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間違いだらけの元王太子【セリア】

 僕はついに、真実の愛を見つけた。


 デイジーは本当に可愛くて、花のように可憐で、僕と出会い恋をするために生まれてきてくれた存在。


 可愛らしい顔もフワフワした雰囲気も全部、アンリースとは大違い。


 パーティーが終わり、デイジーと離れる寂しさはあったけど父上と母上にすぐ報告をしなくてはならないから今日のところは、名残惜しいけど帰ることにした。


 馬車に乗り込む前にデイジーはさよならのキスをしてくれて、寂しそうな笑みを浮かべる。


 学園を卒業しなければ結婚出来ないなんてあんまりだ!


 婚約者なのに一緒に暮らせないなんて。


 デイジーにこんな悲しい思いをさせてしまうのが心苦しい。


 次に会うまで寂しくないように力強く抱きしめて、僕からもキスをした。何度も何度も。


「セリア。お前を王太子から外す」


 アンリースと婚約破棄をして、新たにデイジーと婚約する旨を伝えると、なぜかそんなことを言われた。


 ──言っている意味がわからない。


 父上はため息をついては、もう下がれと手を振った。


 僕は生まれたときから王になることが決まっていて、周りの人も皆、僕が王に相応しいと口を揃えていたのに。


 納得がいかない。理由もなく王太子じゃなくなるなんて。


「セリア。貴方を次期国王に任命する条件を覚えていますか?」

「条件?」

「もうよい。お前は真実の愛を選んだのだろう。ならば玉座は諦めろ」


 冷たく突き放そうとする父上と、口を開くことをやめてしまった母上。


「僕じゃなければ誰が継ぐというのですか!?僕以外にいないではありませんか!!」

「リカルドがいるだろう」

「まだ学園にも入学していない子供です!!」


 リカルドは僕と違って支持率が低い。弱いリカルドが王太子になったとなれば、僕の派閥の人間に暗殺される。


 大切な弟を守る意味でも僕が玉座に就かなくてはならない。


「はぁ……。セリア。アンリース嬢との婚約を破棄し、平民出身者を選んだお前が本当に王に相応しいと思っているのか」

「デイジーは下級ですが貴族です。貴族の常識や知識も今、身に付けている最中なので、すぐにでもアンリースの代わりになりますよ」

「アンリース嬢の代わりなど、いるわけがないだろう」


 父上が何と言ったのか、僕には聞こえなかった。


 ただ、呆れるを通り越して項垂れているのはわかる。


「ねぇセリア。貴方はなぜ、そんなにも自分が正しいと思っているの?」


 母上は変なことを聞いてきた。


 そんなの決まっている。僕こそが次期国王に相応しいと皆が言うからだ。


 答えると、皆が誰なのか具体的な答えを求められる。


 ハリア侯爵。エヴァンス侯爵。ランウィール伯爵。スルコット伯爵。ビンセール伯爵。他にも下級貴族だって僕を支持する派閥にいる。


「彼らはお前ではなくリードハルム家を支持しているだけだ。なぜ、そんなことにも気付けない」

「そんなはずありません!僕を差し置いて、そんな……!!」


 所詮は公爵。王族で、しかも次期国王の僕より人気や信頼があるはずかない。


「そんなことより、僕を王太子から外す理由を教えて下さい」

「アンリース嬢と婚約破棄したからに決まっているだろう?」

「え……?」

「最初にいったはずだ。お前が私の跡を継ぐのはアンリース嬢を妻として迎えたときだと。そして、浮気相手と将来を見据えたお前に明け渡す椅子はない」


 感情のこもっていない目。


 見放された?この僕が?


