10月はナントカの国
校庭のトラックのちょうど真ん中あたり、おおよそ奇麗に不時着したといえる円盤は、秋のやわらかな太陽の光を浴びてきらきら輝いていた。
「おい、あれ……」
「えー、ヤバい!マジUFOじゃん」
どやどやと、窓際のぼくの席まで押しつぶし、クラスメートたちが集まった。手に手にケータイを持って、その珍事を写真やら動画に納めようとしている。
「ちょ、ちょっと、いたい……」
誰かが開け放った窓から身をのりだし、男子も女子も上を下への大騒ぎ。気付けば初老の国語教師までもがチョーク片手に見物を決め込んでいる。
ぼくはずれた眼鏡を直して、ようやく皆が注目するものを再度見ることが出来た。
不時着の衝撃で起こった土煙もだいぶ収まった。一体何が出てくるのか、皆がいまかいまかと待ちわびる。
円盤の入り口らしきものが静かに口を開く。
「……ぉ……」
――「わー、色が地味!」
――「そうですかぁ?あの赤い木なんかいいセンいってますよォ?」
出てきたのは赤白黄色いろとりどりの髪色をした女の子たち。かたちはそれぞれ違うが、同じ銀色のピンクレディー?(よく知らない)みたいなぴっちりした服を着ている。
「……???……あっ」
頭にはてなが浮かびまくる一同に先んじて、ちょうど暇だったのだろう勇気あるジャージ姿の体育教師が、円盤に向かって走っていくのが見えた。
その姿に気づいた異星人?たちは、砂糖にたかるアリンコのように、ぞろぞろと円盤から出てきて群がった。何人いるんだ?
「けーさつ!警察呼んで!!!」
大声で叫ぶ体育教師の姿も、もう見えない。
「……あーぁ」
***
「ホッシー、アレ見たかよアレ!!!」
食堂でカレーうどん(460円)をすすっていると、隣のクラスの友人である小林くんが例の話題を振ってきた。
「うん……UFOだろ、オレの席窓際だから、もみくちゃになって迷惑だった」
ちなみにぼくの名前は二戸ホシユキ。フルネームで呼ぶと気が抜けると評判。あんまり好きじゃない。カレーうどんは好き。
「いまケーサツが来ててさー、これからジッキョーケンブンするんだってよ、いいなあ」
「見に行けば?」
「えー、俺、オカルトとか興味ないからなー」そういって食券の半券をまるめている。
小林くんはめんどくさがりだ。新聞部の部長をしているのに、スクープ記事らしきスクープ記事をものにしたところを見たことがない。
***
<――キーンコーンカーンコーン>
夕方。あたりは薄暗い。
帰宅部のぼくはまっすぐその部活動に勤しもうと先を急ぐ。
コートの前を寄せる。さむい。
「うへぇえ」
例の円盤の周りには黄色いテープで規制線が張られ、警察の方々がまだなにやら計ったり、頭がどピンクの(たぶん)年かさの女の子に話を聞いたりしている。
「……あのねー地球とかゆう星の衛星が綺麗だっていうから、見に来たの。で、お酒のんで、おいしいものたべて、酔っ払って、操作間違えてぶつかっちゃったの。そーそう、あなた方がいうナンカ、月?っていうあれにー。……えー、どこから来たって、プロキシマって知ってるかなァ?アルファケンタウリのいちばん小さいとこなんだけド、その近くにねえ……」
か、可愛い声だけどすげえバカっぽいしゃべり方するな……よく見れば例のピンクレディー?は袖ないし。さ、さむくないのかな。
「……にこにこ」
立ち止まって、じーっとその様子を見ていると、円盤の上に腰掛けていた数人の女の子たちがぼくに向かって微笑んだ。思わずこちらも笑い返してしまう、なんなんだ。
そんなことを考えていると
「びーきゅーちゃーん、私のくつしたどこかなあー?」
「ちり紙ないから調達してきてェ」
円盤の中からそんな声が聞こえた。
――帰らないと。
「は、はーい」
<どんっ>
「……きゃっ」
「わ」
踵を返したぼくに、なにやら生暖かいものがぶつかる。
「あいたたた……ご、ごめんなさい!」
目の前に尻餅をついている女の子。肩まで伸びたストレートの黒髪に、眉毛のあたりで切りそろえた前髪、この連中には珍しく眼鏡をかけている。童顔にはあんまり似合ってないけどスクエア型のメタルフレーム。服は相変わらずピンクレディーだったが異星人の中ではひときわ地味だった。
「あ、いや……」
「わ、わ、はやく行かなきゃ」
地味子はあわてて、あたりにちらばったハサミ?やカッター?やのり?を拾い集める。ちょうど、ぼくの手元にも赤いスティックのりが転がってきたので、渡してあげる。
「あ、ありがとうございます」
……なんに使うんだろう?
