表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/16

私の頼れるゴリマッチョ13

ブックマークありがとうございます!とても励みになります...!

本当にありがとうございます!

 Kouさんと一旦別れ、自宅についた。時刻はまだ11時前なので、まだ湊さんがログインするまでに余裕がある。


「ただいま」


 玄関から室内に入りキッチンへと向かう。キッチンの奥にある解体室からいびきが聞こえてくる。そのあたりも妙にリアルだな、と思いながら、寝ているゴリマッチョの額に軽くキスを落とす。一瞬、いびきが止まり、また奏で始める。その仕草がなんだかおかしくて、思わず頬が緩む。

 ゴリマッチョにタオルケットを掛けなおし、キッチンへと向かう。


 今日はKouさんから鶏肉と卵を貰ったので、オムライスにしようと思う。今回お米は5合程使うことにした。Kouさん、湊さんが2合ずつ、私が1合だ。他の人がもしお腹を空かせてきたのなら、その時はその時で考えよう。

 炊飯器はないが、釜はある。釜に洗ったお米を入れて、冬に川から取ってきた雪解け水を入れる。これはアイテムボックスに入れていたものだ。こちらの世界で冬に川に行き、その水の美味しさに感動して思わず大量にとってきたものだ。夏になった今でも常用している。

 水も入れ終わったお米はしばらくつけておく。お米の準備ができたので、まずはトマトソースの準備から。

 赤く熟したトマトに十字の切れ込みを入れ、湯につける。いい感じに皮が剥けてきたら取り出し、用意していた冷水につけ剥いていく。

 次に玉ねぎ、ニンニクの皮をむく。軽く切り、トマトと一緒に木製のボウルの中に入れる。威力に注意しながらミキサーのようにウィンドの魔法で混ぜてゆく。

 いい感じにドロドロになったところで、ざるで濾す。種が残っていても私は好きだけど、今回は上にも中にも入れるトマトソースを作るので念を入れる。

 きれいに種が取れたら次は鍋に入れ、調味料を入れて煮込んでいく。

 煮込んでいる間にオムライスの中に入れる材料の準備だ。

 鶏肉は一口サイズより小さく切り、一緒に入れる玉ねぎ、人参、ピーマンを小さく切っていく。

 これで下準備は完了だ。少し心配なのはトマトソースがうまくできるか...

 

 時刻は11時30分。ぼんやりと煮込まれていくトマトたちを見ていると、解体室のほうから軽いうめき声が聞こえた。火はつけたままで解体室へと行くと、うめき声の主であるゴリマッチョが全身で蠢いていた。


「おはよう、湊さん、大丈夫?」

「うぅ...痛い...おはよう...」


 眉間にしわをよせながら、立派な上腕二頭筋や胸筋、大腿四頭筋やハムストリングスなどを撫でている。私も撫でたい。


「うわ!デスペナ並みにステータスマイナスになってる!」

「えっ、本当?」

「みゆちゃんもステータスマイナスになってた?」

「いや、私は普通に起きれたよ?」

「えーっ!なんで!」


 さっきまでの蠢きはなんだったのか、ぶつぶつと文句を言いながら元気よく立ち上がるとキッチンへと向かい、おいしい水を飲み始める。そしてトマトソースに気づき、眉間のしわが無くなり夏の花たちも顔負けな良い笑顔を見せながらこちらに駆け寄ってくる。


「今日のご飯は何~?すっごいいい匂い!」

「今日はオムライスの予定だよ!」

「本当~?!やったー!」


 子供のようにはしゃぎまわるゴリマッチョ。さっきまでの痛みはどうしたのか、あまりうまいとは言えない踊りを踊り始める。ぷりぷりと動くお尻がキュートだ。

 しばらく踊ったらピタリと止まり、顔を赤くしながらこちらをみてはにかむ。私もその様子を見て微笑みを返す。ゴリマッチョは頭をかきながらこちらに近づいてくる。

 そのゴリマッチョをスルーしキッチンへ。お米の入った釜を火にかける。


「なんか痛みどっかいっちゃった」

「良かった。なんで私は特に何もなかったんだろう?」

「うーん、俺は本読んでなかったから?」

「私もまだ全部読んでないよ、そういえば角は?」


 笑顔は一気に驚きの表情になって、立派な筋肉を揺らしながら解体室のほうを見に行く。起きた時に放り投げられていた角を手にしこちらに向かってくる。

 