 いいや!第一王子である僕を切り捨てるはずがない。


 そうか、わかったぞ!これはテストだ。僕こそが父上の後継者として相応しいか見極めるための。


 父上は答えを待っているんだ。


 この場合の最適解は……


「では、アンリースを側室として迎えます。それならば問題はありませんよね」


 これこそが正解。


 僕は玉座に就き、愛する女性と結婚をして、傷物となったアンリースを娶ることで名誉も守ってあげられる。


 王妃教育を受けていたアンリースなら、王妃になったデイジーのサポートも可能。ついでに僕の仕事もやってもらおう。


 そしたら僕はデイジーとの時間が取れるし、アンリースは愛する僕の役に立てて一石二鳥。


 これ以上ない完璧な解答。


 父上も現国王として神経質になるのはわかるけど。せめてもう少し説明をしてくれないと困る。


 僕でなければこれがテストだと気付くことはなかっただろう。


「は……?お前それ、本気で言っているのか?アンリース嬢を王妃ではなく側室にすると」

「はい!僕としてはデイジーだけを愛するつもりですが、側室に迎えるにあたって、それなりに愛情は与えるつもりです」

「もういい。出て行け!このバカが!!」

「ち、父上?」

「セリア!出て行きなさい」


 母上が声を荒らげるなんて初めてだ。


 どんなときも冷静に、淑女の鏡として貴族令嬢のお手本だったのに。


 二人がなぜ怒っているのかわからないけど、テストは合格したんだ。王太子になれるかもと淡い希望を抱いているリカルドに教えてあげなくては。


 君はこれまで通り、ただの王子であると。


「あんなバカな条件、リードハルム家が知ったら黙っていないぞ」

「王太子としての自覚を持てないどころか、あんなにも自分勝手に生きていたなんて。一体どこで、育て方を間違えたのかしら」

「リカルドは真っ直ぐ育ってくれたというのに……」


 僕が退室した部屋の中で、そんな会話が交わされていたことに当然、僕は知る由もない。





「兄上」

「リカルド。良かった。君の部屋に行こうと思っていたんだ」

「アンリース嬢と婚約破棄したというのは本当なのですか」

「うん。だって僕はデイジーを愛しているからね」

「それはつまり、王太子の座を捨てるということですか」

「何を言っているんだい。僕は父上のテストに合格したんだ。残念だけどリカルドが王太子になることはないよ」


 弟の希望を打ち砕くなんて最低だけど、現実を見させることも兄の役目。


 王族として夢を大きく持つのは良いとして、叶わない夢を持ち続けるのはダメだ。


「兄上こそ何を言っているのですか。兄上が王太子でいられたのはアンリース嬢と婚約していたからですよ」


 またアンリース。たかが公爵家の娘ってだけじゃないか。


 彼女よりも、僕に愛されるデイジーのほうが大事にされるべきなのに。


「何のために僕が辞退したと思っているんですか」


 む。その言い方だとまるで、リカルドが僕に王太子の座を譲ったみたいじゃないか。


 第一王子で、国民から多くの支持をされる僕が最初から王太子になることは決まっていた。いくらリカルドといえど、分不相応な夢を見て、ましてやそれを口にするなんて。温情な僕でも気分が悪くなる。


