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移ろう季節に想いを馳せる君 (BI Second)  作者: とらすけ
第一部 夜の帳が下りる刻
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18話 神話の妖怪


18話 神話の妖怪



 林を抜けて調整池の周囲をまわる遊歩道に出た八千穂と柚希は、暗い水面を見渡した。生暖かい風が吹き水面には小さな波が立っているが、静かな池で特に不審なものは感じられない。


「おーい、おーい 」


 が、どこからか二人を呼ぶ声が聞こえる。


「明らかに怪しいな しかもこの声、直接頭の中に響いてくる感じだよ 」


「子供たちの話では、呼ぶ声に振り向くと池に喰われてしまうと言ってましたね だから振り向かないで逃げようとしたと 」


「だったら振り向けばあちらから正体を現すわけだな ちょうどいいね 」


 柚希は、ふふんと鼻で笑うと今度呼ばれたら振り向いてみるから戦闘準備を整えておいてくれと八千穂に伝える。八千穂は頷くとビー玉を手にし、何時でも撃ちだせるように身構えた。


「おーい、おーい 」


 再び声が聞こえた。打ち合わせ通り柚希と八千穂が振り向くと、いきなり目の前に巨大なワニのような口が開いていた。鋭い牙の生えた口が、二人を一口で飲み込もうとしている。


「うわっ 」


 八千穂と柚希は間一髪咄嗟に横に飛び退くが、大きく体勢を崩し地面に転がった。襲ってきた妖怪を横目で確認すると、巨大な蛇の胴体にワニのような頭が付いた怪物だった。


「なんだこれは? 白姫 」


「分かりません 水から出てくるようなので水生の妖怪であるのは間違いないと思いますが 妖怪に詳しい青姫さんなら特定出来ると思います 」


「まあどんな妖怪だろうと関係ないか 人に害を成すなら倒すだけだね 」


 軽口を叩く柚希だったが、この蛇の化け物の動きは意外に素早く、その巨大な口としなやかな尻尾で二人を翻弄する。噛みつきにきたかと思うと尻尾を鞭のように振り攻撃してくる。


「巨体の割には動きが早いね 印契を結ぶのも真言を唱える時間もないよ 」


「私がこいつの相手をしますから玄姫は下がって真言を唱える準備をしてください 」


 その時、池の中からザバァと水飛沫を上げ何かが出てきた。人間のような姿であるが、水の上に立っている時点で人間とは思えない。しかも、その歩き方がまるで人のものとは思えなかった。ユラユラと真っ直ぐに歩けないような足取りで進んでくる。八千穂と柚希は、ワニの頭を持った蛇の攻撃をかわしながら、この得体の知れない妖怪にも細心の注意を払っていた。

 その妖怪が近付いてくると、妖怪の顔は溶けたようにぬっぺりとして表情がなく、腕の先には手がなく、足も足首から下がなかった。その為に歩き方がおかしいのだと思われた。


「なんだ、こいつ? 」


 柚希は思わず口にするが、その外見とは裏腹に何か底知れぬ恐ろしさを感じていた。それは、あの九尾とはまた違った恐ろしさであった。


・・・何か嫌な予感がする 一旦退いた方が良いのかも ・・・


 八千穂は、ゾッとする寒気に襲われていた。



 * * *



 弥生は、扇子を回し春の力を発動する。弥生の力で突然突風が巻き起こり”二口女”の動きを封じる。そこへ、刹那が斬りかかった。


ザンッ!!


 二人の連携技の前に、一太刀で”二口女”は崩れ落ちた。そこへ弥生が真言を唱え止めをさす。”二口女”は煙りとなり消えていった。二人は子供たちの方に戻ると、八千穂と柚希の姿が見えない事に不審を抱く。


「君たち、私たちと色違いの同じ格好をした人が二人居たと思うけど、何処に行ったか知ってるかい? 」


「ビー玉のお姉さん達は調整池の方へ向かいました あっちが本命か、なんて言ってましたよ 」


 トシユキが答える。


「そう、ありがとう 君たちには念のためこの呪符を渡しておきます でもあまり危険な事をしてはいけませんよ まわりの人やお家の方に心配かけるのは良くないですからね それでは早く気を付けてお帰りなさい 」


「ごめんなさい 私たち、もうこんな事しませんから でもお姉さん達、また会ってくれますか? 」


 チフミの言葉に二人は大きく頷いて駆け出そうとしたが、トミジが叫ぶ。


「そっちの道路行くより、この林、突っ切った方が早いですよ 」


 二人は、成る程と林に入り全力で走り出す。そして、林を抜けたとき目に入ったのは倒れている八千穂と柚希に襲いかかろうとしているワニ頭の巨大な蛇だった。八千穂と柚希は、意識がないのかピクリとも動かない。何が起こったのか衣服もボロボロで下着や肌が露出してしまっている。


「いけないっ! 斬舞”月詠(つくよみ)” 」


 弥生は両手の扇子を蛇の妖怪に向かって飛ばす。扇子は月のように仄かに発光しながらくるくると回転しながら飛んでいき、二人を喰らおうとしていた蛇の妖怪に斬りかかる。が、蛇の妖怪も素早い動きで飛んできた扇子を寸前でかわす。そこへ刹那が斬りかかった。一瞬で蛇の妖怪との間合いに入り剣技を繰り出す。


「夢想剣”百舌鳥(もず)” 」


 避ける事は不可能な光速の突きが蛇の妖怪の胴体に突き刺さる。が、その瞬間蛇の妖怪の体が水になりザバァと崩れ落ちた。そして、また池の中から同じ姿のワニ頭の蛇が現れる。


「”ミヅチ”!! この妖怪は神話の時代から生き続けている水の妖怪です 日本書紀に記述があるように毒も使いますから、朱姫、気を付けて 」


 弥生の叫びに刹那は途方にくれる。


「青姫 そんな神話級の妖怪、どうすれば倒せるんだよ? 」


「朱姫 柚希ならこう言うでしょうね こんな水の妖怪より私の力の方が上だと 朱姫、あなたの力なら”ミヅチ”の体ごと蒸発させられる筈です 」


「はっ、確かに柚希ならそう言うだろうね でも、その柚希が倒されているのは? 」


「あれは他の妖怪にやられたのでしょう この短時間にあの二人が”ミヅチ”1体にやられたとは考えにくいです おそらくまだ他の妖怪が潜んでいる可能性が高いです 」


「おーい、おーい 」


 その時突然、二人を呼ぶ声が聞こえる。


「どうやら、来ますよ あの二人を倒した妖怪です 慎重にいきましょう 」


 調整池の暗い水面に人影が立ち、ヨロヨロと弥生たちに向かって歩いてきていた。そして、だんだんと近付いて来る。その姿を見た弥生が驚愕する。


「朱姫っ!! 早く白姫と玄姫を 退きますよ 」


 弥生は素早く真言を唱え結界を張り”ミヅチ”の攻撃を防ぐ。正確に真言を唱える速度が、師である卯月なみのスピードである弥生ならではの技であった。刹那は二人を抱えて退いてくる。弥生が白姫を背負うと、刹那も玄姫を背負い、二人は林の中に飛び込んで一目散に逃げ出した。




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