一つ増えた
皆さんは、温泉は好きですか(・・?
ゆっくり浸かると気持ちよくて、疲れがスーッとなくなるように感じる方も多いのではないでしょうか。
「え…?何ここ」
俺の目の前に広がっていたのは、
広い温泉だった。
天井、床、壁、どれも水色のタイルで奥は湯気がかかっていて見えない。
周りには銭湯によくある鏡の他シャワー、パステルカラーの水色や黄色、ピンクなど形も様々な小さい子共用のお風呂が並び、腰掛けるためのイスや浮かぶオモチャ。
それから、湯船の中に何着かの服がプカプカと浮いていた。
俺の格好はと言うとラフな部屋着に、いつも履いているスニーカーだ。
ここに来る前の記憶はナシ。
…ピンと来た。
これは俺の夢なんだろう。
そして、こういう夢を見る心当たりもバッチリある。
俺はホラー系統の小説が大好きで通学時間や空き時間を使って読むことも多々あるのだ。
通常ならビビる所だが夢だと分かった以上、結末はもう分かっている。
大抵主人公は、この世のものとは思えない化け物に遭遇し、命を落とすのだ。
(そんな簡単にやられると思うなよ…!)
自信満々に、俺は一歩踏み出した。
「にしても…リアルだな。」
夢だと自覚しても、まだ俺は目覚めていないようで静かな風呂場にはスニーカーが濡れた床に擦れる度にキュッキュッという音が反響していた。
(鏡が湯気で曇るとこまで…こんなに作り込まれているもんなのか…?)
曲がり角の先にも、風呂の景色は続き奥が見えないのも変わらない。
その時だ。
ピタンッピタンッピタンッ
音がした。分かっている、これは絶対化け物だ。
後ろを振り向けばいる…
スッと俺は潔く振り向いた。
「あれ?」
すっとんきょうな声を上げたのも無理はない、想像していたように化け物はいなかったのだ。
だけど、音は聞こえている。
ピタンッピタンッピタンッ
前を向いてもいない。
(待てよ、もしかして)
上を見た俺は思わず腰を抜かす所だった。天井に張り付きながら移動する“それ”は、体は人間と同じような形だが銭湯の壁や床と同じような水色で、人間の腕が何本も生えていた。
(嘘だろ…?!おいおいおい!)
いくら夢だとしても怖すぎる!
俺は全力疾走で走った。
ピタンッピタンッピタンッ
音は俺を追いかけてくる。
夢は都合よく覚めない。
唯一救いだったのは、俺の所属する部活が陸上で長距離を走るのに慣れていたことだ。
こんなに広い空間で怖い化け物と鬼ごっこなんて、最悪だけど。
しばらく走っていると音は少しずつ遠のき、やがて聞こえなくなった。
(俺の夢なのに、息が苦しくなるのまで再現しなくていいんだよ…!)
多少、呼吸が乱れたが問題はナシ。
今度は近くの曲がり角の奥から音がした。
ピタンッピタンッピタンッ
素早く別の道へと走る。
夢なら、いっそのこと化け物に襲われてしまえば覚めるのかも知れないが反射的に体が逃げてしまうのだ。
銭湯だからか周囲の空気は暖かく、普通に走るより息苦しい。
地面が濡れているから転ばないように気をつけて、また音が遠のくまで足を動かす。
床に落ちているオモチャ達が必死に走る俺を嘲笑っているように感じた。
ピタンッピタンッピタンッ
音がすぐそこまで、来ている。
それなのに、息苦しい中ずっと走り続けたせいでスピードは落ちていった。
ピタンッピタンッピタンッ
(もう…駄目か…!)
急にピタリと音が止まった。
ハァハァと息を切らしながら俺は少しずつスピードを落としていき、立ち止まる。
やっぱり音は聞こえない。
けれど、夢から覚めてもいない。
(何が起きてるんだ…?)
ドンッ
左から強い衝撃が加わった。
見ると、そこには先程の化け物がいて俺を風呂の中へ突き飛ばしたようだった。
沢山の腕を突きだしたまま、ニタニタと笑っている口のみが見える。
でも、俺は焦ってもいないし、恐怖心もなかった。
ここで死ねば夢から覚めるのが王道だからだ。
これで、やっと最後。
やっと…やっと、夢から覚めれ
ドボンッ
少年が湯船に沈んだ後、風呂場には何もいなかった。
化け物も、そして沈んだはずの少年も。
そこら中にあるオモチャだけが、「夢だと信じて疑わなかった」少年の末路を見届けていた。
しばらくして、少年が沈んだ風呂からは少年の服と
そこにはなかったアヒルのオモチャが一つプカプカと浮かんでいた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
「夢だと思っていたのに」という、タイトルと悩んだのですがネタバレに近くなってしまうかな…(・・;)
などと、考えた作品です(⌒▽⌒)
次の作品も楽しんで読んでくださると嬉しいです!




