23話 邂逅
妖怪出現の報を受け、現地に向かった刹那たち。
そこには百鬼夜行の妖怪が溢れ出ていた。
23話 邂逅
池の畔に刹那が行くと、そこに空間の割れ目が出来、百鬼夜行の妖怪が溢れ出ていた。
・・・これは早く対処しないと、この辺り一帯が危険に晒されてしまうよ ・・・
刹那は獣刀”朱雀”を構えた。出来るだけ多くの妖怪を倒すため十分に妖怪を引き付ける。
「裏蓬莱抜刀”サターン” 」
刹那が獣刀を一閃する。ミニスカートが舞い上がり白い下着が丸見えになる程の腰の回転速度から放たれた環の斬撃は何重にも重なり、百鬼夜行の妖怪の半数以上が消滅した。
「ぬう、さすがは朱姫か どけ、俺が相手をする 」
妖怪の群れの中から一際巨体の妖怪が進み出てきた。
・・・”大座頭”か 怪力のある妖怪だ 掴まれたら危険だけど、私を捕まえる事が出来るかな ・・・
刹那は左右にステップしながら大座頭との間合いを詰めていく。大座頭は公園の巨大な置き石を持ち上げ、刹那に向かって投げつけてきた。しかし、そんな攻撃が刹那にヒットする訳がなかった。刹那は軽々と続けて飛んでくる石をかわし大座頭との間合いに入る。
「裏蓬莱秘剣”マーズ” 」
刹那は剣技を発動しようとしたが、その時視界の端に、百鬼夜行の後ろにいる着物を着た女性の姿が入った。日本人形のような黒髪の小柄な女性。
・・・まさか ・・・
刹那は動揺し、回避不能の突きを繰り出すが大きく外してしまう。
・・・しまった ・・・
その刹那の動揺を見逃さず大座頭は、刹那の足首を掴むとその怪力で持ち上げた。ぶらーんと片手で吊る下げた刹那の腹部に、思い切り拳を打ち込む。しかし、刹那もそれを腕でガードし耐えるとすぐに獣刀を大座頭の顔面に突き入れる。
「ごがぁ 」
大座頭はたまらず刹那を掴んでいた手を放し顔面を覆って退くが、刹那はそのまま地面を踏みしめ間合いを詰める。
「裏蓬莱秘剣”マーズ” 」
今度は確実に決まった。そう刹那は思ったが、なんと大座頭の前に見えない壁があるように刹那の必殺の剣は止められていた。
・・・こ、これは…… 絶対防御か ・・・
刹那は咄嗟に退くが、それが功を奏した。刹那がいた位置に襲いかかってきた者があり、刹那のいた地面が抉られたように粉々に粉砕されていた。そして、その者は顔を上げる。
「弥生っ 」
刹那が叫ぶ。日本人形のような黒髪に着物を着た小柄な人物は、間違いなく西園寺弥生だった。
「弥生、どうしたんだよ? 私がわからないのか 蓬莱刹那だよ 」
刹那が弥生に向かって話しかけるが、弥生は無言で扇子を広げて構える。
「斬舞”伊邪那美” 」
弥生の体が独楽のように高速に回転し刹那に向かってくる。
・・・いけない 弥生の”伊邪那美”は防御不可能だ ・・・
刹那は弥生をギリギリまで引き付けて右に飛ぶ。しかし、弥生も技を発動したまま刹那の後を追ってくる。
・・・弥生の斬舞は溜めがいらない でも私の秘剣は発動まで時間がかかる 今までは弥生が敵を抑えている間に私が力を溜める作戦でやってきたけど、その弥生が敵になるなんて考えた事もなかった ・・・
刹那はなんとか弥生の斬舞から逃れているが、それがいつまで続くか分からなかった。
・・・どうする? かなり不味い状況だよ 青姫の力がないといっても、弥生には”斬舞”と”真言”がある どちらも歴代の中で最上位に近い力を持っている弥生を私は倒す事ができるの これは今まで弥生に頼りきっていた私の自業自得だね ・・・
刹那は自嘲気味に笑うが、現状を打破するためには、まず弥生の斬舞を攻略しなければならなかった。
・・・弥生は妖怪ではなく人間だ 人である以上体力には限界がある 体力なら私も弥生に負けていない 私と弥生、どちらが先に体力が尽きるか 勝負だ、弥生 ・・・
が、刹那は弥生一人と戦っているわけではない。他に百鬼夜行の妖怪がまだ残っているのだ。弥生の攻撃から逃げまくる刹那に大座頭も攻撃を仕掛けてきた。刹那の足元を狙い大石や大木を投げてくる。
「くっ…… 」
バランスを崩した刹那に、弥生が襲いかかる。
