第7話 舞のメール
「ね、あの後2人でどこ行ったの?」
風呂上がりの濡れた髪をタオルで拭きながら、沙織が言った。
「え?」
拓人は居間のソファで熱心にメールを打ち、上の空で返事する。。
「舞さんにメール?」
「え?……まぁ」
ようやくメールを打ち終わり、拓人は顔を上げる。沙織は微笑みながら、拓人の横に座った。
「なんか良い感じね。兄貴、顔がにやけてるよ」
「そんなことないさ」
と言いつつ、拓人も自然と笑顔になる。
「やったね、これでニキビの恐怖からも解放されるよね」
「ニキビ……あのな、舞さん」
沙織に舞のニキビのことを言おうとして拓人はためらった。……もうやめた。ニキビなんか関係ないんだ。どこに出来ていようと、四カ所に出来ていようと……
「舞さんがなぁに?」
「……いや、別に」
拓人の携帯から着信音が鳴り、拓人は携帯をチェックする。沙織は携帯を覗く。
「何て書いてきた?」
「お前には関係ないだろ」
拓人は沙織をかわして、ソファから立ち上がる。沙織はフフッと笑う。
「兄貴、今年のクリスマスは四人でスキー場に行こうよ!」
「四人で?」
「私と涼ちゃんと舞さんと兄貴。今日、涼ちゃんと一緒にクリスマスのスキーツアーに申込んできちゃった。夜行バスで行って、ペンションで一泊するの」
「申し込んだって、お前ら勝手に……」
「だって、早くしないと予約取れないでしょ。いいじゃない、兄貴と舞さんだって良い雰囲気なんだし、パパとママにも良いって言ったんだから。ね、いいでしょ?」
「まだわかんねぇよ、そんなの……」
「あっ、兄貴何赤くなってんの?一泊するっていっても部屋割りは兄貴と涼ちゃんが一緒だからね、勘違いしないでよ」
「!そんなの当たり前だろ」
言いながら拓人の顔はますます赤くなり、沙織は笑う。
「ね、行こうよ!」
沙織は拓人の腕をとる。
「……」
「兄貴が行かないなら、私と涼ちゃんだけで行っちゃうから」
「そんなの絶対ダメ!……」
沙織が拓人の顔を下から覗き込んでニッと笑っている。また、沙織のたくらみに負けてしまった……でも、それもいいかな?と拓人は思う。
舞からのメールを思い出し、拓人の心はほんわりと温かくなる。
『今日は楽しかったです。ありがとう。また、一緒に図書館に行きましょう。お休みなさい』