らしつつこちらに向かう狼の走る音と、獣の吐く息の音、私の全身から上がる悲鳴のようなきしむ音が聞こえる。走れば走るほどその音が大きくなる。後ろを見る余裕すらない状態で、全身から汗が止まらない。怖い。

 先程気合を入れた体がまた小刻みに震えだす。

 正直バカかもしれない。上手くいかなかったらまたあの暖かい家に___帰る前にあの角に串刺しにされ、自分の体から、聞くに堪えないような音や吹き出る血液、内蔵などを、本来は見ることがないものを見た後に___移動されるのだろう。

 少し過去の、私がスライムに溶かされたスプラッタ映像を想像して気持ち悪くなったが、今向かっている先にいる筋肉を見て落ち着かせる。



 湊さんの方を向き、五本指を立て伝える。頷きが帰ってくる。

 この合図は、上級以上の攻撃魔法を使う場合に使うサインだ。

 実はこのゲームの攻撃魔法はプレイヤーにも当たるようになっている。魔法発動場所のど真ん中にでもいなければ、基本的には流れ弾が当たるだけで済む。が、先程の竜巻のような継続で高威力の魔法となると、どんなに防御をあげている盾でも一瞬でヒットポイントが無くなる。



 一角の狼まであと3mといったところまで来た。もう後ろの狼からは相当に近いのではないか、心臓が高鳴る。

 死ぬことが怖い。だけど、私はただでは死なない!と、震えている自分に言い聞かせる。

 後ろに向けて指を指す。


「ウォーター!ウォール!」


 突撃の足が少し緩んだのを見ながら、次の呪文を唱える。

 湊さんが私を見ていたので目で合図する、今なら___!


「シャワー!」


 先ほどまで撒いていた水魔法を再び唱え、思い切り一角の狼の足元へぶつける。


「リーフ!ウォーター!ハイプラント!」


 残りMPが全てなくなる。草と水の複合魔法だ。

 光り輝く種のようなものが先ほどまで私が必死に水を撒いていた場所に植わり、一気に樹木の槍やツタとなる。一角の狼の四肢に樹木の槍が突き刺さり、その胴体をしゅるしゅるとツタが固定する。さすがに胴体付近から生えた槍は貫通することはできず、ただ、怯ませることができた。

 一角の狼がひるんだすきに湊さんが一度後退し、雄たけびを上げながらその恐ろしい牙を掴み、ミシミシ、と聞くに堪えない嫌な音を立てながらへし折った。血まみれの狼から__同時に後ろの狼からも__悲鳴のような声が上がる。

 

 MPが切れ、全身を激しい倦怠感が襲い足の力が抜ける。必死に、もう動くこともままならない体を杖で支える。

 目の前では筋肉による蹂躙に近い光景が広がっている。飛び散る血が私にまで届く。筋肉は楽しそうに微笑んでいて、それがまた恐ろしく美しかった。

 また、私たちに近づいてくる皆の姿が見える。ああ、これで終わるのか___



 安堵から、後ろを確認することも忘れて、私は目を閉じてその場に倒れこんだ。

 



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