第28話 深夜バイトに行くときに
(まあ、食材には罪はないわよね)
裕子はクシナダが偽装電子マネーで購入した高級食材を全て調理して料理を作った。
ステーキ肉はステーキに。
国産牛のバラ肉は牛キムチに。
そして伊勢海老は伊勢海老汁に。
(伊勢海老うまぁ……)
赤だしで伊勢海老を煮て、伊勢海老汁を作ったのだが。
たったそれだけの料理なのに、伊勢海老の出汁でやたら美味かった。
裕子はお椀を持って思う。
(さすが高級食材)
それを実感せざるを得ない。
高いだけはある。
「タケハヤ、いきなり押しかけて申し訳ありませんでした」
同じく伊勢海老汁を飲みつつ。
クシナダがタケハヤにすまなさそうに頭を下げる。
「まあキミが本気で俺の裏切りを予想してたわけじゃ無いのは理解してるから」
「本当にちょっとだけ覗くつもりで……」
タケハヤの返しに、クシナダが言い訳めいた言葉を繋げて。
横で聞いてる身としては
(その割には長期有給休暇を取って来たんだよね?)
他人の恋愛に関して口を出す気は無いのだが。
そう思わずにはいられなかった。
まあ、来てみたら何かがあって即帰るわけにはいかなくなったと。
そうなる可能性はあるわけで。
だから「嘘吐け」とは言えないわけであるが。
そして食事を終え。
洗い物をし。
時計が21時を指したとき。
「あっ」
裕子は外出着を持って、浴室周辺に移動する。
「えっ、どこかに行くんですか?」
そこに、クシナダが訊ねた。
裕子は別に隠すことでもないので
「これからバイトのシフトなの」
正直に、そう答える。
彼女がスタッフとしてバイトしている呑み屋「大草原」では
15時からの仕込みと開店準備。
17時からのピークタイム。
そして22時からの深夜帯と閉店作業。
この3つのシフトが存在する。
深夜帯は時給がアップするので、金銭目的であるならばなるべく入れていきたい時間帯であった。
そして女子はあまりこの時間帯はシフトを入れたがらないので、店長の覚えをめでたくするために、彼女は可能な限り入れるようにはしていた。
別に時給を上げたいからではない。
彼女としては、五味山暮香に貸した4万円を補填したら何時でも辞めて良いと思っていたのだが、実際に働いてみると人手が足りてなくて。
金が貯まったからサヨナラ! と言い出すのはあまりにも不義理なのではないかと思ったのだ。
辞めたいときに辞めるために、なるべくしんどい時間帯を引き受ける――
そういう思いの結果だ。
このシフトも店長に頼まれて引き受けたのである。
「深夜1時までのシフトだから、帰って来るのは深夜2時くらいになるかな」
外出準備を整えながら彼女は話す。
自分のバイトの事情について。
「なのでその間、留守番をよろしくお願いしますねェ」
そして靴を履き、部屋の外に出るとき。
「すみません桐谷裕子さん」
その背中に、クシナダが声を掛けてきたのだ。
振り返ると彼女は
「私も手伝いたいです」
意を決した顔で、そんなことを言って来て
「えっ?」
彼女は思わず。
その言葉に困惑してそんな声が出た。




