格闘令嬢のトレーニング指導者
なろうラジオ大賞用小説第八弾
『ま、毎晩夢に出てくるなんて! こ、これは何か悪い事が起こる前触れですわ! 何か起こるその前に自分を鍛えねば!』
『ではお嬢様、その鍛練この私にお任せください。必ずやお嬢様を、お嬢様の理想のレヴェルまで強くしてみせましょう』
全てはそこから始まった。
かつて自分が転生者である事を、毎夜同じ悪夢を見ても自覚できなかった俺は、専属執事の導きによりトレーニングを重ね……ここまで来た。
彼のおかげで今世の俺は強くなった。
そしてそのおかげで王子との婚約を先送りにできた。
さらにはその王子の人生にも影響を与え……そんな時に“ヤツ”は現れた。
『異端の転生者共よ、貴様らはこの世界のこれからのために……今ここで死なねばならない』
自らを天使や御使いと称する何者か。
今なお転生者である俺の命を狙う何者か。
そして、俺だけでなく専属執事も転生者だと言う何者かの一体が。
『お嬢様、ここは私にお任せを。必ずやお嬢様だけは……命にかえてでも、お守りいたします』
そしてこの戦いの後。
ヤツは俺の師により重傷を負わされた上で追い払われ、
『お、お嬢様……戦いは、相手次第……生き方は……お嬢様、次第です……』
『ッ!? あ、あなた……まさか!?』
師は俺に……己の正体を遠回しに、俺の前世を生きた戦士の名言を、少々変えてから告げる事で教えてから、ヤツに負わされた致命傷により命を落とした。
あなたがなぜ、原作にはいないキャラであるあなたがなぜ俺の専属執事であったのか。それはもう分からん。
だがそれは、もう些末な事。
今俺がすべきは、俺が生きているこの世界の秘密を解き明かし、そして俺を強くしてくれたあなたを殺した何者かに落とし前をつけさせる。それだけだ。
「生き方は、ワテクシ次第。ならばどこまでも強くなりましょう」
そして俺は、王子との決戦の前に、師である専属執事の墓――日本の墓を模した墓の前にやってきていた。
これから先、何が起こるかは分からん。
だがしかし、王子が建設を指示した闘技場を舞台とした戦いが転換点になる気がするから。だからこそ俺はやってきた。
「師よ、あの世から見ていてください。ワテクシは必ず、この乙女ゲームの世界を制覇してみせますわ!」
師の墓前で、その決意を表明するためにも!
「さぁ行きましょうヘレン! 殿下を始めとする強敵達が待っています!」
「はい、お嬢様!」
そして俺はメイドのヘレンにそう告げると。
決戦の地である闘技場を目指して歩き始めた。
戦いは相手次第。生き様は自分次第。
――元大日本帝国陸軍軍人・小野田寛郎の名言より