第14話 本当の気持ち
舞に自分の気持ちを伝えなければ!舞から告白される前に、自分から告白しよう!
拓人はそう意気込んで、屋上に向かって行った。緊張で胸はバクバク、手に汗握りながら、階段を上がって行った。
広い屋上には、先に来た舞が一人佇んでいた。日暮れ前の緩い日差しが、舞を照らしている。拓人は意を決して、舞に近づいていった。
「五十嵐君」「舞さん!」
2人の声が重なった。
「あっ……先にどうぞ」
舞と向き合った拓人は、高鳴る胸の鼓動を抑えて言った。先に打ち明けたかったが、舞の真剣な眼差しを見て、気持ちが揺らぐ。
「……私、好きな人がいるの」
しばらくして、舞は小さな声でそう言うと、恥ずかしそうにうつむいた。
「え?……」
好きな人?突然の舞の言葉に、拓人はその意味が理解出来なかった。
「転校してきた日から気になっていたんだけど、なかなか気持ちを伝えられなくて……それで、この前五十嵐君と図書館に行った日、五十嵐君の家で相談しようと思ったの」
「相談?」
あの時、舞さんは元気なかったっけ、家に帰ったら涼と沙織がいて……それで相談する機会がなかったんだ。でも、何の相談?
「五十嵐君なら同じクラスだから、彼のこともよく知っていると思ったから……」
舞の頬がポッと赤くなる。
「彼?」
彼って?……拓人の頭は混乱し始める。
「堂島達也君……」
「達也?達也……」
いつか学校からの帰り、舞は熱心にサッカー部の練習を見ていたことがあった。同じクラスの達也はサッカー部の選手だった。
「……あいつのことが好きなの?」
舞はうつむいたまま、小さく頷いた。拓人の体から一気に力が抜けていった。
「五十嵐君から見て、彼をどう思う?」
舞は頬を染めながら、顔を上げて微笑んだ。
「……2年になって初めてクラスが一緒になって、詳しいことはよく分からないけど、良い奴だと思うよ」
泣き叫びたくなるような気持ちを抑えながら、拓人はそう言って微笑んだ。俺、何微笑んでいるんだ?気持ちを打ち明けなくていいのか?人に譲ってどうする?
心の中で聞こえてくる色んな声、だが舞のホッとしたような素直な微笑みを目にすると何も言えなくなってしまう。
「よかった……五十嵐君にそう言ってもらって安心したわ。私、彼に打ち明けてみる。ダメかもしれないけど、本当の気持ちは伝えなきゃね」
「あ、うん……そうだね」
拓人はかろうじてひきつった笑みを浮かべた。拓人の本当の気持ちはまだ打ち明けていない。
「ありがとう、五十嵐君。五十嵐君は転校して来て初めて出来た友達だもの。これからもずっと友達でいてね」
「うん……」
「ホントにありがとう。五十嵐君に打ち明けて気持ちがスッキリしたわ。じゃあ、さようなら」
舞は夕日を浴びた顔を輝かせながら、拓人の元を去って行った。舞の顔の四つのニキビも赤い夕日を浴びていた。それはまるで、幼い日に見た七海の左頬の振りニキビのようだった。
舞は『さようなら』と言って元気に去って行った。舞とは二度と会えない、永遠の別れをしたような気分だ。拓人は舞に気持ちを打ち明けられなかったばかりか、2人の間にとてつもなく大きな壁を作ってしまった。
拓人は深いため息をついて、夜空を見上げた。晩秋の澄んだ空には、たくさんの星が瞬いている。チラチラと輝く星を眺めていたら、また涙が溢れてきた。
バカだよなぁ、俺……勝手に舞さんが俺のこと好きだと思って、告白してくれるんだと想像して。舞さんは、俺のこと友達としてみてなかったんだ。ただの友達。
星空が潤んで見える。拓人が悲しみに打ちのめされていようと、例え誰かが死にそうになっていたとしても、星空はいつも星空のまま。誰の頭上にもいつもと変わらず、何事もなかったかのように綺麗な光りを投げかけているんだ、と拓人は思う。
「お〜い!誰かいるのかぁ?閉めるぞ!」
感傷的な気分の拓人をよそに、突然、見回りの教師の声が無神経に響いてきた。拓人は手で涙を拭うと、力無くフラリと立ち上がった。