サークル
祢劾大学のB棟には、多数のサークルがあった。A棟とB棟で中庭を囲むような形になっていた。
右側がA棟、左側がB棟になっている。
この物語は主にB棟四階の一室のあるサークルの話である。
「会長~新人さんは誘わなくていんですか?」
「ん~張り紙してあるからいいのではないか?」
今年一年生になったばかりの山田太一に残り一週間で卒業を控えた会長ー葛西竜也がタバコを吹かしながら言った。
煙を手で避けながら立ち上がり窓を開けた。
「煙に慣れたらどうだ?」
「いや~無理ですよ……あれ?」
窓から顔を出して外の新鮮な空気を吸っていたら何かを発見したようだ。
「涼さんと工藤くんまだ勧誘してますよ」
「まぁいいのではないか……」
軽く苦笑いをしながら誰にも聞こえない声で「また騒がしくなりおるな…」と呟いた。
それから葛西がタバコを吹し終わるまで静かな時間が続いた。
騒がしいことが好きではない葛西にとっては至福の時だった。
「ちわ~す、涼さん頑張ってたぞ、よっぽど女性を増やしたいんだな
アイツもいるからだろうけど…」
「はははは…そうですかね」
太一は笑いながらまた外を見た。
【チャラ~♪チャチャラ~♪】
「僕のですね…
はいもしもし?え~と四階だけど…わかったよ、ちょっと待ってて」
太一はケータイをしまうと、カバンを持って部屋の出入り口に向かった。
「なんだ?彼女か?」
「いえ~幼馴染ですよ」
会長のタバコが二本目に入ると、涼子と工藤が戻って来た。
「ダメですね…結局山田くんしか入らなかったです…」
「まぁ目に見えてたけどな…涼子、今度さ映画にでも」
「いきません」
唯一の女会員である涼子を前々からアピールするが、ずっとスルーされて来た。
葛西は、至福の時の終わりを窓から顔を出して悲しんでいた。
「ん~……おっ?」
窓から新会員を募集するサークル達の中に女を連れて歩いている太一を見た。
何故かわからないけども顔がニヤけてしまった。
「会長なに見てんすか?」
「お~…田中いたのか…」
「結構序盤でいましたけど…」
一本目のタバコを吸い終わった辺りから田中がいたことを知るものはいなかった。
「で…なにを見てたんですか?」
「青春の1ページ…」
「意味が分かりませんよ…」
山田は女の後について行き、校門から出て行った。
葛西は頬杖をつきながら、大きな欠伸を一つした。
電車の中で、山田と女は二人きりだった。
「にしても、優樹菜がオレのこと呼ぶなんて珍しいね…」
「呼びたくて呼んだわけじゃないよ
アイツがまた面倒くさがってこないんだよ」
「あははは…久住らしいね」
「笑い事じゃないよ…」
駅二つのところにある久住の家に着くまでにした会話が幼馴染の二人にとって久し振りの会話だった。
電車の揺れが山田に心地よい眠りを誘うが、すぐに降りることになるので、すごくもどかしい気持ちになる。
「そろそろだよ」
「……うん…」
「寝るなよ…」
「…ラジャ…」
降りる準備をする優樹菜の隣で、まだウトウトしている山田、溜め息を一つついて手刀を頭に振り下ろした。
「……行くか…」
「よしっ」
駅を歩く山田の頭には、コブが出来ていた。
アパートの一室の前で二人は立っていた。
鍵がかかっていて入れないのである。
優樹菜は「こんなときに限って……」と頭を抱えながら一人言のように呟いた。
「でも中からテレビの音聞こえない?」
耳を澄して聞いてみると、テレビを見る音と人が歩く音が微かに聞こえて来る。
「居留守だな…」
「…ったく、メンドクサイわね…どうする?」
優樹菜は髪をかき上げて聞いた、山田はケータイを見て言った。
「もう五時半か…」
「聞いてんの!」
耳が広がりそうなくらい強く引っ張られる。
山田は耳を押さえながら小さい声で呟く。
「んじゃ~ピンない?」
「……は?あるけど…」
優樹菜は髪につけていたピンク色のピンを渡した。
「どうも~」と言ってピンを真っ直ぐに伸して鍵穴に刺した。
「もしかして…ピッキング?」
「……まぁ…そんなとこかな……」
ゴンッ!
「いてっ……」
山田の頭に拳骨が突き刺さった。
頭から手が離れる瞬間、ゆっくりとドアが開いた。
「……速いな…」
「昔、チャリとかでやって慣れてるから」
ドアをちゃんと開けるとパンツ一丁の陣内がいた。
爆笑する山田と、唖然とする優樹菜がドアの奥に立っていた。
恥ずかしがることなく、仁王立ちする陣内。
「せめて隠せ…」
「あははは!」
「んじゃ~閉じろよ」
バタンッ!
優樹菜が勢い良く扉を閉めた。
山田は腹を抱えて笑っていた、足がガクついて倒れそうになっていた。
「笑い過ぎだろ…」
「………意外とピュアだな」
「…うるさい…」
顔を赤らめてケータイをいじり出した優樹菜。
ガチャッ
「お待たせ」
ズボンとTシャツを来た陣内がドアを開けて向えた。
ケータイを閉じて、部屋の中に入る。
山田はゆっくり後をついて行こうとする。
「お前はもういい」
「……なん…」
「いいから!」
玄関から出され、バタンとドアを強く閉められた。
「あらら…こんな役回りっすか」
アパートから出て、駅に向かって歩き出した。
帰りの電車の中で、真っ直ぐに伸びたピンクのピンをペン回しのようにグルグル回していた。