二の道
屋敷が石づくりなのと雑草が生い茂っているように見える事が災いしてか、裏庭はまるで、何処かの幽霊屋敷かのように、寂れて見える
しかし、一見雑草に見えるそれは、決して雑草ではなく、一つ一つに意味がある薬草だった
「あら、リールが咲いているわ。………フェンネルも!」
シルビアはリールと呼んだ、薬草へと近寄り、その場にしゃがみこんだ。
夜会の時とはまた違った、群青色の瞳が喜びに輝いている
「リールが咲いたのは三年ぶりかしら。久しぶりねリール!」
まるで植物を生きているかの様に愛でる様子は、何処か幼い少女を彷彿とさせていた
「フェンネルは一年ぶりね。今年もありがとう!」
隣の薬草へと移動し、まるで離れていた親友を見つけたかのように、はしゃぐ
フェンネルを積み、他の薬草の世話をしようと立ち上がった時、ふと葉が揺れる様な音がした
「お客様かしら?」
シルビアはさっと近くにあった木の幹に隠れた、
伯爵家ということもあり、ロースダムの邸を訪ねてくる者は多く、殆どが貴族であった。
しかし、貴族はシルビアがしているような薬草栽培はあまり快く思っていない節もある、その為に、裏庭は見られない位置に作られているのだが、稀に広い庭に迷い、裏庭へと入って来てしまう者がいるからだ
「行ったかしら?」
木の幹に隠れていたシルビアはそっと、後ろを見て、カルバネムの近くに赤く輝く目を持つ男性を見つけた
まだ、いたのね………
内心で溜息をつきつつ、その男性に見覚えがあったかのように思い、記憶から探し出す事にした
この国に、あんな男性いたかしら?
ちょっと異国人風だし、アルフィード王国かラルフーロン帝国の方かしら?
夜会への主席をしていない方ならば、まだ、お知り合いではない可能性があるわ
しっかり覚えておいた方が得ね
男性の顔をもう一度、見ようとシルビアが振り返った時、目の前が真っ暗になった
「へ?」
思わず素っ頓狂な声を出し、これではいけないと、冷静な精神を取り戻すと、自分が誰かに抱き締められているのだと分かった
「あの、お離し願えますか?」
冷静に目の前の人に言えば、その人は直ぐに私を離した
「……どちら様でしょうか?」
私を抱き締めていた人に問えば、その人は、私を驚いた様に見つめた
先程、私が遠目で見た人らしく、特徴的な赤い目をした推定18~20位の年齢だった
「君は、叫んだりしないんだね。」
酷く不思議な物を見るような目でこちらを見つめてきた
「必要がありませんので」
冷たくあしらえば、男性はより一層奇怪な物を見るように、目を丸くした。
「変な子だね。僕を見れば殆どの女の子が、擦り寄って来るのに」
なんだ、ただの自分大好きな人か………
「私は容姿が整っているからといって、擦り寄るつもりはありません。それに、押し倒そうとしても、無駄ですよ。私は格闘術に精通おり、そこらの方には負けないので。それに此処は叫べば、屋敷中の者が駆けつけて参ります」
私の体に視線を向け、少し興味ばかりだった瞳に男性としての欲望を映し出した為私は付け加えた
この裏庭は監視の目が届きにくい為に、庭にいる時は常に屋敷の戸を開け、声が届く様にしている。余り、この屋敷は大きくはないから、そのくらいで大きな音ならば、聞こえるその事実を思っていた
「ガード、硬いね」
「貞操の為ですので」
冗談めかして言った男性に真面目な顔をして返せば、私に興味がなくなったようで、道を聞いて来客用の庭へと戻っていった
「なんだったのかしら?」
疑問を呟き、空を見上げれば、どんよりとした雲が一面を覆っており、私は頬に当たった雫を感じ、走って屋敷へと戻った
読んでいただき有難うございます