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ニキビ  作者: 春野天使
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第1話 振りニキビとの出会い

 ことの起こりは、小学校6年の時。

 同じクラスに七海という女の子がいた。大人っぽい雰囲気のする美少女だった。勉強も運動も出来て性格も明るい。当然クラス中の人気者で、拓人も密かに憧れていた。

 そんな七海から、拓人はバレンタインデイにチョコレートをもらった。バレンタインデイにチョコをもらうなんて、拓人には初めての経験で、飛び上がって喜んだ。だが、きっとそれは義理チョコでクラス中の男の子がもらったのだろうと思っていた。

 けれど、クラスの男子でチョコをもらったのは、拓人一人だった。それ以来、七海とは急接近し、よく遊ぶようになった。

 翌月のホワイトデイには、沙織に選んでもらったとびきり可愛いお返しの品を贈った。七海もとても喜んでいた。しかし、ホワイトデイから数日経った頃から、七海の態度が急によそよそしくなっていった。

 そして、例の振りニキビが七海の左頬に出来たのも、ちょうどその頃だった。もちろん、その時は、ニキビのことなんて拓人はちっとも気にしてなかった。

 ある日の夕方、拓人は七海に呼び出され、近くの公園に行った。

「拓人君、わたしね、バレンタインデイの日に2人の男の子にチョコをあげたの。一つは拓人君、もう一つは大輔君っていう中学生の男の子」

「ふ〜ん」

 拓人は七海が何を言いたいのか全く分からず、ただ話を聞いていた。

「大輔君は、格好良くて女の子にモテモテだし、小学生の女の子なんて興味ないって思ってたの。だから、ホワイトデイのお返しなんて絶対もらえないって思ってた」

「ふ〜ん」

「それが、もらえたのよ!しかも手紙つきで!」

「へぇ……」

 顔を火照らせ興奮して話す七海の様子に、拓人は次第に嫌な予感がし始めてきた。

「わたし、決めてたの。もし、大輔君からホワイトデイのお返しが来たら、大輔君とつき合おうって!」

「……」

「それで、昨日思い切って大輔君に告白しちゃった!そしたら、大輔君もOKって言ってくれたの!!」

「……」

 拓人は頭を思い切り棍棒で殴られたような衝撃を覚え、もう何も言えなかった。

「あっ、拓人君も好きよ。でも、大輔君はもっと好きなの!」

 これが別れ話というものなのか?二股をかけられのか?幼い拓人にはよく分からなかったが、その日以来、七海と遊ぶことはなくなった。受験で言えば、自分はすべり止め校だったのだなぁと後々拓人は思う。落ちた時のため一応受けておくけど、本命校が受かってしまえば用済み……

 あの日、夕方の公園で、沈む夕日をいっぱい浴びた七海の左頬のニキビのことだけは、今でもしっかりと記憶に残っている。拓人と振りニキビのとの深い関係は、その時から始まった。


「言っちゃ悪いけど、拓人さんってちょっと変じゃない?」

 拓人とデートした翌日。学校の休み時間に、亜実は沙織に言った。

「異常にニキビのことを気にするのよ。強引に薬局に連れて行かれて、ニキビの薬を買ったのよ」

 亜実は沙織の目の前に塗り薬を差し出す。

「なんかちょっと恐かった。目が血走ってるようで……」

「そっか……」

 沙織はため息をついて、亜実の左頬のニキビを見つめる。また振りニキビ……

「ニキビが出来るたびにあの調子じゃやってらんないし。なんて言うかウザイっていうかキモイっていうか、もう関わりたくないって感じ」

「そ、そうよね……」

 亜実ちゃんって可愛い顔して結構きつい……沙織は苦笑いする。

「ま、顔も性格も悪くないし、あのニキビのことさえなければいい線いってたんだけど。その日のうちにハッキリとお断りしたから」

「そう、相性ってあるもんね。妹の私から見ても兄貴はいい奴だと思うよ。ちょっと気弱なところはあるけど……兄貴にもよく言っておくわ、ニキビのこと気にするなって」

 沙織は二度目のため息をつく。またダメだったか……これで13人目よね。今回の場合は、拓人自ら墓穴を掘ったような気もする。

 しかし、昨日デートから帰って来た時の拓人の落ち込みようときたら、見ていられなかった。まるで死の宣告をされた人のように打ちのめされていた。『ニキビ』が拓人のトラウマなってしまったことに、沙織は責任を感じていた。

 何といっても、「思い・思われ・振り・振られ」のニキビのことを、拓人に教えたのは沙織だった。小学生の拓人が七海に振られた日、沙織は拓人に言った。

「その子の左頬にニキビ出来てなかった?」と。その頃、沙織のクラスでは、ニキビの迷信が話題になっていて、おでこや顎にニキビが出来ている子を見つけると冷やかしたりしたものだ。

 七海の左頬のニキビが印象的に記憶に残っていた拓人は、もちろん「出来ていた」と答えた。

「お兄ちゃん、だから振られたのよ。だって、左頬のニキビは『振りニキビ』だもん」

 何気なく沙織が発した言葉。その言葉が拓人の頭の中で何度もリフレインし、決して忘れられない言葉となった。


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