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移ろう季節に想いを馳せる君 (BI Second)  作者: とらすけ
第一部 夜の帳が下りる刻
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6話 探索


6話 探索



 意識が戻った女の子から、その前にあの住居に忍び込んでいた男の子たちがいた事を聞き、弥生と刹那は再びあの怪しげな住居に引き返していた。天井裏や床下等も残さず調べてまわったが、男の子たちの姿はない。


「やっぱり見当たらないね 何処かに連れ去られてしまったか、あるいは…… 」


「それにしても何の気配も痕跡もないのは困りましたね 」


「何にしても急がないと心配だよ 」


「タダユキさんたちにも他の怪しげな場所を探してもらっていますけど手が足りませんね 」


 そこへ、家の外、庭の方で話し声が聞こえた。弥生と刹那が外に出てみると、制服を着た警察官が二人、懐中電灯を手に庭を照らしていた。年配の警察官と若い警察官だ。


「西園寺さんと蓬莱さんですか? 」


 二人に気付いた警察官が声をかける。二人が、そうですと答えると、ご苦労様ですと近付いてきた。


「子供が行方不明という連絡を受けて来ました ここは私たちが調べますので、お二人は休んでいて下さい 」


 弥生たちとあまり変わらない年に見える若い警察官が微笑んで言う。


「いや、でもここはかなり危険です それに私たちが一通り探してみましたが何もありませんでした 」


「まあ任せて下さい 我々もプロですから 」


 年配の警察官が答え、警察官の二人は懐中電灯を手に玄関から暗闇の中に入って行った。


「大丈夫かな 」


 刹那が心配そうに言うが、弥生は何を考えているのか玄関の闇をじっと見つめていた。


・・・なんだろう、何か違和感を感じるけど ・・・


 弥生は胸の中に不安の塊が出来たようで、すっきりしなかった。


・・・お巡りさん、強引に引き留めた方が良かったかな? ・・・


 弥生は、いてもたっても居られなくなり刹那の腕を掴むと玄関から暗闇の中に飛び込んだ。


「どうしたんだよ、弥生? 」


「何か嫌な予感がするんです 急いでお巡りさんと合流しましょう 」


 弥生たちは警察官を探しながら家の中を見ていくが、彼ら二人の姿も見当たらない。そして、気が付くといつの間にか刹那の姿も消えていた。


「朱姫? 何処ですか? 」


 弥生が呼び掛けるが刹那からの返事はない。辺りは静まり返り、弥生が歩く時にギシギシと鳴る床の軋む音がやけに大きく聞こえる。闇も更に深くなったようでライトの光が照らしている以外の場所は漆黒に塗り潰され何があるのかまるで分からなかった。


・・・おかしいです 明らかに闇が濃くなっています ・・・


 弥生は慎重に進んでいくが、いくら進んでも玄関の奥、リビングの壁に行き当たらない。


・・・こんな広い空間はなかった筈なのに 敵の罠にかかってしまったのかも知れないですね ・・・


 弥生が振り向いて後方をライトで照らしてみても、すでに玄関から見える筈の外の灯りは見えなくなっていた。弥生の目には、ただ暗闇が広がっている空間に自分一人だけが取り残されているという認識だった。


・・・やっぱり、これは何かのトラップですね とにかく落ち着いて出口を探さないといけませんね ・・・


 留まっていても仕方がない。しかし、闇雲に動いても出口が見つかるとは思えなかった。弥生は印契を結び真言を唱える。


・・・これが妖怪の仕業ならば、これで何らかのアクションがある筈です ・・・


 弥生が真言を唱えていると、遥か先にポツリと小さな光が見えた。弥生は周囲に注意を払いながら、その光に向かって走り出す。だんだんと光が大きくなってきた。そして、光だと思っていたものは発光する一枚の大きな壁だった。その壁に何かが張り付けにされている。


「刹那っ!!! 」


 壁に大の字に張り付けにされていたのは刹那だった。弥生が呼び掛けても刹那は微動だにしない。がっくりと首をうなだれ意識を失っているようだった。


「大丈夫ですか、刹那? 返事をして下さい 」


 弥生は刹那に近付こうとするが、発光する壁から何か得体の知れないものが、ずるずると這い出してきた。そして、それは藍染めの縞模様の着物を着た”白坊主(しろぼうず)”の姿になっていく。


「ほーい、ほーい 」


 顔も何もないつるりとした頭で”白坊主”が何かに向かって呼び掛ける。弥生は両手に扇子を広げ戦闘態勢をとるが、”白坊主”は襲ってくる様子もなく壁の前に佇んでいた。


「ほーい、ほーい 」


 ”白坊主”がまた何かに向かって呼び掛ける。すると、今度は弥生の背後からパタパタという音が聞こえてくる。


パタパタ、パタパタ、パタパタ


 だんだんと近付いてくる音に弥生は”白坊主”に注意を払いながら振り向くが、弥生の背後には闇が広がるばかりで何の姿もなかった。しかし、弥生がまた”白坊主”に向かおうとすると、背後から音が追ってくる。


パタパタ、パタパタ、パタパタ、パタパタ


 弥生は前を見据えたまま背後に扇子を投げ、闇を切り裂くが手応えはなく音がどんどんと迫ってきた。


パタパタ、パタパタ、パタパタ、パタパタ、パタパタ、パタパタ


 真言を唱えている時間はない。弥生は正体が分からない背後の敵より、まず前面の”白坊主”を倒す為ダッシュした。しかし、弥生は何者かに足を掴まれ転倒してしまう。


・・・”頬撫で(ほおなで)” ・・・


 弥生の足を無数の白い手が掴んでいた。


「消えなさいっ!! 」


 弥生は扇子で”頬撫で”を切り裂いていくが、無数に現れる”頬撫で”は次々に弥生の足を押さえつけ、弥生の動きを封じてしまう。そして、発光する壁から、もう一体の妖怪の姿が現れた。瀬戸物の徳利の頭に戦国武者のように鎧を着た”瀬戸大将”だった。”瀬戸大将(せとたいしょう)”は刀を抜き、張り付けにされている刹那に向かって構える。そして、容赦なくその振り上げた刀を振り下ろした。


ズバァ!!!


 刹那の右腕が肩口から切断され血が噴き出した。


「あ、あぁぁぁーーっ!! 」


 激痛に意識が戻った刹那が絶叫する。しかし、”瀬戸大将”はさらに二撃目を振り下ろした。


ズバァ!!!


 今度は刹那の左腕が肩口から切断され、血を噴き出しながら宙を舞う。


「刹那ぁぁーーっ!!! 」


 弥生の悲鳴が闇の中に響き渡った。




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