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移ろう季節に想いを馳せる君 (BI Second)  作者: とらすけ
第二部 雷鳴の鳴り響く夜
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35話 生け贄


35話 生け贄



 激しい雨の中、雨女を倒すべく力を溜める弥生たちであったが、その周囲から迫ってくる異形の者に気が付いていなかった。始めに気が付いたのは弥生と八千穂だった。


「葉が擦れる音がしませんでしたか? 」


 二人は刹那と柚希に訊くが、二人ともザーザーと激しく降る雨の音で、別に何も聞こえないという。弥生と八千穂も気のせいかと思ったが、突然森の中から河童の群れが襲いかかってきた。背後から襲われた為、受ける事が出来ず攻撃を避ける為、雨の中に飛び出してしまう。雨女は4人に雨を集中させ、その水圧で4人の動きを制限する。4人は地面に押し潰されそうになりながら、辛うじて立って攻撃に備えているが、脚はガクガクと震え、河童の攻撃を避けるのがやっとで、こちらから攻撃を繰り出す余裕がなかった。


「こんな風に連携してくるとは、敵も侮れませんね 」


 河童も雨女も単独であれば、それほどの脅威とはいえなかったが、こうして組まれると手強い相手に相違なかった。雨女の呼ぶ雨の中で河童は力を得て躍動する。そして、河童は4人を狙わず各個撃破を狙い1人に攻撃を集中する。まず、弥生が狙われた。動きが鈍くなりながらも弥生は”流水の動き”で河童の攻撃をかわしていたが、泥に足を取られ動きが止まってしまった瞬間に手脚をそれぞれ河童に押さえ付けられる。


「くっ 」


 弥生が必死に振りほどこうとするが、4体の河童に押さえ付けられては身動きする事が出来なかった。


「弥生っ! 」


 刹那たちが駆けつけようとするが雨女が雨柱を刹那たちに集中し足止めする。


「ぐぅっ 」


 刹那たちは地面に膝をつき動けなくなっていた。雨の水圧がどんどん強くなっていく。


「どういうことだろう? 雨女、一人の力でここまでの水圧なんて有り得ないよ 雨降り小僧と二人の時と変わらないよ 」


「もう1体、何処かに潜んでいるに違いありません 私たちは罠に囚われたようです 」


 膝に手を当て必死に耐える刹那たちを、河童はもう相手にせず弥生の周りを取り囲んでいた。


「いい生け贄になりそうだな 」


 弥生の前に立った河童は、弥生の腹に思い切り拳を叩き込む。弥生の腹に河童の拳が激しくめり込んだ。


「ごばぁぁーー 」


 弥生は涙を流し、口から胃液を吐き出す。


「ほう、これで気絶しないとは生きがよくて嬉しい限りだ 王も喜んでくださる 」


 河童は残酷な笑みを浮かべると、弥生の腹部に続けて拳を叩き込む。2発、3発、4発、5発。


「おばぁぁぁーーー 」


 弥生は血を吐いて、ガックリと気絶してしまう。そして弥生は、そのまま引き摺られ何処かに連れ去られていった。

 刹那たちは、弥生が連れ去られるのを見ながら動くことが出来ず、唇を噛み締めていた。雨柱は一向に弱まる気配がない。刹那たちは完全に足止めされていた。



 * * *



 弥生は暗い洞窟の中に連れてこられていた。周りには夥しい数の河童の姿がある。その中心に一回り大きな河童の姿があった。弥生は、その王の前に転がされ、頬を叩かれ覚醒させられる。気が付いた弥生は、目の前の河童の姿に体が震えてきていた。


・・・こいつが河童の王なのですか ・・・


 見た目も大きく、その雰囲気も他の河童とは一線を画する凄みがある。


・・・これは十鬼神並の力があるように感じます、かなり危険な河童です ・・・


 弥生はなんとか突破口を開こうとするが、両腕は罪人のように背中にまわされ高手小手にきつく縛られてしまっている。脚は動きそうだが、周囲は河童の群れで埋め尽くされていた。


