第4話 ホントのトコロ
「わかった時は驚いたよ、ちなみに先天性か?」
「え?」
(お前『も』? 真田くんも他人の心の声聞こえるってこと? 先天性? なにそれ? え?)
蓮斗の予想外の告白に小春の頭の中はパニックになっていた。
「あのな、生まれつき聞こえんのか、途中でそうなったのかってこと」
「あ、途中から……」
(十歳くらい)
「へぇ、十歳くらいか。じゃあ後天性だ」
「十歳って言ってないのに……」
(マジで聞こえてんじゃん!)
「オレは先天性でさ、物心ついたころからずっとこう」
「そ、そうなんだ」
(ってことは、今まで私が心の中で思ってたことって……)
嫌な予感のする小春に、蓮斗が真顔で言い放つ。
「お前さ……オレに恋してんだろ」
「ギャー!」
(ぎゃー!)
実際の声と心の声、二重奏の叫びが響く。
「あ、いやその、自分でもそれはよく……」
(心の声聞くのやめてよ!)
「やめてったって、こっちは勝手に耳に入ってくんだからしょうがねぇよ」
「うう……」
(この辱めをどうしてくれるの)
「辱めってなんだよ……でもな、安心しろ。それはたぶん恋じゃない」
「は?」
(じゃあなに)
戸惑う小春に向かい、蓮斗は続ける。
「オレ『プロテクト』かけられてんだ」
「プロテクト?」
(なによそれ)
「知らねぇのかよ。まぁ要は、他人に自分の心の声を聞こえなくする術だ」
「え、そんなのあるの!」
(めっちゃいいじゃん)
さっきから自分の心の声が蓮斗に聞かれていることに言いようのない居心地の悪さを感じていた小春は、思わず大きな声をあげてしまった。
「それ私もやりたい」
(こんなのたまんないわよ……まぁ普段は逆の立場なんだけど。みんなゴメン)
「そう言われてもオレにはできねぇ。プロテクトがかけられるのは、おふくろだけだ」
「おふくろ?」
(真田くんのお母さん?)
「オレが他人の心の声が聞こえるのは、おふくろからの遺伝なんだ。全員がそうじゃないけど、ウチは先祖代々この能力を持って生まれてくるヤツがいるらしい」
他人の心の声が聞こえる界隈にもいろんな種類があるんだな、と小春は思った。そんなこと今まで全くもって知らなかった。というか、自分以外でこの能力を持つ人間を初めて見た。
「プロテクトはおふくろがあみ出した術だ。だからおふくろにしかかけられねぇ」
「そうなんだ」
(残念)
「あ、でもな、あながち間違いでもねぇんだよな」
「え?」
(なにが?)
「恋をした相手の心の声だけ聞こえなくなる……それは本当らしい。おふくろも、オヤジの心の声だけは聞こえないって言ってた」
「そうなの?」
(綾乃の勘すごっ)
「だよな、島本は鋭い」
綾乃の推測がまさか本当とは。驚きとともに、小春の胸の中にある疑念が湧く。
「あの……ってことはさ、その、私が本当に真田くんに恋してるって可能性も……」
(私、なに本人に向かって言っちゃってんのよ)
「まぁ、それはねぇだろ。そういう恋だの愛だのに関する胡散臭さは散々わかってるはずだ……お前もオレも」
「……確かに」
(ごもっとも)
「オレは一生、心から人を愛することなんてできねぇだろうな。小せぇ頃から他人のホンネを浴び続けていたら、人間がいかに信用できねぇかよくわかる。それにさ、わかんねぇけどよ、恋ってそういう理詰めで考えるもんじゃねぇんじゃねぇの? 恋してるかどうか考えてる時点で恋してねぇっていうか……ってオレもなに言ってんだ」
蓮斗は少し顔を赤らめながら苦笑した。小春は蓮斗の笑った顔を転校以来初めて見た気がした。
「そう言われるとそうだよね……目が覚めた気がする」
(私が恋なんてするわけない……真田くんは確かにイケメンだけど)
「オレってそんなにイケメンか?」
「ああっ! もう、心の声聞かないでって!」
(生きづらい……プロテクトかけられたい……)
小春はまたしても赤面した。
「なんか悪かったな、勘違いさせちまって。早く本当のこと伝えたほうがいいと思ったんだが、なかなかチャンスがなくてな」
「だからって、さっきの誘い方は強引だったよ」
(みんなこっち見てたじゃん……そりゃあのシチュエーションじゃ愛の告白だと思うよ)
「まぁしゃあない」
「柳くんなんてあからさまに動揺してたし」
(マジでヤバいって)
教室での目を丸くした柳の顔と心の声を思い出し、小春は憂鬱になった。
「あぁ柳な……島本のこともあるし、お前も大変だな」
「そうなの、ほんとツラいの」
(真田くん、意外と把握してんだな)
「そりゃ把握するわ、勝手にいろんなヤツの好きだのなんだのいう心の声が聞こえてくんだから。お前だってそうだろうよ」
「まぁ……そうだね」
(確かに)
「だからさ、早く教えてやんなきゃって思ったんだよ。お前のオレに対する心の声もガンガン聞こえてきてたから」
「……お恥ずかしい」
(マジでプロテクトかけて! そう考えると、聞こえてるのがわかってて私と普通に接してる綾乃ってメンタル超人すぎる!)
その時、校舎の方から近づいてくるふたつの人影が見えた。
「あー、噂をすれば……だな」
「柳くーん、待ってよ!」
(せっかくのふたりきりの時間なのに!)
「島本さんはついてこなくていいって!」
(どこだ? 中庭か?)
小春の想像していた最悪のシナリオが、今から目の前で起ころうとしていた。
「ちょっ! さ、真田くん、とりあえず逃げ……」
(ヤバいヤバいヤバい! しかも綾乃もいるし!)
慌てる小春と横にいる蓮斗を視界に捉えた幸太郎が、全力ダッシュで接近しながら叫ぶ。
「ちょっと待ったあああああっ!」
(五十嵐さんは、僕が幸せにするっ!)




