9話 反撃
9話 反撃
「この家の中に弥生と刹那が捕らえられているって? 」
「ええ、そのようですね 」
「私たちも突入した方が良いんじゃないか、八千穂 」
「駄目ですよ、柚希 澪さんの指示があるまで待機です 」
「澪さんも、まどろっこしいんだよ 私に任してくれればこんな家の妖怪なんて瞬殺してやるのに 」
「今の言葉、澪さんに伝えておきますね 」
「バカ、止めろ八千穂 お前、告げ口ばかりして 」
「告げ口される事ばかりする柚希はどうなんですかね? 」
「分かったよ 待機していれば良いんだろう 」
二人のセーラー服を来た少女が、弥生たちを呑み込んだ家の前に立っている。一人は白いセーラー服、もう一人は黒いセーラー服を着ていた。
「それに、あの二人が捕らえられるなんて普通の妖怪ではないのかもしれません 」
「はあ? 普通も何もあるかよ 悪い妖怪なら倒すだけだろ 」
「もう、柚希は黙っていて下さい この家のおかしな気配を感じないんですか? 」
「感じるさ かなり危険な気配だ だから早く突入して弥生と刹那を助けないと 」
八千穂は驚いたように柚希の顔を見る。
「ふふっ、それじゃあ入っちゃいますか 」
今度は柚希が驚いたように八千穂の顔を見るとニッコリと笑った。
「よーし行くぞ、白姫 」
二人は玄関から暗闇の中に足を踏み入れた。そして、その家に入った途端それまでとは違う異質な空気に包まれる。
「これは嫌な感じの空気だな 周り中から体を掴まれているみたいだよ 」
「油断しないでください、玄姫 これはおそらくもうあの家の中ではありませんよ 」
しばらく闇の中を進んでいた八千穂は、後ろを歩く柚希の気配が感じられなくなり振り返る。
・・・柚希が消えた ・・・
何の前触れもなく突然の事態に八千穂が戸惑っていると、遥か先に白い光が見えた。八千穂は、誘蛾灯に誘い込まれる蛾のように、その白い光に吸い寄せられていった。近付いて見ると白い光に見えた物は発光する壁だった。その壁に、突然消えた柚希が張り付けになっていた。そして、刀を構えた”瀬戸大将”が現れ柚希に向かって刀を振り下ろす。
ザシュッ!
柚希の右腕が切断され宙に舞う。
「うわぁぁーーーっ! 」
悲鳴を上げる柚希の左腕も切断される。
「助けてくれ、八千穂っ! 」
両腕を切断され肩口から血を噴出しながら柚希が助けを求める。しかし、”瀬戸大将”は構わず柚希の右足を付け根から切断した。柚希の切断された足の付け根からも血が激しく噴き出す。
「助けて八千穂、早くっ! 」
八千穂は印契を結び、壁に張り付けにされている柚希を見つめる。その間に”瀬戸大将”は残った柚希の左足も切断してしまった。
「うぎゃぁぁーーっ!! 八千穂ーーっ!! 」
四肢を切断され絶叫した柚希は、気絶したのかがっくりと首を項垂れる。その柚希の頭を掴み首に刀を当てた”瀬戸大将”は、容赦なく柚希の首を切断した。柚希の首から噴水のように血が噴き出す。八千穂は……。
なんと八千穂は惨殺された柚希を見て笑っていた。初めは小さな笑い声だったが、だんだんと気が狂ったように笑いだす。目の前で柚希が惨殺され本当に気が狂ってしまったのかと思われたが、八千穂は白姫の力を発動する。
「秋の落日 」
巨大な超高温の火球が現れ発光する壁に落ちていく。火球はバラバラにされた柚希諸とも壁を焼き付くしていった。
「ゴギャァァーーッ!! 」
すると獣のような叫び声が聞こえ、燃え尽きた壁の跡に一体の妖怪が立っていた。ブスブスと全身に火傷を負いながら、その妖怪は八千穂を睨み付ける。類人猿のようなその妖怪は全身の毛が燃え黒くなっていた。
「妖怪”さとり” 人の心を読んだり、精神攻撃が得意な妖怪ですね ただ残念な事に心が全て読めるわけではないようですね それに人の性格までは分からない 」
”さとり”は八千穂に視線を向け、八千穂の心を再び読もうとする。
「なぜ私が分かったか不思議そうな顔してますね それは簡単な事ですよ あなたは柚希の性格をまるで分かっていない 柚希は私に助けてくれなんて絶対に言いません 柚希の性格からしてあり得ない それに柚希は戦闘モードに入ってからは私の事を八千穂とは呼ばない お分かりですか”さとり”さん 」
「ふん どうやら一人仕損じたようだが、お前の相棒はどうかな そんな冷静な奴にはみえないぞ 」
“さとり“は牙を剥き出して威嚇しながら言う。
「無駄ですよ 柚希は目の前で私が殺されても何も思いません 柚希の頭にあるのは妖怪を倒す、それだけですから 」
その途端”さとり”は身を翻すと闇の中に逃走した。八千穂が慌てて駆け出すが”さとり”は深い闇の中に消えてしまっていた。
「もう、私の馬鹿 話なんかしてないでさっさと倒せば良かったのに また栞さんにお仕置きされちゃうよ 」
八千穂は闇の中で一人、ガーンとショックを受けていた。その時、消えた時と同じように突然柚希の姿が現れた。
「ああ、やっぱり無事だったか白姫 」
「あなたも無事で良かったです、玄姫 」
「白姫がバラバラにされてたけど、妖怪を倒さなきゃいけないから、白姫諸とも粉々にしてやったんだよ でも無事ならそれで良かった 」
「まったく玄姫はお構い無しですね でもそれで良いんですよ 青姫と朱姫は優しいですから、おそらく…… 」
「そうだ、早くあいつら探さないと 」
二人はとにかく一旦この空間から脱出しなければと印契を結び真言を唱える。すると空間にヒビが入り始め闇が砕け散った。
* * *
タダユキたち三人は印契を結び光明真言を唱えていた。澪や栞と違い修行の経験のないタダユキであるが、精神を集中する事で頭上に”晴明桔梗”が現れ力を増幅していた。
「オン・アボキャ・ベイロシャノウ・マカボダラ・マニ・ハンドマ・ジンバラ・ハラバリタヤ・ウン 」
三人の唱和した光明真言で辺りの闇が霧が晴れるように薄くなっていく。そして、お互い見えなかった姿もはっきりと確認出来、転がっていた弥生と刹那の体も元に戻り横たわっていた。