第10話 密かな期待
図書館前に並んでいる銀杏並木の銀杏は、日増しに濃い黄色になってきた。時折、ハラハラと銀杏の葉が落ちてくる。晴れてはいるが、日差しはめっきり弱くなってきた。
確実に秋は深まり、すぐ後に冬が待機している気配がする。
土曜日の午後、拓人は舞と図書館に出かけた。一緒に宿題もして、静かにゆっくりとした時を共に過ごした。
「あの、今度は遊園地とか行ってみようか?……」
図書館からの帰り、拓人は落ちてきた銀杏の葉をサクッと踏んで言った。
「え?遊園地?……」
ぼんやりと歩いていた舞は、ふと立ち止まる。
「五十嵐君、行きたいの?」
「え?その、女の子はそういう所に行きたいのかと思って……沙織もよく行ってるし」
今まで付き合った女の子に拓人もよく付き合わされてきた。無理して絶叫マシーンにも乗ったが、そのたびに気持ち悪くなっていた。
「俺は過激な乗物は苦手なんだけど、乗れるのは観覧車くらいかな」
拓人は頭を掻きながら、小さく笑った。
「私も遊園地の乗物は苦手よ。高い所もダメだから観覧車にも乗れないの。だから、遊園地に行ってもちっとも面白くなくて」
舞はそう言って微笑んだ。
「そうか、よかった。じゃ、今日はこれからどうしようか?」
時計の針は午後二時を少し回ったところ、まだ帰るには早いかなぁと拓人は思った。今までの場合、いつも女の子が行きたい所について行き振り回されるという感じだった。だが、舞は自分から何も要求して来ない。
こんな時、男の方が色々デートのコース考えてないとダメなんだよなぁ……もっと計画しておけばよかったと拓人は思う。
「五十嵐君の行きたい所でいいわよ」
舞はそう言うと、また歩き始めた。
「あ、うん……」
一瞬遅れて拓人も後に続く。それきり、しばらく黙々と歩く。そよそよと吹いてくる秋の風が、頬にヒンヤリと冷たかった。舞は口数が少ない方だけど、なんだか今日はもっと少ない。時々何か考え事をしているように黙り込んでしまう。
体調悪いのかな?それとも悩み事?なんか元気ないような……
「もしよかったら、五十嵐君の家に行ってもいい?」
突然、舞が拓人の方を見て言った。
「え?……」
拓人は驚いて立ち止まる。両親は仕事に行ってるからまだ帰ってない。沙織は拓人が出かける時まだ寝ていたけど、涼とデートに出かけたかもしれない……今、家には誰もいないのかも……
「あっ、良いのよ。突然お邪魔するなんて迷惑だものね……」
舞はそう言うと、歩いて行く。
「あ、そんなことないよ。良いよ、うちにおいでよ」
拓人は小走りで舞の元まで行き、頭を掻きながら笑った。何考えてんだろ、俺……舞と2人きりになると言っても、何かあるわけでもないし……頭の中の妄想を押しやりながらも、片隅で何かを期待する拓人だった。