表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
移ろう季節に想いを馳せる君 (BI Second)  作者: とらすけ
第二部 雷鳴の鳴り響く夜
41/140

7話 命の雫


7話 命の雫



 (いにしえ)の検非違使庁から派生した魍魎討伐機関本部で弥生、刹那、柚希は並んで頭を下げていた。


「お願いします、如月様 もう一度”命の雫”を使わせて下さい 護国八千穂は私たちにとって大切な仲間なのです 」


 弥生に如月と呼ばれた女性は厳しい顔をして答える。彼女が現在の魍魎討伐機関の守護職、つまり最高責任者であった。


「もう、護国八千穂は一般人ではありませんか その護国に貴重なアイテム“命の雫“を使用する事を認めてしまうと、それを知った同じ一般の方との間に軋轢を生む事になります 」


 弥生たちは九尾から手に入れたアイテム”命の雫”を本部に提出していた。無限に使用できる訳ではなく、その量には限りがある為、有効にかつ公正に使用するにはしっかりした所で管理する必要があると判断した為だった。それにこのアイテム自体が人間同士の紛争の火種にもなりかねない。死んだ人間を生き返らせる貴重で重要なアイテムであると云える為、厳重に保管できる場所も必要であったのだ。


「お願いします 護国のこれまでの功績を考慮して許可して頂けませんか 彼女の働きが素晴らしいものであるのは如月様もご存知の筈です 」


 刹那も如月に深く頭を下げる。


「あなたたちの気持ちは分かります ですが個人的な願いに答える訳にはいきません それに私は死ぬ事が終わりだとは思っておりません むしろ死なない事の方が問題だと思っております 」


「如月様、私も同感です 人間は死ぬから、その有限な時間に何かを成し遂げようとするのだと思います しかし、理不尽な暴力によって殺された場合はどうでしょうか その人間が生きていれば、より良く未来が変わるかもしれません 」


「そうですね しかし、それを言ってしまったら妖怪に殺された人間は数多くいます 公平を期すなら、これから殺された全ての人間を復活させねばなりません ご存じのように、それだけの量は残っておりませんよ 」


 弥生は必死に食い下がるが如月は首を縦に振らなかった。


「何度も言うようですが個人的な頼みに答える訳にはまいりません 私も個人としては非常に残念ですが諦めてください 」


 弥生たちは俯いて如月の前から退去してきた。


「如月様は冷たいよ 八千穂が今までどれだけ頑張っていたのか分からないんだ 八千穂がいたから助かった事だって何度もあるよ だいたい八千穂は白姫だったから狙われたんだ それを見放すなんて 」


 柚希が憤慨して大声で叫ぶ。


「如月様にアイテムを託さないで、私たちで隠し持っていた方が良かったかな 」


 刹那も、ついぼやいていた。


「違いますよ、二人とも 如月様はそんな人ではありません 」


 弥生は卯月と並んで如月の事も尊敬していた。如月は、卯月の前の青姫だ。卯月の実力が自分より遥かに優れている事に気付き、早々に卯月に青姫の座を譲った。正確に他人の力を見極め、それを認め評価出来る人間だった。当然、現場の事も誰よりもよく知っている。だから、弥生は如月に”命の雫”を託したのだ。弥生は如月の事を考えながら卯月の言葉を思い出していた。

 先代は少し口煩いですから弥生ちゃんも気を付けて下さいよ。でも間違った事は言いませんから、本当に自分の事など考えずに客観的に物事を考えられる方です。必要なものは必要ときちんと判断できる方です。私は尊敬していますよ。

 卯月の言葉を思い出した弥生は、ハッと気付く。


「そうだ 八千穂にまた白姫に戻ってもらいましょう それを前提にすれば如月様は”命の雫”を使わせてくれる筈です 」


「どうして? それに八千穂はもう戻らないと思うよ 」


 柚希が意味が分からないという顔で弥生を見つめる。


「如月様は個人的な願いには答えられないと言いました だから私も弥生としてではなく青姫として、そして朱姫、玄姫の3人が八千穂ではなく白姫を復活させると提案するのです 白姫の八千穂なら、如月様も絶対必要だと思ってくれる筈です 」


「そうか 一般人ではない白姫なら問題ないんだね さすが弥生さん でも八千穂がまた白姫に戻ってくれるか それが心配だよ 」


 柚希は、もう八千穂は二度と戦いの中には戻らないだろうと思っていた。二度も残酷に殺されてしまっては、さらに戻りたくなくなっただろう。柚希は折角いいアイデアを弥生が考えてくれたのにと悔しさで涙ぐんでいた。


「柚希 私が預けた物は八千穂に渡しましたか? 」


「えっ あっそうだ、すっかり忘れていました 私がまだ持っていますよ あれは何ですか? 」


 弥生はニコリと微笑む。


「それなら、少し可能性があるかもしれません あれは栞さんが八千穂のために用意していた物 もちろん八千穂の気持ち次第ですが 」


 弥生は声を潜めると、明日如月様にもう一度四姫として欠けている白姫を甦らせたいとお願いしましょうと持ちかける。


「大丈夫か、弥生 もし生き返らせてから八千穂が白姫に戻る事を渋ったら、私たちは如月様を騙して貴重なアイテムを使用した事になるぞ 」


「そうですね、そうなったら私が責任をとって除名処分を受けますよ 」


 除名。それはただ単に青姫の名を剥奪されるだけでなく、今までの記憶も全て消されてしまう。除名になれば弥生は、刹那は勿論、卯月やタダユキの記憶も消え去り忘れてしまうのだ。弥生の卯月に対する思いを知っている刹那は、そんなことになったら弥生は弥生でなくなってしまうと考え弥生を諌めようとするが、その前に柚希が声を上げていた。


「弥生さん、待ってください それなら私が責任をとりますよ あの時私が八千穂に着いていってあげればこんな事にはならなかったんだし 私が記憶を失くしても、八千穂が生き返るならそれでいいです 」


 柚希は真剣な表情で言うが、弥生は柚希の頭を優しく撫でる。


「柚希に責任をとってもらう訳にはいきませんね それに柚希に預けたものと、もう1つあれがあれば八千穂の気持ちも変わるかもしれません 私はそこに賭けてみます 刹那、それを探しに行きますよ 」


「わ、私? 」


「刹那が、おそらく一番、澪さんの性格を知っていますからね 」


 弥生の言葉の意味が分からなかったが、刹那は弥生に何か考えがあるのだろうと、分かったと大きく頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