・・・これは逃げるのは難しいですね かと言って私一人で戦って勝てるとは思えません ・・・


 弥生は敵の隙をつき、とにかく何処かに身を隠し腕の拘束を解くのが先決だと考えた。


「なかなか精悍な面構えの人間ではないか この人間からは良い尻子玉が取れそうだ 」


 河童の王”千餮王”は弥生の顔を見て満足そうに嘴のような口を開けて笑う。周囲の河童も王に合わせて一様に笑いだした。洞窟の中に河童の笑い声が木霊する。


「ギョゲゲゲゲッ 」


 耳障りな笑い声だったが、チャンスとばかりに弥生は小さな声で真言を唱えていた。印契を結べない為、効果は落ちるが、河童たちに気付かれずに自分の身体能力を多少強化出来る。


・・・よし、後はあの王の目が私から離れた時…… ・・・


 弥生は”千餮王”の様子を見ながら自分の体を確認する。真言のおかげで体に力が湧いている。これなら、あの岩の陰に隠れると見せかけて上部にある窪みに身を隠す事が出来るだろう。そして、両腕の拘束さえ解いてしまえば印契も結べるし、呪符も使える。つまり、やれる事の選択肢が増えてくる。


・・・いまだっ! ・・・


 ”千餮王”の目が自分から離れた瞬間、弥生は立ち上がり駆け出した。まさか弥生にそんな力が残っているとは思っていなかった河童は弥生を見失い右往左往している。弥生は岩陰に身を隠すと見せかけて、その手前で大きくジャンプし窪みに転がり込もうとした。ここまでは弥生の計画通りだったが、”千餮王”の力は弥生の予想を超えていた。窪みに転がり込み、やったと思った弥生の体を”千餮王”の伸びる腕がガシッと掴む。


「あうううぅぅ 」


 呻き声をあげながら弥生は元の場所に引き戻されていた。


「なかなか生きがいい生け贄だ 尻子玉は恐怖と苦痛でも成長する くくくっ、この生け贄を痛め付けろ 極上の尻子玉が味わえそうだ 」


 ”千餮王”の命令で弥生を拷問する準備が整えられていく。


「これは日本で昔行われていた拷問だ まずこれでお前を痛め付けてやろう 」


 弥生は腕の拘束を解かれると衣服を剥ぎ取られていく。弥生は必死に抵抗するが全て剥ぎ取られ全裸にされてしまう。そして、うつ伏せに押さえつけられると背中で両手首をまとめて縛り付けられた。さらに両足首もまとめて縛り付けられる。


「くくく、人間のいう江戸時代の拷問、“駿河問い“だ 苦しむがいい 」


 弥生は縛られた両手首と両足首をさらに1ヵ所にまとめて背中側で縛りあげられる。弥生の身体が海老のように反りかえった。これだけでも苦しい体制であるが弥生はそのまま吊り上げられていく。


「うぎゃぁぁぁ 」


 弥生は両手足を一点にまとめられたまま吊り上げられて骨がギシギシと軋んでいる。


「い、痛いぃぃ 苦しいですぅ 」


 しかし”千餮王”は楽しそうに苦しむ弥生の姿を眺めていた。


「よし、錘を付けてやれ たっぷりとな 」


 弥生の腰にロープが巻かれ巨大な石が吊り下げられた。弥生の身体が石の重量で、さらに反りかえる。


「うぎゃぁぁぁ 痛いぃぃ 折れるぅぅ 助けてぇぇぇ 」


 弥生の背骨が折れそうな程反り返るが、さらに石が吊り下げられる。2個、3個。弥生の顔は涙と鼻水でぐっしょりと汚れていた。


「ここからが、この拷問の恐ろしいところだ 回せっ 」


 ”千餮王”の命令で吊るされている弥生の身体が、クルクルと回されていく。そして、手を放されると弥生の身体は独楽のように高速で回転を始めた。遠心力で血流が弥生の頭に集中し、弥生の顔が赤くなってくる。


「あぼぼぼぼぼぼ 」


 弥生は真っ赤な顔で意味不明の言葉を発し苦しんでいるが、”千餮王”はさらに回せと命令する。回転の止まった弥生はまたネジを巻くようにクルクルと回され手を放された。さらに高速に回転する弥生。


「あばぁぁぁぁぁ 」


ブッシャーーー!!


 絶叫する弥生の口から血が噴き出した。口だけではない。目や鼻、耳からも遠心力で血管が破裂し血が流れ出していた。


「よし、もっと錘を付けて回し続けろ 」


 弥生に対する拷問は、まだ始まったばかりであった。


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