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続編のない短編達。

魔王陛下と魔王妃は生まれ変わっているのです。

作者: 池中織奈

 千と五百年ほど昔、人間と魔族は争い合っていました。

 その戦争に終止符を打ったのは、何を隠そう人間の最終兵器であった『勇者』と、魔族を圧倒的なカリスマで率いていた『魔王』であった。

 『勇者』は、『魔王』と和解した。

 『魔王』は、『勇者』と友になった。

 長い長い戦争は終わりました。終わったあとに、共存の道をたどるのは難しいことでした。でも、それを人間であった『勇者』が亡くなったあとも、『魔王』は共存のために動きました。

 その結果、長い年月をかけて人間と魔族は共存しあいました。

 そして、そんな千年前のある日、魔王陛下は言いました。

 「退屈した。我は一度転生する。千年後に復活する」

 と、突然言い放ったかと思えば、実際に転生の魔法を使い、姿を消したのです。

 それと同時に『魔王』の奥方であった魔王妃も、『魔王』を追うように転生の魔法を使いました。

 さて、魔王は姿を消しました。魔王の側近たちも、ほとんどが表舞台から姿を消しました。同じく転生したもの、魔王の復活を待つものなど様々いたと言えるでしょう。ただし、彼らは姿を消したとはいっても、『勇者』と『魔王』の生み出した平和な世界の継続を掲げ、何かあれば姿を現しました。

 

 さて、そんなわけで人間たちにとっても、魔族にとっても、『魔王』は特別でした。



 そして、ついに、『魔王』が生まれ変わりました。『魔王』だけではありません。『魔王妃』もです。彼らは人間として、魔法学園に通っておりました。『魔王』と『魔王妃』としての力を持ち合わせているとされる彼らは、学園でそれはもうちやほやされている美男美女でした。

 で、そんな『魔王』と『魔王妃』の生まれ変わりとされている二人は置いといて。

 この物語の主役は、そんな学園で『魔王』と『魔王妃』とされる二人ではなく———、

 「なぁ、リリはあれ、どう思う?」

 「んー、馬鹿?」

 こそこそと『魔王』と『魔王妃』と彼らの取り巻きを見ながらぼそりとつぶやく二人組でした。

 一人は、灰色の髪を持つ少年です。背はその年齢にしては高くないと言えるでしょう。特にこの学園で目立つわけでもない、生徒であるルシトである。

 もう一人は、薄緑色の長い髪を二つに結んで、眼鏡をかけている少女です。ルシトよりも背が低く、実際の年齢よりも若く見られるような生徒です。名をリリノといいます。

 さて、この二人、学園では決して目立ってはいません。ただカップルとしては認識されている、のほほんとマイペースに過ごしている二人です。目立つことも特にせず、のんびりと生きています。

 しかし、この二人だけしか現状認識していないことなのですが、

 「……だよなぁ。偽物をあがめてるって」

 「ん。アレ、あの子達知ったらぶちぎれる案件」

 そう、『魔王』と『魔王妃』の生まれ変わりとされる存在たちは偽物でした。

 彼らが『魔王』と『魔王妃』の生まれ変わりとされたのは、彼らの自己申告と彼らの力が故でした。その結果、彼らはこの学園で『魔王』と『魔王妃』の生まれ変わりとされ、ちやほやされております。この人間が多く住まう国の、人間の通う魔法学園の中で、です。

 ルシトとリリノが何故、偽物と断言しているかといえば、

 「ルシが『魔王』なのにね」

 「……リリも、『魔王妃』だしな」

 本物は彼らだからなのでした。

 『魔王』の転生体であるルシトと、『魔王妃』の転生体であるリリノ。

 彼らには生まれた時から『魔王』と『魔王妃』としての記憶がありました。とはいえ、彼らは特に自分たちが『魔王』だ、『魔王妃』だと言い放つわけでもなく、ただのんびりとマイペースに生きておりました。

 別に『魔王』と『魔王妃』の転生体であると、世界に認識されなくても彼らは構いませんでした。

 そもそも、『魔王』が転生を望んだのは退屈していたからです。世界を平和にしたあと、特に目標が見つからず、転生して何か面白いことでも経験したいと思っておりました。そのため、魔族であった『魔王』が、人間に転生するという面白い事象が起こり、それも面白い経験だと魔王陛下は人間として生きていくことを楽しんでおりました。

 そして『魔王妃』に関しては、『魔王』のことが大好きでたまらなくて、『魔王』を追いかけて転生したというそれだけの話であって、彼女からしてみれば、転生しても『魔王』であったルシトの隣にいられるだけで満足しておりました。

 「ん。でもあれだけ、自信満々に嘘ついて、ちやほやされているの見てて面白い」

 「それはそうだよな」

 真実を知っている身からしてみれば、『魔王』と『魔王妃』と自称しているものとそれを信じ切っているものはなんとも愉快な光景でした。

 そもそも魔王陛下は愉快犯なのです。面白いことを好んでいるのでこの状況も割と楽しんでいたりもします。特に自分から自分が『魔王』だなどというつもりも彼にはなかったのです。

 「あいつらがどう動くかも見ものだし、のんびりしよーぜ、リリ」

 「ん。あの子たち、元気かなぁ」

 あいつらとは、『魔王』と『魔王妃』であった頃の配下たちのことです。中には転生しているものもいますが、まだ生を全うしているものもいます。『魔王』に忠誠を誓っていたものが、どう動くのかというのはルシトにとって楽しみにしていることの一つでした。

 リリノも、ルシトの言葉に頷きながら、配下のものたちを久しぶりに見れるかもしれないことに少しわくわくした様子を見せるのでした。

 そうして『魔王』と『魔王妃』を自称するものたちのすぐ横に、本物が存在することに、周りは一切気づいていないのでした。





 ――――魔王陛下と魔王妃は生まれ変わっているのです。

 



なんとなく投稿してみた短編です。

偽物の横にいる本物とか、そういうのが何だか好きなので、自称『魔王』と『魔王妃』の近くにいる本物の『魔王』と『魔王妃』の生まれ変わりという設定です。


ルシト——『魔王』の生まれ変わり。人間の生活を楽しんでいる。マイペース。

リリノ——『魔王妃』の生まれ変わり。『魔王』の傍に居れればいいので、幸せに人間生活満喫中。




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― 新着の感想 ―
[一言] この話、膨らましたら幾らでも面白く成りそう!
[一言] 続きがとても気になりますね
[一言] そうか、異世界で中二病こじらせると生死に関わる事態も起きるということか 子供の戯れ言と鼻で笑われるくらいで済むと良いね
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