第12話 放課後の呼び出し
「兄貴、舞さんのニキビのこと知ってるの?」
涼と舞が帰った後、沙織はさっそく拓人に聞いた。
「ニキビって、舞さんの顔の4つのニキビのことか?」
「そうよ、私今日初めて気づいたんだけど……舞さんっておでこと顎と両頬に一つずつニキビが出来てるでしょ?私ビックリしちゃった。兄貴に冗談で顔に4つニキビがある子と付き合ったらどうなるだろう?って言ったりしてたから」
「そんなこと、別に気にしなくていいだろ」
不安がる沙織を後目に、拓人は落ち着いて答える。最初はニキビのことが気になっていた拓人だが、舞と付き合っていくうちに気にならなくなっていた。
「兄貴が気にしないのなら良いよ。今まで振られたのは、ニキビとは関係ないのかもしれないもんね」
沙織は笑顔で答えるが、拓人には微妙な答えだった。
「……それって、振られた原因は俺にあるってこと?」
自分に原因があるだけなのに、ニキビのせいにしていたってこと?
「違う、違う!兄貴がニキビのことを意識し過ぎるから、上手くいきそうになってもダメになっちゃうってこと。ニキビなんて誰でも出来るものだもん。占いなんて当たらないよ」
「そうだよな……ニキビ占いなんて信じるからダメだったんだよな」
拓人は笑った。ニキビの呪縛から解放される日がやっと来たか!
「そうそう!ニキビ占いのことなんて忘れちゃいなさい」
「って、最初にニキビ占いを教えたのはお前だよな?」
「え?そうだっけ?」
沙織はとぼけた顔して笑った。ま、いいか……ニキビがあろうとなかろうと、舞さんは舞さんなんだから。このまま何も気にせず付き合っていけばいいんだ。拓人はそう思った。
それから数日後。
学校の昼休みに、拓人は廊下で舞に声をかけられた。あれからも舞は、時折ふっと物思いに沈んだ表情を浮かべたが、他はいつもと変わりなく過ごしていた。季節はもう晩秋、センチメンタルな気分になることもあるのだろう。なんとなく、舞は秋が似合う女の子だなぁと拓人は思った。
「あの……放課後、屋上に来て欲しいの」
舞は拓人と向き合い、目を伏せた。
「屋上に?何か用?」
「用っていうか……その、大事な話があって。まだ、誰にも聞かれたくないから2人きりになりたいの」
舞はチラチラと回りの様子をうかがい、ポッと頬を染めた。廊下は生徒達で溢れ、賑わっていた。
「大事な話……」
拓人の胸がキュンとなった。こ、これって、もしかして告白?……うつむき加減の舞の顔を見下ろしながら、拓人の胸の鼓動が速くなっていった。
「じゃ、私待ってるから」
舞は下を向いたままそう言うと、小走りに去って行った。
「……」
拓人は何も言えず、ただ黙ったまま舞の後ろ姿を目で追っていた。
「何、ぼ〜と突っ立ってんだよ!」
「いてっ」
いきなり頭を小突かれ拓人が後ろを振り返ると、涼が笑いながら立っていた。
「舞ちゃん走って行っちゃったぜ。もしかしてケンカ?」
「そ、そんなんじゃねぇよ……」
拓人の鼓動がますます高鳴っていく。
「そ?なんか妖しい」
「あ、待てよ」
立ち去ろうとする涼を拓人は呼びとめる。
「何?」
「あの……告られるっていうか、告白された時って、どうしたらいいのかな?」
頬を染め、頭を掻きながら拓人は言った。まともに舞に「好きです」とか言われたら、どうしよう……
「告られる?誰に?」
「もちろん、舞さんに決まってんだろ」
涼はプッと吹き出して笑った。
「今更何言ってんだよ。お前等もう付き合ってるのに、告白なんかする必要ねぇだろ?」
「え?……でも、俺、舞さんに放課後呼び出されたからさ。なんか、大事な話があるとかで」
「へぇ〜」
涼は腕組みして、拓人を見つめた。
「舞いちゃんって、何事もきちんとしたい性格なんじゃねぇの?そうだなぁ、お前の気持ちをハッキリ確かめたいとか?お前のことだから、まだ舞ちゃんに『好き』だとか『愛してる』とか言ってなさそうだし」
「そ、そんなこと、まだ言うわけねぇじゃん!」
拓人は耳まで赤くなる。
「だ、か、ら、だよ。気持ちは相手にちゃんと伝えなきゃな」
「俺の気持ち……」
舞を思う気持ちは、日増に募っている。最近では、学校に行って舞の笑顔を見ることが何よりも幸せだと感じ始めていた。
「拓人君、頑張れ!」
涼は拓人の肩に手を回し、ポンポンと叩いて笑う。
「ま、恋愛に関しては俺の方が先輩だからな、何でも教えてやるよ」
「って言っても、お前だって沙織としか付き合ったことないくせに……沙織には言ってんのか?その……」
「もっちろん!毎朝、毎晩、ラブコール入れてるし。さよならのキスだって」
「……キス?やっぱ告白されたら、抱きしめてキスとかした方がいいのかな……」
拓人の声は消え入りそうになる。
「ま、その場の雰囲気だね。でも、強引なのはダメだぜ。嫌われちゃうよ、拓人君」
「……そんなことは」
拓人の頭の中は舞とのキスシーンの妄想でいっぱいになる。
「……いい、やっぱお前に聞いたのが間違いだった」
拓人は頭の妄想を追い払い、涼の手を払った。
「一人でじっくり考えるから」
「拓人、考えすぎると失敗するよ!」
後ろで聞こえる涼の声を無視して、拓人は教室に戻って行った。舞の『大事な話』が気になる。午後からの授業は気になって授業どころじゃなくなるだろうなぁ……拓人は軽くため息をついた。