「びーきゅーちゃーん、はやくー」
「あ、ありがとうございました、それでは」
女の子はぺこりと一礼し円盤の中へ駆け込んでいった。
***
朝になっても、相変わらず銀色の円盤はそこにあった。
あの女の子型異星人たちは朝型ではないらしく、UFOの扉は隙間なくぴっちり閉じられていた。
非日常の光景に、みな足は止めないもののちらちらとそちらを気にしている。
中にはしげしげと眺め過ぎて遅刻しそうになる奇特な者もいた。
「――でよ、新聞部の展示はあのUFOの特集にしようとおもってて」
「小林、オカルト興味なかったんじゃなかったの?」
教科書をリュックサックから机に移しながらそう返す。
「皆が興味津々なら話しは別だ。これだけ人気があるなら、最優秀展示もいただきだなっ」
僕の机の隣で、小林はシャーペンをなめなめ、黒い手帳になにやらメモらしきものをぐりぐり書き殴った。
「ゲンキンなやつ……」
「おっそうだ、暇なら取材手伝ってくれよ、どうせ帰宅部は展示も家に帰るだけだろ」
***
放課後、小林と連れだって円盤のそばに行くと、昨日ぶつかった地味子が機体にはたきをかけていた。
「あのぉ~」小林が両手を揉みながら人なつっこい声を出し、呼びかける。
周囲に人はなく、無駄にでかい小林の声だけが辺りに響いた。
「あっ、きのうの……」
地味子は振り返り、後ろの「ぼく」に向かって微笑んだ。
ぼくは軽く会釈をし、それに答える。
「え~~~っとォ、新聞部の者なんですが、ちょっとお話をお聞きしたくて……」わざとらしく例の黒い手帳を取り出し、何やら書き付けるふりをする小林。
「ン」
地味子はなぜか目を輝かせて言った。
「いいですよ、中へどうぞ。他のみんなは街を見に行っていますから」
円盤の中に入ると、ケバケバしい紫の花柄壁紙がこんにちわ。白いロココ調?の応接セットのソファに座るよう促され、いわれるがまま腰掛けた。
「おふたりはまだお若いから、ケビーがいいですね」
地味子は蓄音機のような、ミキサーのような、なんだかわからない機械の前で、なんだかわからないものを準備している。
「すげえ、なんかすげえ……女子の部屋ーって感じがする」
「……そ、そうか……?どっちかってと場末のテーマパークみたいなんだけど」
のびをして全く遠慮もなくくつろぐ小林に若干引きつつ、ぼくはあたりを見回した。紫の壁紙を始め、緑のカーテン、黄色いカーペット。あたりは目がチカチカするほど極彩色だ。色彩に疎いはずのぼくですら悪趣味と思えるほどに。
そんなことを考えていると、目の前のテーブルにカップに入った「ケビー」なるものが置かれた。のみものだったのか。
「さてと」
地味子は向かいの一人がけソファに腰掛けた。脚はきちんとそろえられ、両手は膝を会わせた中心に重ねられている。
「私はB93-f。BQって呼んでくださいね。このエンゲン寮の寮母をしています」
「寮?」
ソファから身を乗り出し、一眼レフ片手に丸いライトがいっぱいついたピンクの鏡台を撮っていた小林がふりかえり、たずねる。
「んーと……繁殖のための、寮です」
ますます意味がわからない。
「わたしたちは異種族とコーハイしなければ子孫を残せないので、こうやって、宇宙を観光がてら漂ってるんです」
手を深海魚のようにひらひらさせながら、そうのたまうBQさん。
コーハイ……後輩では、ないよな?
