第6話 お見合い?
「わぁ上手そうなケーキだな」
涼はテーブルの上に並んだケーキに見入る。
「なんでお前がここにいるんだよ?しかも、佐藤さんと……」
拓人は舞に視線を移す。舞は少しはにかみながら微笑んだ。
「兄貴、佐藤さんなんて呼び方堅いよ」
沙織はそう言ってサッと席を立ち、舞の方を向く。
「初めまして、五十嵐沙織です!兄がいつもお世話になってます」
「あ、初めまして、佐藤舞です」
「舞さんって、写真で見るより美人ですね。どうぞ、座ってください」
沙織はニッコリと笑って、自分が座っていた席を舞に勧める。
「ありがとう」
「どういうこと?……」
目の前の席につく舞を見ながら、拓人は呟く。
「こういうこと!じゃ、後は若いもんだけに任せてと、俺達は退散しよっか」
「うん!行こ行こ。涼ちゃん遅いから映画の時間に間に合わなくなっちゃうよ」
沙織は涼の腕を取る。
「ちょっと待ち合わせに時間かかちゃって。今度またここに来ような」
沙織と同じくらいケーキ好きの涼は、後ろ髪を引かれながらケーキを見つめる。ケーキ好きの2人が、新しく出来たケーキの美味しい店に今まで来たことがないというのは、どう考えてもおかしいと、今更ながら拓人は気づいた。
「うん、なんかここのケーキって何個でも食べられちゃうから恐いよね」
ウソがばれても沙織は屈託なく笑う。
「じゃ、兄貴頑張って!」
「……」
拓人は、楽しそうに笑いながら去って行く2人の後ろ姿を見つめた。何?コレってお見合い?……拓人は視線を舞に移す。舞は黙ったままニコニコしていた。
舞と出会ってまだ数日だが、舞は控えめで優しくいつも微笑んでいる、温かい雰囲気のする少女だった。まだ好きっていう感情はないけれど、嫌いなタイプではない。
沙織と涼の強引なセッティングではあったが、このまま舞とつき合ってみるのもいいかな?と拓人は思った。そして、何より気になるのは舞の顔の四つのニキビだ。
「……沙織ちゃんって明るくて元気な妹さんね。吉澤君も面白いからお似合いのカップルね」
2人が去り急に静かになった後、舞は口を開いた。
「涼はバカなだけだよ……あ、飲み物何か飲む?」
「……じゃ、紅茶にしようかな」
舞は目の前のケーキを眺める。
「あの、ケーキは好きなの?沙織が3つも頼んだけど、いくら小さいったって多すぎるよね」
拓人は手を挙げてボーイを呼びながら笑った。舞は首を振る。
「ううん、私ケーキ大好きだから……何個でも食べられる」
「そう……じゃ、俺のもあげるよ」
沙織が選んだブルーベリーのケーキを拓人は舞の方へ押しやった。出来ればケーキは食べたくない。
「あ、でも……」
舞はうつむいてモジモジと手を弄んだ。
「……」
口べたなところも自分の欠点だなと拓人は思う。涼は次々と話題を見つけ、面白い話をし、場の雰囲気を明るくする。その点だけは、涼のことを感心していた。拓人が無理に面白いことを言おうとしても、かえって場がしらけてしまうのだ。
「……私、甘い物食べるとすぐにニキビが出来ちゃうから……」
「ニキビ?……」
舞は顔を上げて恥ずかしそうに笑った。思わず拓人は舞の顔のニキビに注目した。額に一つ、顎に一つ、左頬に一つ、右頬に一つ……四角形の線を結ぶように、小さくニキビが存在している。
「おかしいでしょう、私のニキビって……」
「う、ううん!全然おかしくないよ……その、チャームポイントになってるっていうか」
「薬をつけてもなかなか治らないの」
「え?……良いと思うよ。その可愛くて」
もし、左頬のニキビ以外治ってしまったら『振りニキビ』だけが残ってしまう……拓人は苦笑いした。
「そうかな……そう言ってくれると嬉しい」
舞はフフッと笑うとケーキを引き寄せた。
「じゃ、せっかくだから食べちゃうね」
舞は美味しそうにケーキを食べ始めた。素直な舞に、拓人はホッとする。舞となら付き合っていけるかもしれない、拓人はそう思い始めていた。