「結局この角と本は何だったんだろう?」

「特にイベントの情報も出てないし、起きて警告とかが出たわけでもない、本当に謎のままだね」

「本当に」


 トマトソースの味を見て調整しながら会話を進める。もう既に味は美味しいが、あまりいい舌ざわりではない。たまにかき混ぜながらさらに煮込んでいく。

 

「そういえば、昼ご飯時にKouさんが来るって言ってたよ、相談してみない?」

「いいね、Kouなら詳しいかも」


 横から私より大きく太い指がトマトソースを狙っていたが、小さな風の壁を作り阻止した。若干痛かったのか巨体が大きく仰け反る。そして二人でまた笑いあう。


「皆で話終わったら、本読んでみようと思う」

「俺も傍にいてもいい?」

「いいよ、大歓迎」


 まずはパーティメンバーに相談して、あの謎で少し心が踊らされる本を読み進める。私の頭でどこまで理解できるかはわからないけど、湊さんが傍にいてくれるなら、一人でやるよりはいいだろう。後は、またあんなことが起きるのではないかという不安がある。なので傍にいてくれることはとても安心できて心理的に楽になる。もしかしたらそういう不安を見抜いて、傍にいる提案をしてくれたのだろうか。

 トマトソースのほうはだいぶいい味わいになっている。ちょっと塩気が強い気もするが、まぁ何とかなるだろうと楽観的に捉える。

 

「ご飯はKouさんが来てからでもいい?」

「いいよ、楽しみに待ってるね」


 ニコニコと天使のような笑顔でこちらを眺められる。とてもデカく普段はいかつい顔なのに、どうして笑顔は赤子のようにかわいらしいのだろうか。母性がくすぐられるような、胸の中がムズムズとする。

 トマトソースを軽くかき混ぜながら、お互い笑顔で他愛もない話を続けていた。香辛料屋さんのおばちゃんの話や、澪さんとユーさんの結婚祝いパーティのメニューの話、この国の王が急死して、いずれかの王子が後を継ぐ話。後は、あの謎の古書の内容が、前見た魂の話に戻っていた事。

 メニューの話ではオレンジ色の笑顔になり、王が急死した話や古書の話では若干悩むような、曇った鈍色へと変わる。相変わらず表情が豊かで話す側としては嬉しい。

 

「王が急死で、賢い王子かバカ王子のどちらが継ぐかわからないんだ」

「おばちゃんたちは第一王子のアイン様のほうに王になってほしいみたいだけどね」

「まぁ賢いほうがいいよな」


 私はあまりこの国の情勢に詳しいわけではない、プレイヤーたちは全員詳しくないとは思う。歴史書に目を通す人もいるだろうけど。ゲーム内の世界がどうなろうと、私たちには現実があるのだ。今まではあまり関心が持てなかった。今も、おばちゃんたちのように心から嫌がったり、願ったりすることはない。それは湊さんも同じようで、軽く話は流れてしまった。


「今までそういう事にあまり詳しくなかったけど、本当はあったのかな」

「このゲームのAIはよくできているから、そういう歴史があってもおかしくはないけどね」

「そうね、そうかも。今まではあまり関心がなかっただけで...」


 二人でしんみりと話す。昨夜あんなことがあったばかりなので、どことなく空気は重く苦しく感じる。

 それもそのはずだろう。王の急死の話、昨夜あった全員強制ログアウトの話、そして私たちの本と角、あまりにもタイミングが合いすぎていて、胸の中がモヤで覆われていく。考えれば考えるほど、目の前が黒に染まっていく。湊さんも同じようで、それでも私の心情を察して何か言葉を掛けようと口が動いている。


 コトコトと、真っ赤なトマトソースを煮込んでいく。湊さんを見て微笑む。


「後で、皆で話し合ってみようね、私たちだけじゃ原因がわからない」

「そうだね。それがいい、だから元気だしてね、俺みゆちゃんの美味しいオムライスが楽しみだな」

「調子がいいなぁ」


 先ほどまでの黒く重苦しい空気を無理やりになくす為、二人で笑いあう。時刻はもう12時を過ぎている。そろそろKouさんが来るだろう。

 話すこともなくなって、二人で黙って煮込まれていくトマトソースを眺める。ぼんやりと、血よりも鮮やかで美しい赤色を二人で眺めていた。


 コンコンと、ノック音が聞こえる。ゴリマッチョが扉に向かい、お腹を空かせたKouさんが笑顔でやってきた。それにつられ、先ほどまでの重苦しい空気がまた少し軽くなる。


____二人のために、おいしい料理を作らないと。


 私はまたトマトソースやお米に目を向ける。胸のしこりは残っているが、対応はゴリマッチョに任せて料理に取り掛かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