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答えありきの雑談会

“栄えある皇軍の若鷲らが、今日も帝国を、今日も東亜を守護して止まない。警報発令、陸軍防空戦闘隊が時を移さず邀撃へ飛び立つ。毒々しい星の国章、ロシヤのイリューシン偵察機が懲りずに帝国領空を侵そうとしていた”


2009年2月15日

大日本ニュース[イリューシン偵察機、日本海にて領空侵犯]

2014年 7月10日

海軍省軍令部


伊七〇〇、伊七〇一、朝鮮海警のフリゲート。行方不明の艦艇が記された書類を手に軍令部の将官らが会議を続ける。

各艦艇の生存者は見つかっておらず、恐らく家族に報せが行く頃合だろう。


「これは攻撃だ、明らかな先制攻撃だ!!」


声を荒げたのは第一艦隊司令官の時田茂、帝国海軍では石頭の異名を欲しいままにする男だ。

軍令部総長は終始無言で煙草を吸っていた。フィルター付き煙草は安物と思っていたが、いかんせん手軽なのだ。


「空母機動艦隊も無い貧弱な海軍がどうだと言うのだ、今こそ帝国海軍の強さを見せる時だ!」


第二次世界大戦後、航空母艦を擁する空母機動艦隊を維持している国は多くなく、ロシアにはたった1隻しか無い。

しかし日本は4隻の空母を保有しており、対米戦の決戦兵力として国内外に広く宣伝している。


軍令部総長は書類に目を通し、次官や将官らの論戦を眺めていた。

弔い合戦だ国益だと叫ぶ部下達に抱く思いは人数分だが。


「御前会議で、恐らく正式な決定が有るだろう」


初めて口を開いた時、彼は手短に話を切り上げた。海軍の現状は良く解っている。その日の内に御前会議が開かれ、陸軍参謀本部長と共に彼も参加した。



御前に於ける国境事案への対策会議、という題目で参謀本部長ならびに軍令部総長とそれぞれの次長、内閣の閣僚や枢密院の面々が居座る中での会議だ。

天皇臨席ではあるが、発言する事はほぼ無い。


飾り付けられた議場に座る陸海軍高官の姿勢は背筋こそ正しているが喧嘩腰だ。


「――関東軍と朝鮮軍は、将兵の休暇取り消しと資材確保等有りますが1週間も有れば、ロシヤ沿海州への攻撃が可能です」


恰幅の良い陸軍参謀本部長はそう息巻いた。かつてのノモンハンでしか戦った事の無い相手だが、仮想敵が米軍であるからロシア軍など問題外だということらしい。


因みに朝鮮軍とは朝鮮国軍ではなく、朝鮮半島駐留日本軍のことである。

戦時中、関東軍第17方面軍として再編成し赤軍の侵攻に備える事が提案されたが、対米戦の早期終結により計画倒れに終わっていた。


「ロシア外務省は何も言って来ません。大使館員の本国召還を始める始末です」


軍令部総長は、天皇同様に黙して成り行きを見守っていた。

海軍としては陸軍の思惑通りに事が進むのは理屈抜きに避けたい事態ではあったが。


「軍令部総長にお尋ねしたい」


来たか――参謀本部長の陸軍大将に指名されそう察した。

国務大臣や天皇まで視線を向けて、質問の内容まで見当が付きそうである。


「海軍は、ロシヤ相手にどの程度、戦い抜けるのですか?」


不遜な山猿め、という感想を飲み込み資料を捲る素振りを見せながら答えた。


「米英海軍に劣る相手ですから、やって勝てない相手では無いでしょう」


「陸軍としては、海上補給路の護衛とロシヤ艦隊の邀撃、撃滅を海軍にお願いしたい」


戦争を前提として進む御前会議は不気味なものだった。御前会議で決まった事柄は一度閣議に通されるが、覆される事はまず無いのだ。


「――ただ、我々の主敵は米英海軍です。国力の損耗も考え、ロシアに対しては外交を閉ざす事無く事態にあたって頂きたい」


内閣総理大臣の冷え切った目線が不愉快で仕方が無かった。半世紀の平和にこの国は染まり過ぎた。

そして、参謀本部長の言葉が全てを決した。


「勝てないのですか? ロシヤに」

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