第9話 下校デート?
「あの、途中まで一緒に帰ろうか……」
授業が終わった後、荷物をまとめている舞に拓人は声をかけた。舞とは帰る方角が違うため、残念ながら駅でお別れだ。
「うん、帰りましょう」
舞は快く返事をして、立ち上がった。
「いいなぁ〜下校デートか」
並んで教室を出る拓人と舞の後から、涼がついてくる。
「憧れちゃうね。来年沙織ちゃんもここに入学して来ないかなぁ」
「来ねぇよ。沙織は柔道の有名校に進学予定なんだから」
拓人は後ろを振り向いて言う。
「ついてくんな」
「ハイハイ、邪魔者は退散します!」
「あっ、吉澤君も一緒に帰りましょ」
舞は立ち去ろうとする涼に優しい言葉をかける。
「舞ちゃん優しいな。でも、今日は遠慮しとくよ、バイトあるから。クリスマスツアー代とプレゼント代稼がなきゃ!またね!」
涼は舞に手を振って、笑顔で去って行く。そう言えば、まだ舞にツアーのこと話してなかった。拓人がぼんやり考えていると、
「吉澤君はいつも元気ね」
舞が微笑みながら言った。
「え?……あ、まぁね」
涼の後ろ姿を目で追う舞に、拓人は少し嫉妬する。涼はいつも笑顔だもんな……暗い顔していたら、幸せも逃げていってしまうのかなぁ……いつもテンション低めの自分に悔いる。だが、無理にテンションを上げようとしても、滑ってばかりだ。
「あの、舞さんは、吉澤みたいなノリの良い奴がタイプ?……」
校庭まで出たとき拓人は舞に聞いてみる。
「……」
舞は黙っていた。あっ、俺まずいこと聞いたのかな?
「あの……」
「五十嵐君は、部活とかバイトとかしてないの?」
「え?」
舞は突然別な質問をしてくる。拓人が舞の方に目を向けると、舞は校庭で練習を始めたサッカー部の方をじっと見つめていた。
「うん……特にやりたいことが見つからなくて」
拓人は軽く息をつく。つまんない奴だよなぁ俺って……
「舞さんはサッカーが好きなの?」
真剣な表情でサッカー部に見入っている舞に、拓人は聞く。
「……うん、何かに夢中になっている姿って素敵ね」
「そうだね……」
クラスの何人かもサッカー部に入っている。確か、健と達也だっけ?舞に感心されているサッカー部の連中が、拓人には羨ましかった。サッカーか、俺はスポーツが苦手だものな。
「五十嵐君は、夢中で勉強しているところが素敵よ」
突然拓人の方を向いた舞は、微笑んでそう言った。
「え?そうかな?」
「うん。頭良いし落ち着いているし素敵だわ」
拓人の頬がポッと染まる。舞が誉め上手な性格だとしても、拓人は素直に嬉しい。俺って単純だ……舞の微笑みと誉め言葉で、拓人の嫉妬心はいっぺんに消え去った。