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精鋭関東軍

7月11日

満州国 新京

関東軍司令部


改築され近代的な趣となった関東軍司令部では、濃緑や茶色い斑点を細かく連ねた戦闘服を着用した帝国陸軍の将校らがせわしなく歩き回っていた。


「9条指令ですか?」


将官にそう訊ねたのは第二課長、いわゆる情報参謀の高橋幸平だった。30代と若いが、関東軍ではあまり珍しい事でも無い。


「察しが良いな、常時警戒態勢だ」


9条指令、戦後日本に於ける臨戦態勢を整える様に要請する指令で内閣の決定――それは御前会議の決定だが――により発令される。

関東軍主力、第一方面軍の第三軍は一部の部隊が演習を終えて休暇中だが程なく取り消された。


「第五軍は支那方面の警戒、攻勢は第三軍が担う」


関東軍の分析ではロシア極東軍の戦力はソ連時代の比較にもならない。


「ロシアによる艦艇撃沈事件の報復ですか?」


「そうだ、ロシア太平洋艦隊本拠地のウラジオストクを占領する」


やがて作戦室に第七九師団の師団長と参謀が現れた。攻勢の計画は事前に立てられたものから選択される。

第三軍の屈強な高級将校がウラジオストクまでの進路を選定している間、高橋は何となく上官に訊ねた。


「ウラジオストクを占領して、それからどうなさるのですか?」


関東軍司令部の前では第三軍の第三戦車旅団が集結していた。

戦車師団編成は旅団編成に縮小されて久しいが、それでも40輌前後の中戦車を擁する戦車連隊3個は強力な装甲戦力だ。


戦車兵らは愛車の周りで退屈そうだが、士官らは将校からのお達しを待つが如く直立している。


「さあな、ロシアが降伏すれば戦争終結だ。上から言われればその通り、モスクワまで進撃するのさ」


「そんなに都合良く行きますか?」


三四式中戦車の車列に目をやり、対ロシア戦への不安を口にした。流線型の砲塔に三二式十糎半戦車砲を備える帝国陸軍の主力戦車だ。


「勝てるさ、湾岸戦争より簡単だ」


1991年の湾岸戦争はソ連の国力低下、ソ連製兵器の低品質さを象徴する事件として日本陸海軍に記憶された。

日本は直接参戦しなかったが、連日各国から漏れ伝わって来る情報は興味深いものである。


「何より、相手はロシアだ。日露戦争の例も有る。あの手の大陸国家は海軍国に勝てない」


東亜に跨る海洋国家の威信は揺らぎ無い。ソヴィエト連邦崩壊の後も大日本帝国は陸海に影響力を持ち、米英や中国、ロシアを牽制する。


海軍の小競り合いに端を発する戦闘に、彼らは挑まんとしていた。


「――我が無敵の皇軍は、蛮族ロシア等に負けはせんのだ!」


将校が部下を鼓舞する様子を遠巻きに眺めながら、高橋は漠然とした自信に相応しい根拠を探す事が出来ないでいる。

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