「私たちはメスしかいませんから、異星のオスの個体を利用して、その星の遺伝子プールに寄生してしまうんですね」
――なんかよくわかんないけど怖いこと聞いてしまった気がする。
「一般的にどの星の高等生物でもメスに比べてオスは色の判別に可視スペクトルを多く必要としますから、私たちは髪色でアピールしているわけで…」
「スペクトルって何?」小林がぼくの方にたずねる。
「物理でならったような……気がしないでもないような」
「要するに、派手な色じゃないと見分けられないってことですね」
ぼくらはそんなに成績が良い方じゃない。みかねてBQさんが助け船を出す。
「フーン…じゃあBQさんはなんで黒…」
「わっ私は……寮母だから、いいんですよ……」小林の不躾な質問に、BQさんはうつむいてしまう。
<ぴぴっぴぴっ>
どこからともなく鳴った電子音。
BQさんは眼鏡のつるに手をかけて、なにやら小さなダイヤルを回している。
「あ、皆さんお帰りですね。楽しかったですか?」
連絡でも繋がったのか、電話口のような声になり、
「ちょっと待っていてくださいね」とこちらに向かって小声で言い、入り口の方へ向かった。
小林は去って行くBQさんを眺めながら、腕組みをしてうんうんうなっている。
「うーむ、展示のタイトルは『地球人類に迫り来る婚活宇宙人は炊飯器の夢を見るか』にしよう」
「……なにそれ」
――「神社でおみくじっていうの?引いたら大吉でたんだ、いちばんいいやつなんだって」
――「いぬ、いぬかわいいねーあのながいいぬ」
やがて、帰ってきた女の子たちが、口々に地球の感想を述べつつぞろぞろと室内に入ってきた。銀色のスーツはあいかわらずだったが、同じような服を着ていることで髪色や顔立ちの違いがよくわかるようになっているんだなとぼんやり考えた。
「じゃあ、ぼくたちはこれで」
ぼくはケビーのカップを飲み干して言う。
女の子達の後からやってきたBQさんは「ごめんなさいね」といいながら微笑む。
「楽しかったです、おふたりとお話ができて。私は……あまり男性と話す機会がないですから」
つやつやした黒髪を手で弄びながらどこか寂しそうに小首をかしげるBQさん。
この人たちの間ではもしかしたら髪色でカーストでもあるんだろうかと思った。
「ほら、いくぞ」
胸の中に湧きあがる気持ちを押し殺すみたいに、まだ一眼レフを振り回している小林をひっぱって、ぼくはその場を後にした。
***
「なんか足りねえな……」
机の上の、一面ぎらぎらした写真が貼られたB1パネルの前で、小林は首をかしげている。
パネルの上部には大きなポップ体で例の「炊飯器の夢を見るか」の文字。
ぼくがみたところ、よくまとまっているような気がしたが……。
余談だが今の新聞部は小林ひとりしかいない。故に月一で掲示されるはずの校内新聞が出たのも、最初の二回だけだった。
「漫研の子でも誘って四コマまんがでもいれるか?文芸部誘って掌編小説……いや、なんかちがうな」
「読み物としてなんかたりないってこと?」
「いや、キャッチーさだ!キャッチーなのは内容の善し悪しよりも重要なんだ!」
普段怠惰な小林のめずらしい情熱は帰宅部のぼくにはよくわからなかった。
「……文化祭の出し物にそんな本気にならなくても」
そう言う僕に、小林はばっと振り返る。
「いやこれは重要なことだぞ、まず文化祭で最優秀展示賞を穫ってな」
「うん」
「俺は推薦で大学いくつもりだから、そこに関係してくるだろう」
「うん」
「ブナンな大学を出るだろう」
「うん」
「それで、小さい業界新聞に就職する」
「はあ」
「そこで小金を稼ぎつつ、別に美人じゃないけどやさしい嫁とかわいい子どもにめぐまれてブナンに幸せに暮らしたいんだ俺は!!!」
――夢にしてはスケールが小さいな。
「……まあ、小林がうらやましいよ。ぼくには何にもすることないし」
「いいだろぉ」
謙遜もせず、胸を張る小林にぼくは苦笑い。
<がらがら>
――「あのぉ……」
突然、部室の引き戸が開かれる。
そこに立っていたのは、――BQさんだった。
「ああ、よかった。他に知ってる人もいないから……のりとはさみを貸して貰いたくて」
「のりとはさみならそこにあるけど……何に使うんですか?」
この部屋の主である小林が雑多なものが置かれているテーブルを指さす。
「船の修理に使うんですよ」
テーブルの方へかけより、そんなことを言う。
「……???のりとはさみで?」
「ええ」
驚いたぼくにBQさんはなにごともないように返す。あの円盤、紙製なんだろうか?
