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移ろう季節に想いを馳せる君 (BI Second)  作者: とらすけ
第三部 冷たい風が吹く黎明に
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68話 集結

破壊神シヴァと対峙する弥生と刹那の元に仲間たちが集まってくる。

そこには甲斐英弥の姿もあった。



68話 集結



 弥生と刹那は破壊神シヴァを見つめる。蒼白い肌をしたシヴァは首から菩提樹の数珠を幾つもつけ瞑想しているように見える。弥生や刹那の存在などまるで気にしていないようであった。


「弥生、私が先にいく 必ず倒すから安心してよ 」


「何を言っているのですか、刹那 私はあなたを守る為に神の力を手に入れたのです 私が先にいきます 」


「神の力ね 凄いよ、弥生 でも、それを使ったらどうなるの 卯月先輩は女神ラクシュミーの力を手に入れて、どうなったの 神の力を行使して人間が無事でいられる訳がない その後には何も残らない そうだよね、弥生 弥生が私の為に消えるなんて許せない 弥生がいない世界に私一人が残っても私はもう生きていけない 私の為に、あんな酷い目にあっていた弥生には生きて欲しい だから私がいく これは弥生になんと言われようと譲れないよ 弥生が私の事を想ってくれている気持ちと、私が弥生の事を想っている気持ち どちらが上かなんて関係ないと思う だから、今度は私が先に行く番だよ それに弥生は、私がこの技を使う時は最後の敵にしてくれと言っていたよね 今がその時だと私は思う 」


「……刹那 」


弥生は言葉がなかった。刹那の気持ちが痛いほどよく分かる。もし自分が一人残されたら平気でいられるだろうか。考えただけで胸が痛くなってくる。


「刹那、分かりました お願いします でも刹那、私は不完全とはいえ神の力を手に入れました 長くは生きられないでしょう だから、少しの間、私がいくまで待っていて下さいね 」


「そうなの なら、その残った時間は自分の為に思い切り使って欲しい 思い切り楽しんで私に、その楽しんだ事を話してくれると嬉しいな 」


 刹那は弥生に握手を求めると、ぎゅっとその手を握りしめた。その時、弥生と刹那を呼ぶ声が聞こえた。


「弥生さーんっ 」


「刹那さんっ 」


「西園寺さぁーんっ 」


 それは、八千穂や柚希、明日菜に雛子、それに英弥や瑞穂、大嶽丸やクロたちであった。


「西園寺さん、道々伊集院さんから聞きました 僕を使って最後のピースを手に入れて下さい 」


「弥生先輩、私たち遠くまで離れていますから、彼と…… そのう…… エ、エッチして下さい 」


 英弥に続き、明日菜も大声で叫んでいた。弥生と刹那は顔を見合わせると、やっぱり明日菜は、と苦笑いしていた。


「甲斐さん、明日菜は勘違いしています 最後のピースは私が男性の命を吸い取るという事ですよ つまり、私が甲斐さんを殺すという意味です 」


「分かっていますよ 西園寺さんは責任感があり、自己犠牲が出来る女性だ エッチで済むなら、ためらったりしませんよね でも西園寺さんは僕の前から姿を消した それは僕の命を奪う事が出来なかったからですね 西園寺さんは、自分以外の人を犠牲に出来ない 僕には分かっています だから、敢えて言います 僕を殺して世界を救って下さい 」


 弥生は驚いたように英弥を見ていた。明日菜はその弥生と英弥の顔を交互に見比べ自分の早とちりを恥じていた。


・・・私より甲斐さんの方が弥生先輩の事を遥かによくわかっている ・・・


 明日菜は弥生をよくわかっているつもりだっただけにショックは大きかった。その時、瑞穂も英弥の決意に驚いて目を見開いていた。


・・・甲斐くん、あなたはそこまで西園寺さんの事を…… ・・・


 瑞穂は思い出していた。あの廃レストランで弥生に初めて会った時から、英弥の心には弥生が住み着いていたのだろう。この月にまで来るほど真剣な思いなのだ。瑞穂は羨ましかった。自分には、ここまで真剣になれるものがあるだろうか。自分の命をも捨てられる程のものが……。


「もう、明日菜にはやられたね 弥生さんの生エッチが観られると思ったのに 」


 能天気な発言をする柚希には八千穂のげんこつが飛んでいた。


「大丈夫ですよ、甲斐さん 私がシヴァを倒します 甲斐さんには、弥生と一緒に普通に毎日を楽しんで貰いたい 」


 刹那が胸を叩いて印契を結ぶ。


「ヒナ、刹那さん、ブラ着けるようになったんだね 」


 こんな時なのについ明日菜は刹那の胸を見てしまっていた。刹那の胸はいつも存在を主張していたポッチリが無くなっている。伊東と沖田は口を開けて残念という顔をしていたが、刹那がやろうとしている事が分かる雛子はそれどころではないと、ぶるぶる震えていた。