・・・駄目だ 避けられない ・・・
弥生の”伊邪那美”がヒットし周囲に血と肉片が飛び散った。
・・・弥生…… ・・・
刹那の眼前に返り血を浴びて血塗れで微笑む弥生がいた。大座頭が弥生の”伊邪那美”で消滅していた。
「弥生っ やっぱり、本物の弥生なんだな ありがとう 」
「何を勘違いしているのですか、刹那 この馬鹿な妖怪が私の攻撃の軌道にいただけの事 あなたは邪魔です、刹那 ここで死んでもらいます 」
「弥生、話せるのか 良かった きっと弥生は洗脳されているんだよ 私と帰ろう 必ず元に戻れるから 」
しかし、弥生はもう口を閉じると飛び上がり、足でも扇子を持つ。
「斬舞”真・遠呂知” 」
青姫の力がないとはいえ、これだけでも強力な弥生の斬舞が炸裂する。刹那はもう逃げる術もなく立ち尽くしていた。
・・・弥生…… 凄い技だな 努力家の弥生はいつも研究して自分の力を高める事に努めていたな そんな弥生に殺されるなら私は本望だよ ・・・
刹那は目を大きく開いて、自分の最後の瞬間まで弥生の姿を見続けようとしていた。少しでも長く弥生の姿を目に焼き付けたい。
・・・弥生、辛い事もあったけど、それでも結構楽しかったよね ・・・
弥生の”遠呂知”を受けてしまえば、体は細かく塵のように切り刻まれ、アイテムで復活する事も叶わないだろう。これが弥生との最後の別れのシーンだ。刹那は立ったまま弥生の姿を見続けた。そして、弥生の”遠呂知”が刹那の体を切り裂こうとした瞬間、今度は弥生の”遠呂知”が見えない壁で遮られた。
ギィーーン!!
凄まじい衝撃音が響き、弥生は後方に飛び退いている。
「間に合った 」
息を切らした柚希の声に続き、八千穂の声も響く。
「四の型”彗星” 」
が、八千穂の攻撃も弥生の前で見えない壁に阻まれる。
「絶対防御の真言っ 弥生さん、いつの間に唱えたの 」
八千穂が驚愕するが、少し遅れて走ってきた明日菜と雛子も弥生の姿を見て驚愕する。
「弥生先輩、どうして? 」
弥生は真っ直ぐに刹那の眼を見ると、次に明日菜と雛子に目を向けた。その時、八千穂が弥生の口許に気がつく。弥生はすでに次の真言の詠唱に入っている。
・・・弥生さんの次の攻撃がくる ・・・
八千穂は明日菜と雛子に向かって大声で叫ぶ。
「もう柚希の唱えた防御の真言は効果が切れる アスナ、ヒナ、あなたたちも弥生さんに防御の真言を習っている筈、すぐに唱えてっ 」
明日菜と雛子はすぐに印契を結び防御の真言を唱えるが、弥生の詠唱はもう終わりそうであった。
・・・早い 今の弥生さんは卯月さんより早いかもしれない ・・・
八千穂は立ち竦んでいる刹那を引っ張り、そのまま後方に遠くに投げ飛ばした。明日菜と雛子の防御が間に合わなくても、せめて刹那だけでも生き残って欲しい。そういう思いからだった。
「……ソワカ 」
弥生の詠唱が終わった。すると、周囲が急に夜になったようにどっぷりと暗くなる。そして、頭上から黒い暗黒の星が光速で落ちてくる。
「何、これ 」
柚希が叫ぶが、八千穂もまったく知らない真言だった。
・・・やはり、弥生さんは私たちの知らない真言を数多く知っている 同じ四姫でも、悔しいけど私とはレベルが違う ・・・
八千穂は迫ってくる暗黒星を見上げながら覚悟を決めた。
・・・もう逃げられない ・・・
そして、暗黒星が八千穂たちを押し潰そうとした時、明日菜と雛子の詠唱が終わった。ダブルで発動した絶対防御の真言で、弥生の放った暗黒星を跳ね返し消滅させる。弥生は、その様子を不気味な笑みを浮かべ、慌てる素振りもみせず眺めていた。
「アスナ、ヒナ なってないですね この状況で間違えずに唱えられたのは合格ですが、詠唱が遅すぎますよ とはいえ、あなたたちと四姫を相手に私一人で戦う程、私は自惚れてはいません ここは残念ですが退かせてもらいます 」
唖然とする八千穂たちの前から弥生は消えるように姿を消した。
ついに敵として現れた弥生。弥生を相手に刹那はどうしても決意が鈍ってしまう。今回は窮地を免れる事が出来たが……。