「修理って……どっかいっちゃうんですか?」小林が言う。
「うーん……、あまり歓迎されていないようなので……あれ?」
と、BQさんがB1パネルに目をとめる。
「ああ、展示の……出来たんですね、立派じゃないですか」
「う~ん、あとはなんか人目を引くような何かがあるといいんですけどねぇえ」
頭をくしゃくしゃ掻いて頭をかかえる小林。
「ふうん……」
「……あ、BQさん、文化祭の時に、パネルの横に立っていてもらえませんかね」
「へ?」
BQさんは小首をかしげて鳩が豆鉄砲くらったような顔をしている。
「生態展示!!!これだ!!!」
「おい、小林さすがにそれは……」かわいそうだと思った。
ピンクレディーと生殖機構を除けば彼女らはふつうの地球人の女の子と変わりがなかった。それを、動物園の動物のように見世物にするなんて、ぼくには考えられなかった。――BQさん断って!
「……、いいですよ!」
BQさんはしばらく考えた後、にっこり笑顔で了承した。
「なんならみんなで踊りでも踊りましょうかあ」
そんなことを言いながら、盆踊りみたいな手振りさえする。
***
文化祭当日、校舎のあちこちに、紙の飾り付けや看板が並べられている。
当然、新聞部に与えられた展示場所である体育館にも。
そこは、演劇部のステージが終わったところだった。舞台の中央に集まり、一礼をして、下手に去って行く演劇部員たち。
異星人の女の子たちのショーは二部構成。まず小林がその生態の説明をパネルを交えて行い、それから女の子達が音楽に合わせて踊るような計画。
女の子たちの希望で、それが全部で4回繰り返される。
照明が暗くなり、なにやら怪しげな音楽がフェードイン。
「レイディースエンジェントルメン、アンドおとっつぁんおっかさん!」
そんな声とともに、スポットライトが舞台上を照らした。
舞台中央にパネル、横に置かれた講演台に立った小林の軽快な前口上を皮切りに、ショーが滑り出す。
***
「ふうふう……どうでしたか!」
一回目のステージが終わり、BQさんがタオルで汗を拭いながら、まだ観客席から動けないでいるぼくのところに駆け寄ってきた。
「え、えと……すばらしかったです!」
実際それは楽しいものだった。
女の子達は踊り慣れているらしく(そういう求愛行動をする星もあるのだとか)キレがあり、内容はポップダンスとバレエと暗黒舞踏?を混ぜたようななんだかよくわからないものだったが、わからないなりに高揚感があった。
なによりセンターにいるのがBQさんで僕はびっくりしたのだ。
「おひねりいっぱいもらいました」
<じゃらじゃら>
と、かごに入った小銭をぼくに示す。
「これで船の修理ができます、ありがとう」にっこりするBQさん。
「いや……全部小林のおかげでしょう、オレはなんにも……」
ぼくはただ見ていただけだった。彼女たちがここへ来て、そして帰るまで。
「……いえ、ここは母星じゃないから、私が出しゃばってもいいんだってあなたにぶつかって思えたんです、ありがとう」
BQさんはぼくを見つめて、静かに語る。
「???」
「母星では移住してきた男性と話すだけで怒られちゃうし……、社会勉強の一環で身分を隠して寮母になっても、ただの寮母のわたしをみんな私を敬ってなんかくれないし」
BQさんはそのまっすぐの黒髪をいじりながら、ぽつぽつ話す。
「身分って……?」
「王女なんです、私」
「……え?」
なかなか飲み込めないぼくに、BQさんは「あ、次のステージが始まっちゃう!」と言って手をひらひらさせながら去って行った。
***
3回目のショーの最中、それは突然やってきた。
おひねりに混じって飛んできた焼きそばのカラ。
次第に数が増えるゴミ。
「あ……」