「刹那さぁーん、止めて下さい 私はまだ刹那さんに指導して貰いたい事がたくさんあります だから私を一人にしないで下さいっ 」


 雛子が絶叫するが、刹那は獣刀の力を解放する。


「獣刀”朱雀” 」


 ドーンと天を向けた獣刀”朱雀”から激しい火柱が上がり、幾千もの朱雀が周囲を旋回する。


「もう、止めて下さいっ 刹那さぁーんっ 」


 叫び続ける雛子に大嶽丸が声をかける。


「無駄だ、早乙女 刹那はもう自分の道を決めてしまった だから、よく見ておけ早乙女 お前の師匠、刹那の最後の技だ 」


「終焉の太刀…… あの時の神来社さんと同じですね 私たちは、また何も出来ずに見ているしかないのですか 」


 良美がクロを抱いて、涙を流しながら呟いた。


「相手は神、それもあの破壊神シヴァです それに対抗するには、刹那さんのあの技に頼るしかないでしょう 」


 八千穂が良美を慰めるが、良美はまた目の前で失われる命を見る事が辛かった。


・・・ヒナ、よく見ておけよ もうお前に教える事はこれだけだ お前は立派な朱姫になれる ふふっ、澪さんの気持ちがよくわかるよ 澪さんも、あの時こんな気持ちだったのかな 後悔も何もない 私の後を継いでくれる者が確かにいる それだけで心が落ち着く 澪さんから私、そして私からヒナ、お前に受け継がれていく さあ、いくよ 最後の仕上げだ ・・・


 刹那は天空に向かって手を上げる。


「火神”アグニ” 来いっ 」


 月の空が真っ赤に染まり、巨大な炎の柱が刹那に向かって落ちていく。刹那の体が赤く激しく燃え上がった。


「刹那、これがお前の選んだ道か まったく、澪もお前も俺の見ている前で、これを使うとは どうするんだよ、なんて店長に謝ればいい 」


 大嶽丸の瞳からも涙が溢れている。橋姫がその涙をそっと拭き取ってあげていた。


「どうされたのですか、皆さん この、蓬莱さんの技では、破壊神には勝てないという事ですか? 」


 瑞穂が周囲のみんなの涙を流す表情を見て問いかけると、明日菜が首を横に振る。


「違いますよ、山仲さん 今、刹那さんが使おうとしているのは”終焉の太刀” この世の(ことわり)を超えた技です たとえ神といえど、この世に存在している以上防ぐ手立ては無いでしょう 」


「それなら、なぜ? 」


 瑞穂は、もう座り込んで涙を流している雛子を見る。明日菜もそんな雛子を見ながら話し出した。


「終焉の太刀は一度きりの朱姫にとっての最終奥義です 刹那さんの前の朱姫の神来社先輩も、最後にこの技を使ったそうです この技は使用した者の命を奪うのですよ 命を(かて)にした技なのです 絶対無比の強力な技ですが、自分の命も犠牲にしなければなりません 刹那さんは、この技を発動した後、この世界から消えていきます 」


 明日菜の言葉で瑞穂は言葉がなかった。いつもの人懐こい笑顔も消えている。


・・・そんな…… 西園寺さんも、蓬莱さんも、どうしてそこまで自分を犠牲に出来るの…… ・・・


 瑞穂には理解出来なかったが、以前英弥が喫茶店で言っていた言葉が思い出されていた。西園寺さんは神と英弥は言っていた。


・・・そうだ、元々あの人たちは人間ではなく神だったのかもしれない ・・・


 そう思うと、瑞穂の目には弥生と刹那の姿が神々しいものに見えてきていた。


「これは違うっ、違うぞっ これは澪が使った”終焉の太刀”ではないっ 」


 突然、大嶽丸が叫んだ通り、刹那はまだ腰を落とした構えに入っていない。まだ右手を天に突き出したままだ。


「火神”カークス” 来いっ 」


「火神”ゲルラ” 来いっ 」


「火神”アシャ” 来いっ 」


「火神”ヘスティア” 来いっ 」


「火神”ロギ” 来いっ 」


「火神”甕速日神” 来いっ 」


「火神……………… 」


 刹那の体に次々に炎の柱が落ちていく。刹那の体は太陽のように白く輝きだし、月面が融けだしていた。その刹那の姿に初めて破壊神シヴァが反応する。今まで瞑想するかのように閉じていた眼が大きく見開かれた。


最後の決戦がついに始まった。

更に強化した“終焉の太刀“で破壊神シヴァに挑む刹那。

もう戻れない命をかけた刹那の攻撃は……。


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