私の頼れるゴリマッチョ16
遅くなりすみません....
また少しずつゆっくり更新になります、構成は終わっているため小説に起こす作業を頑張っていきます!!!!
今回は本の話...!
「そうだ、よかったらあの本今読んでくれないかな」
「いいけど、何で?」
「沢山寄れば文殊の知恵?みたいな」
「まぁ確かに...?」
三人寄れば文殊の知恵だろうと思いつつ、本を取り出す。ずっしりとしていて、20代前半ぐらいの肌のような肌触り。だけど諸悪の根源だと思うと薄気味悪く感じるような、魔女を相手しているような、そんな不思議な気分にさせる本だ。
ペラペラとページを捲る。そんな私を囲むようにみんなが集まって、気持ち悪いだの読めないだの口々に文句を言う。詳しいことは自分にはわからないが、言う通り暗号化されているんだとしみじみ思う。
まずは第一章から。
第一章は人間について。最初に綴られている文章はまるで辞書のような堅苦しいものだった。人間とは、人と人との関係の世界についてを示す。この一章目ではその人間についてではなく、人類、人についてを説いているらしい。
このゲーム世界では、人は私たちのようなものだけでなく__私たちのようなものは、小集落ではなく国を作る集団として国人と呼ばれるらしい__、獣が祖先である身体能力が高く魔法があまり得意ではない獣人、エルフなど耳が長く魔法に長けており森に住む樹人、ドワーフ等鍛冶や土魔法に優れ、お酒に強いといわれる大地人、所謂悪役として多く取り上げられやすい、弱肉強食で国人たちが住みにくい場所に住む魔人__細かく分けるとさらに分類されるらしいが、今回は纏めて魔人と呼ぶそうだ__などに分類される。
地球と同じく、差別や奴隷問題はもちろんのこと、過去には種族間の大規模な戦争もあったが、今では積極的ではないが種族間の交流もあるそうだ。ただ、国人と魔人の間にできた溝だけはとても深く、お互い不干渉__というか、国人は魔人の環境では住みにくく、魔人も国人の環境では住みにくい為、不干渉になっているだけらしいが__であるらしい。
ゴリマッチョのいびきをBGMにしながら話を続ける。
このゲームの種族は割と自由だったが、確かにキャラクリエイトで魔人たち__吸血鬼や鬼、ダークエルフなど__はなかったなと思い出す。悪党ジョブはあるが、全員が最初から魔人を選んで、ロストライン都市に現れたらそれはもう大混乱が起きただろうなと思う。
ここまで話して気づいたが、この著者はまるでゲームの世界をゲームだとは思っていないような書き方をしている。確かに婚姻制度やら時間の流れ方やら、他のゲームとは違う部分は多かった。NPCのおばさんたちも、都市であった出来事も、まるで異世界転生したかのような世界観だなとは思っていた。
だけどゲームはゲームで、私は死んでも__ペナルティはあるが__生き返るし、都市でいきなり光り輝きながら産まれる新しいプレイヤーに、NPCたちは誰も動じてはいなかった。歓迎ムードでもなかったが。
なんというか、変にリアル感を追求したゲームのような歪感をその本は醸し出している。
約一名を除き聞いていた皆も少し不思議な表情を__狐に化かされたらこんな顔するんだろうと思う__していた。
少し堅苦しい文章が続いたので、喉を潤したい為にも一旦休憩する事を皆に告げると、先ほどまでの顔はどうしたのか、皆の目は満天の星のようにキラキラと輝いていた。
「みゆさん朗読うまいね!」
「こんな論文みたいな文章をわかりやすく読めるなんて...!」
皆が褒めてくれる。なんだか恥ずかしくて、頭がポカポカするのを感じる。
筋肉のBGMはまだ続いている。
「へへ...昔小学生への読み聞かせのボランティアした時があって、だからだと思う。でもこんな難しい本は普段も読まないからちょっと緊張した」
「へ~!確かに、小学生には難しい文章だったなぁ」
「この著者、読ませる気多分ないもんな、研究資料みたい」
「多分第一章は初めに、の部分だろうな。ただ、タイトルがねーからどんな研究なのかわかんねぇ」
「人類学とかじゃないか?」
「哲学とか心理学とかにも発展しそうね、この第一章じゃ予想がつかないけれど」
皆が討論を始める。哲学や心理学はなんとかわかる__理解はしていない__。ただ人類学なんて聞いたことがないし、研究発表の資料とか論文なんて見たこともない私にはちょっと高度でついていけない。
私がポカンとしていると、いち早く気づいた澪さんがこちらを見て聖母マリアのように微笑んでいる。
「実は私とKouくんは同じ大学出身でね、学部は違ったけど。」
「んでイビキ野郎と俺、あとソウは高校と部活動が同じだったんだ。湊は武道全般やってたみたいだけど、俺とソウは柔道部」
「なるほど」
だから三人とも武闘家で、突撃していったのかと思う。
「ま、俺は柔道部の中でも弱いほうだったけど、ソウと湊はマジ強かったぞ~」
「俺よりイビキのほうが強かっただろ」
まぁな、とユーさんがからかいながら笑う。ソウさんが若干目を鋭くさせユーさんを睨み、私たちはまた笑った。笑ったことによってソウさんはどんどん眉間にしわを寄せていったが。
「私は機械系出身だから正直文系分野はからっきしなんだけどねぇ」
俺も俺も、と声が上がる。どうやら皆__Kouさんは情報系らしい__大学での研究は機械系らしい。友達が人間学だとか歴史の研究だとかをやっていたので、先ほどまでの言葉は推測に過ぎないけど、と言っていた。
皆がわいわいしている間に続きを読むために本に目を移す。堅苦しすぎて一回読んでみないと頭に入らないからだ。小学生への読み聞かせの時も、できるだけ感情を乗せれるよう何度も何度も読み込んだなぁ、と思い出す。あの時は古本屋で働き始めて、その店主のおばあちゃんが体調を崩し、急遽代打として小学校へ行かされたのだった。普段来るおばあちゃんではなく、当時22歳の私が来たので小学生は大興奮してくれて、お姉ちゃん、お姉ちゃんと言って仲良くしてくれたのだ。その後も働いている間何回か読み聞かせへ行った。
でも結局、その古本屋では働けなくなった。店主のおばあちゃんの体調は持ち直したが、息子のような人が店に来て、おばあちゃんの体調が悪いほうに急変してしまった。それでその本屋は閉めることになって、おばあちゃんからは何度も謝られたものだ。
再就職は大変だったが、何より辛かったのはその古本屋はすぐにビルになってしまったことだった。幼いころから肉親がいなかった自分には、おばあちゃんの存在は本当に大きかった。
ペラペラとページを捲る。第一章の続きは、国人側の国の建国記のようだ。ロストライン都市とライフライン都市__その他多数の都市があるらしいが、私はまだこの二つしか見たことがない、そんな国のお話のようだった。