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第二章 第六話 暁の花


「お兄様、ディリウス!!」


 パタパタと走ってきたのはリデルだ。


「リデル。なぜお前がここに?」


 一人で森を出歩いた罰として、リデルは外出を禁じられたのだ。


「窓からお二人が東屋に入っていくのが見えて……」


 大急ぎで外に飛び出したらしい。


「母上がお怒りになるぞ」

「お叱りは後で受けます。ただ、これを渡したかったの」


 リデルはそっと二輪の花をさし出した。


「これは?」


 それは見たことのない花だった。中心が鮮やかな赤なのに、端に進むたびに青味かがって美しいグラデーションを自然のままに創り出していた。

 少ししおれた花をよく見れば、リデルが崖に落ちかけた時、しっかりと握りしめていた花だ。


「暁の花、だな」

「なんだそりゃ」


 ルディは鼻で笑い、そんなことも知らんのかといわんばかりの馬鹿にしきった視線を投げた。


「このあたりにしか咲かない花で、とても貴重な花だ。通称『暁の花』。幸運の象徴でもある……これを探して森に入ったのか?」


 最後はリデルへの問いかけだった。リデルはこくりとうなずく。


「お兄様とディリウスに仲良くしてほしくて……」


 幼いながらにリデルは考えたのだ。どうすれば二人は仲好くしてくれるのだろうか。兄は、ディリウスのことを気に入っているはずなのに、冷たい言葉ばかりをディリウスにぶつけている。ディリウスはディリウスでルディを敬遠している。

 なにかきっかけがあればいい、と思う。そこで思いついたのが『暁の花』。ここの森にしか生息しない花で幸運の象徴。二人に花を渡せば仲良くなるきっかけがつかめるかもしれない。

 だからこそ、ディリウスの部屋を飛び出した後に森の中へと入って行ったのだ。

 花はなかなか見つからなかった。かろうじて一輪見つけたものの、リデルは二人に渡しかったので二輪ほしかった。欲張りな願望ではあったものの、二輪目を見つけて摘んだとき、崖のすぐそばまで近づいていたことに気が付いていなかったリデルはがけから転落したのだ。


「無茶な事を……」


 思っていたより、お転婆な娘だったらしい。


「俺たちのことを心配してくれてありがとう。でも、こんなむちゃをしてはもういけないぞ?みんなリデルのことを心配していたんだからな」


 軽くリデルの頭をなでると、リデルは声を立てて笑った。







 二日後、ディリウスは、父とともに野薔薇宮に別れを告げた。

 ルディは相変わらずのぶっきらぼうな表情で、リデルは瞳にたくさんの涙をたたえて見送ってくれた。皇帝一家は、ディリウスと別れた後すぐに居宮へと帰還したらしい。

 父の自領にもどったディリウスは今まで以上に剣の鍛錬にいそしむようになった。


『早く自分の剣を手に入れたいから』


 なぜそこまで鍛えるのか、という質問の答えに一同は男の子らしい答えに苦笑することになる。

 父親は、その言葉に隠された真意に気付いていたのか、息子の答えを聞いた時、会心の笑みを浮かべたらしい。

  ディリウスは時々、ルディやリデルと手紙のやり取りをするようになった。手紙を送ってくるのはもっぱらリデルで、その中身は宮での楽しかったこと、驚いたこと、うれしかったことなど、日常での出来事がほとんどで、リデルがどのように過ごしているのか、手に取るようにわかった。

 一方でルディの手紙は少なかった。届いても文章はとても少ない。だが、「元気でいるか」「崖に落ちた時のようなけがはするなよ」「リデルがお前の話ばかりする。不愉快だ」などの言葉にディリウスは何度も苦笑いを浮かべることとなった。リデルへの返事にそのことを書いたら「ディリウスの話ばかりするのはお兄様のほうよ」と教えられ、一緒にくっついていたルディの手紙には「余計な告げ口をするな!!」と一言だけ書かれていた。

 そんな手紙のやり取りの中でよく出てくるのが「また会えるといい」という言葉だった。野薔薇宮での出会い以来、二人が顔を合わせる機会が全くなかったのだ。リデルはさびしがったが、ディリウスはこの事態を歓迎していた。どうせ再会するなら十分に成長した姿を見せたかったのだ。

 いつかの再会を夢見て、ディリウスは剣をふるい続けた。


 しかし、ディリウスはエルディアを包もうとしている影にまるで気が付いていなかった。





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