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帝国海軍の栄光

太平洋某所

第二艦隊 旗艦大和


島と見まごう異形の大戦艦は砲撃を終えた砲塔を旋回させ、穏やかな波を踏み越える。砲身の影は太くくっきりと甲板に写り込んだ。


御前会議が比較的速やかに終わった頃、世界最大の戦艦として半世紀以上君臨する大和率いる第二艦隊は演習中であった。対艦、対空戦闘の採点が実施され、戦闘中の操艦なども確認される。

編成下には高射ミサイルを搭載した駆逐艦や巡洋艦が居り、太平洋屈指の艦隊として存在している。


航海艦橋の中では士官や参謀らがさほど緊張感の無い雰囲気で通信科水兵からの報告に耳を傾けていた。砲術長は砲身命数把握の為に砲撃の記録を付ける作業で忙しそうだ。


満装薬での斉射は久し振りの事で、この大和の攻撃力が日本の対艦ミサイル開発を打ち止めさせたと言われている――事実、対空ミサイルについては一定の成果と配備を達成しているのだから。



「本土への即時帰還命令です、司令」


大和艦長の黒羽章大佐はこの艦によく親しんでいた。彼に勝る艦長は居らず、艦隊司令の田代隆一の信頼も厚い。

双眼鏡を首から提げて目を通した電文は、確かに本土への即時帰還命令だ。


「この時期にか……航海長、本土に向けよ」


「了解、転進します」


取り舵の号令一下、タライの様な幅広の艦体は小さな舵で無理やり回頭する――大和の操艦には慣れが要る所以だ。それでも回頭中の振動が極めて少ないのは建造技術の成果である。


「何事でしょうか?」


「さあな、解らん」


不安感を含みながら黒羽は田代に訊ねたが、特に思い当たる答えが有る訳も無かった。

しかし、予定外の召還がかかる時は震災か戦時というのが原則だから、言わずとも不穏な雰囲気に支配される。


「第一航空機動艦隊も呼び戻されている様だ、戦争だね。間違いないだろうよ」


田代はそう笑った。

第二艦隊と第一航空機動艦隊に本土召還、整備中の第二航空機動艦隊にも即時臨戦態勢への移行が指示されていたが、そこまでは知る由も無い。参謀らは静かに双眼鏡を覗くしか無かった。


ともあれ大和は、彼女に従う第二艦隊の護衛艦艇を引き連れて本土に向かった。


近代化改装を重ねてなお、その姿は初期の威光を背負っている。

左右に設置された高角砲と機銃は電波標定機と接続された各群に分かれており近接防空網を構築する。主砲の大火力をもって敵艦を粉砕する為、対艦兵器は副砲を除けば九四式四〇糎砲に限られる。


対空戦闘は外周に展開した護衛艦艇が担当すればよいとされ、大幅な改装は2年後の予定だ。


傷一つない艦影は太平洋の紺碧の水面に堂々と。帝国海軍の栄光と威信がこの7万トンの鉄に詰まっている。

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