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移ろう季節に想いを馳せる君 (BI Second)  作者: とらすけ
第一部 夜の帳が下りる刻
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2話 回想


2話 回想



 女の子はお化け屋敷の前で再び男の子たちに電話をかけてみたが、やはり繋がらなかった。呼び出している音は聴こえるのに誰も出てくれない。女の子の不安が大きくなる。


・・・どうしよう やっぱり、怒られても大人の人呼んだ方が良いよね ・・・


 女の子が決心し、親よりも先生に言った方が良いかなと電話をかけようとした時、ゾクッとした寒気がはしり体が動かなくなっていた。自転車の籠の中にいた黒猫が、シャーッと唸り声をあげる。


・・・嫌だ、怖い ・・・


 女の子が金縛りにあったように動けず玄関の暗闇を見つめていると、その暗闇の奥から、その暗闇より更にもっと漆黒の影が現れニュゥと手を伸ばしてくる。


「ひっ 」


 女の子が小さく悲鳴を上げた時、女の子を守るように黒猫が籠から飛び出し伸びてくる黒い手に鋭い爪で一撃を浴びせた。そして、黒猫の尻尾が三本に分かれ身体も大きくなっていく。


「ク、クロちゃん? 」


 女の子は変身した黒猫に驚いたが、黒猫が自分を守ってくれている事に感謝した。


「クロちゃん、頑張って 」


 黒猫の激しい攻撃で、伸びてきた黒い手はいったん玄関に引っ込んだが次に出てきた時には五本に増えていた。しかし、それでも黒猫は素早い動きで女の子に黒い手を近付けさせない。

 そんな攻防が続いている時に、女の子の背後にいつの間にか人影が立っていた。目の前の戦いに気を奪われていた女の子は最初気付かずにいたが、ふと後ろに人の気配を感じ、誰?と問いかけた。すると耳元で同じように、誰?と言う声が聞こえヌッと目の前に顔が現れる。その顔は、目も鼻も口もないツルリとした顔で、そののっぺりした顔に髪の毛が付いた”ずんべら坊”と呼ばれる妖怪だった。女の子はその顔を見た瞬間、恐怖で気絶してしまい地面に崩れ落ちてしまった。

 黒猫は女の子が倒れてしまった気配に気付き、女の子の元に戻ろうとした一瞬の隙をつかれ、庭の柿の木から突如現れた”タンコロリン”という大入道の妖怪に踏みつけられてしまう。


「フギャッ 」


 大入道は何度も黒猫を踏みつけ、その間に玄関から伸びた黒い手が倒れた女の子をズルズルと引き摺っていく。そして、女の子は暗い闇の中に吸い込まれていった。

 大入道から、辛うじて逃れた黒猫は足を引き摺りながら公園に向かって走っていた。



 * * *



 弥生と刹那の二人は、森の中で妖怪”首かじり”を倒した後、公園に向かって歩いていた。


「さっきの踵落とし、凄かったよ 弥生も、もう卯月さんと変わらないんじゃない 」


「刹那、先輩の踵落としの威力はこんなものではありませんよ 」


「でもあれだけ威力があれば十分合格点でしょう ようやく弥生も羞恥心を忘れる事が出来たわけだ 」


「何いってるんですか、恥ずかしいですよ こんな短いスカートで足を上げるの 」


「でも、着物やめて、セーラー服で戦うって言い出したの弥生じゃない 」


「それは先輩がこのセーラー服で戦っていたからです 私は先輩の後を継いだのですから同じ服装で戦うのは当然でしょう 」


「いや、別に同じじゃなくてもいいと思うけど だって澪さんたちが、それまでの着物からセーラー服に変えたわけだし 」


「いいんですよ 私は先輩と同じ格好で戦いたいんです 」


 まったく弥生の卯月さんに対する傾倒は宗教に近いものがあるなと刹那は心の中で思うが口には出さなかった。でも、こうして弥生が戦えるようになって良かったと刹那は思う。

 卯月が崇徳上皇を倒すために最終奥義を発動し亡くなったと伝えられた時の弥生は、見ているのも気の毒だった。身体中から生気が失われたように崩れ落ち、そのまま声も出せずに泣いていた。何時までも動けない弥生を、異界から戻ってこれた澪さんたちと卯月さんの彼氏の男性が背負って運んでいったんだよな。刹那はその時の事を今でも鮮明に覚えている。それからも弥生は、まるで死んでいるかのような屍状態だったが、あの男性の一言が弥生を甦らせた。


「卯月さんが君を見ている目は本当に嬉しそうだった よく君の事を自慢気に話してくれたよ だから君にも早く立ち直って欲しい 卯月さんは君を信じていたんだからね 」


 それで弥生は立ち直った。いや、以前よりも心身共に更に強くなった気がする。刹那は隣を歩く弥生を見つめる。青姫と朱姫のコンビとしてこれから戦っていく盟友として弥生は申し分なかった。自分の方が弥生の足手まといにならないようにしなければと気持ちを引き締めながら隣を歩いていた。


 公園に着いた二人は並んでベンチに腰を降ろす。ここで卯月たちと話していた事がつい昨日のように思い出され、弥生はプルプルと首を振った。


「今夜は澪さんたち撮影に来ていないんだね 」


 刹那がポツリと呟く。弥生に遠慮して隠しているが、刹那の澪を慕う気持ちも相当なものだった。この公園でダンス動画を撮影中、みんなに大声で指示を出す元気な澪を見ていると、それだけで嬉しく幸せな気分になるが、卯月を失った弥生の気持ちを考えると、それを素直に出せないでいた。あの異界での戦いでは、卯月の他に玄姫である柊佳も亡くなり、白姫・栞は片腕を失っていた。


「弥生は死ぬの怖くないの? 」


 ふと刹那は思い付いて訊いてみた。


「怖いに決まってるじゃないですか 先輩だって怖いって言ってましたよ でも私たちには戦う力がある 力がない人はもっと怖いんだから私たちが守ってあげなければね、とも言っていました 私も先輩の教えを守り抜きますよ 」


 刹那は、まったく弥生らしいと微笑んだ。


「そうだ、今度、落花星人こと大嶽丸さんにきちんと紹介してもらおうよ 私たち、まだ顔合わせたくらいでちゃんと話したことないし 」


 刹那がことさら明るく言うが、弥生は顔を曇らせた。


「私は少し苦手だな いい人だとは思うけど 先輩を痛め付けた鬼だと思うとどうしても…… 」


「ごめんね 別に深い意味はないから忘れて 」


 気まずい雰囲気に包まれ二人の間で言葉が途切れた時、公園の植え込みの影から黒猫がよろよろと歩いて来て芝生の上で倒れた。


「クロちゃん? 」


「クロッ? 」


 ベンチに座っていた二人が同時に声を上げ黒猫に駆け寄った。




 

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