 優しさには限界があるんだ。


「アンリース嬢との婚約破棄の手続きは完了しています。お二人が元に戻ることはありませんよ」

「大丈夫だよ。アンリースは僕の側室として迎えてあげるから。別に婚約なんてしていなくても問題ない」

「……え?何を言って……本気でそんなことが許されると思っているのですか!?」

「当然だろう?だって僕は王太子だ。将来、この国を統べる存在なんだから」


 王妃でなくても側室として僕と結婚出来るならアンリースも満足してくれる。


 だって、公爵家の力を使って僕の婚約者の座を得ていたぐらいだ。きっと泣いて喜ぶ。


 僕とデイジーを祝福してくれたのだって、僕の幸せを願っていたからこそ。


 権力を私欲のために使うのは許されないことだけど、それほどまでに彼女に愛されてしまった僕の存在が罪なだけ。


 人間、誰しも過ちはある。彼女の罪を許してあげることもまた、僕の務め。


 きっと僕との婚約が破棄されたことにより、今晩は枕を濡らしていることだろう。


 良い知らせは早く教えてあげないと。明日の朝にでも、側室に迎え入れてあげると伝えてあげなくては。


 そうだ。花もプレゼントしたらどうだろうか。


「兄上?どちらに行かれるのですか」

「デイジーのとこだよ」

「はぁ!!!??」

「アンリースに花をあげようと思ってね。デイジーに選んで貰うんだ」

「兄上がこんなにも最低な人だったなんて」

「ん?何か言った?」

「いいえ。僕はこれで失礼します」


 そう言って不機嫌そうに去っていく。


 もしかして、僕だけが真実の愛を見つけたことに嫉妬しているのか。


 リカルドは二つ歳上のフラスレイス侯爵の令嬢と婚約している。好きでもない女性との結婚は苦痛でしかない。兄として力になってあげたいな。


 愛し愛される存在は必要不可欠。リカルドもいつか真実の愛を見つける日がくることを願う。


「早く行かないと」


 花屋が閉まる前に。


 未来を思い描くことがこんなにも楽しいことだと知ったのはデイジーと出会ったからだ。


 クラッサム家に到着すると、わざわざデイジーが出迎えてくれる。


 こんなすぐに僕と再会出来たことが嬉しいとその場で飛び跳ねる姿が可愛い。


 愛しいデイジーを抱きしめて、アンリースに渡す花を選んで欲しいとお願いした。


「セリアはアンリースさんが好きなのね」


 悲しそうに笑うデイジーにキュンとしながらも、悲しませてしまったことに胸が痛む。


「違う!!そうじゃないんだ。父上がアンリースと結婚しなければ僕を王太子から外すなんて言うから。僕だって本当は嫌だよ。デイジー以外の人を妻に迎えるなんて」

「本当の本当に、セリアは私だけを愛してくれる?」

「もちろんだよ!僕の愛はデイジーのためのもの。アンリースなんかに一欠片だって渡さないよ」

「嬉しい!セリア大好き!愛してる!!」

「僕も愛しているよ」


 天使のようなデイジーを悲しませなくてはならないなんて。胸が痛い。


 気丈に振舞ってはいるものの、内心では傷ついているはず。


 ──こんなにも健気なデイジーと、どうしてもっと早く出会えなかったんだ。


 運命のイタズラに怒りつつも、デイジーと出会えた運命に感謝をした。


 愛するデイジーと出会えなければ、権力を振りかざすアンリースが王妃になっていたのだ。人の気持ちを考えられない王妃など、いずれ国民に嫌われその座から引きずり下ろされる。


 少しでも一緒にいたくて、馬車には乗らず歩いて買いに行くことに。


 手を繋いで歩くなんて、アンリースと婚約しているときには考えられなかった。


 息苦しくて二人でいる時間はかなり気まづかったな。


「セリア。この花なんてどうかな」


 花屋に着くと、店先に置かれていた鮮やかなピンクの花をデイジーが見つけた。


 こんなにも花が似合う女性はデイジー以外にいない。明るくて純粋なデイジーなら他の花でもさぞ似合うだろう。


「うん。それにしよう。デイジーにピッタリだ」

「もう~セリアってば。アンリースさんに渡すんでしょ」

「僕はデイジーに似合う花を買いたいんだ。言ったろ?アンリースなんかに僕はこれっぽっちも興味はないんだから」

「正直なセリア。大好き!!」

「僕もデイジーのこと大好きだよ」


 胸に飛び込んできたデイジーにキスをした。ずっとこうして触れ合っていたい。


 でも、我慢だ。


 目的はあくまでも花を買うこと。デイジーの肩を抱いたまま店主に、花束を作って欲しいと頼む。


 慣れているもので、時間はかからずあっという間に出来上がった。


 明日が楽しみだな。


 こんなにも国民のことを考えてあげられる王族は、歴史上の中でも僕だけ。


 アンリースが勘違いするといけないから、僕の愛はデイジーだけのものと伝えておかなければ。


 僕に愛されなくても、側室として僕と結婚出来るんだ。分不相応に僕の愛を求めたりはしないだろう。

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