ぼくはなにが起こっているのかわからなかった。
「やめろやこのビッチども!」そう怒鳴ったのはうちの学校の女子生徒だった。次第に数が増える。
「こうやって男子を引きつけて連れ去るつもりなんでしょう!!」
「うちのお父さん、UFOが来てから帰ってこないんだけど、どっか隠してるんじゃないのっ!」
そーだそーだと言わんばかりに、どよめく観客席。
嘘だ、と思った。ぼくは彼女たちを信じている。
さっきから動きをとめたままの異星人たちは、おろおろし始め、BQさんにすがっている。
「あ、あの……私たちは……いたっ」
哀しそうにうつむくBQさんに、ゆでたまご(割れなかった)があたる。
その瞬間、だった。
「――やめっ……っ!」
ぼくは階段状になっている舞台に駆けのぼる。
自分でもなぜこんな行動をとってしまうのか、わからなかった。
スポットライトに照らされた舞台の上で、ぼくは激昂し叫ぶ。
「何が文化祭だ、ばかやろう!異文化を受け入れる気なんか毛ほどもないじゃあないか!」
「にのへくん……」
「お前!」
「へぃっ」立ち上がっている女子の中から適当に見繕って指さす。
「――この子達と、僕たちと何が違う!言ってみろ!」
「あぁ、……にのへくん、もういい、いいですから」
寄ってきたBQさんの顔も見られず、ぼくは舞台袖の小林に指をつきつける。
「お前もお前だ小林!この子達は見せもんじゃねーぞ!」
指の先で曖昧な笑顔を浮かべる小林にいらだって、ぼくはその場を後にする。
ステージはめちゃくちゃになった。
***
善良なる異星人諸君は、残り一回のステージを立派にやり遂げた。らしい。
ぼくは最後のステージは見なかった。
熱狂するお客さんと、飛ぶおひねり。あの様子なら、修理の費用も困らないはずだ。
小林も無事、賞をもらえたらしい。
今日は土曜日。月曜に登校した時には、もう銀色の円盤はいないのだろう。
なんだか重苦しいような、甘酸っぱいような気持ちを抱えて、ぼくは下校に勤しんだ。
――BQさんには、もう会えない気がした。
***
月曜。登校すると、やはり円盤は姿を消していた。
円盤があったはずの場所を横目でみながら、グラウンドを縦断する。
「おい、ホッシー、大ニュース大ニュース!!!」
「あ?」
くらーい気持ちのぼくの横に、やけに楽しそうな小林が後ろから走ってきて並ぶ。
「あの宇宙人、ガッコの裏山に引っ越したらしいぞ。UFOもなんかでかくなってるって」
「……はい?」
「詳しいことはわかんねえけど、とりあえずこれから裏山行ってみねえ?」
――ぼくたちはホームルームを放り出し、裏山に登った。
開けた場所に、あの見覚えのある銀色。
「あ、にのへくん、小林さん」
BQさんは物干し竿に大量の銀色のスーツを干しているところだった。
「はー、はー。BQさん、帰ったんじゃ……」
山登りは徹底的インドア派であるぼくたちにはきつい。
「帰りませんよう、繁殖がわたしたちの使命ですし。それより、ほら、見てください。船が大きくなりました!あなたたちのおかげです!」
BQさんは洗濯かごを持ったまま両手を広げ、円盤の前でジャンプする。
「おひねりで増築したんです、これで中はひろびろ空間ですよ!」
「へ、へえ、それはおめでとうございます」
脱力する小林とぼく。
まだぴょんぴょんしているBQさんはぼくらの方へ振り向いて
「ブンカサイっていうんですか?あれ、またやりませんか!」
――「それは無理!」
思わずぼくと小林がハモる。
きょとんとするBQさんを見てぼくらは笑い合ったのだった。
その後、年1回の文化祭に出続けた異星人たちがぼくらの学校の名物になったりとか、大人になったぼくがBQさんを迎えに行って母星の王さまになったりだとかはまた別のお話。